日向バカの影山の話
影山以外の部員たちの心は一つだった
影山が日向を好きなこと
(い、今さらァアアアア!?)
恐らく日向本人にはバレていないだろうがここにいる部員たちはみな知っている
ていうか何人かは、てっきり付き合ってるもんかとくらい思っていた。それくらい自然だった
彼女を作るあたり自分の気持ちに気づいていないことは明白だったが
その沈黙を破ったのはやはり部内1空気と後輩を大切にする菅原だった
「ちなみにショックってなんでショックなんだ?」
腕を組んで影山に尋ねる菅原に田中が焦る
「スガさん、深追いしない方がイイっすよ」
下手すると飛び火する、自分たちに。
「いやもういっそ、まとまったほうが俺としては安心するけどな」
漢気のある西谷は影山の恋推進派だ
しょんぼりしてる影山に応援するぞ!と背中を叩く西谷
「あ、あの日向本人にはバレてないですよね?」
まるでいつもの王様如き振る舞いはなりを潜めている。自分の思いがこの部員たちにバレていることを察したのか普段の彼とは考えられない姿だ
「大丈夫だと思うよ?日向鈍いし」
優しくフォローする山口にあからさまにホッとする影山
「で?王様は何がショックだったわけ?」
月島は話を進めようと、相変わらず口ごもる影山に早く先に進めろと促した
王様言うな、そう言ってから影山は答えた
「いや、俺男だし、日向も男だし、さすがに気持ち悪いだろ。女だったら片思いでも努力次第でなんとかなるかもしんねーけど、男じゃ無理だろうが。このままだと絶対あの女に盗られる」
(誰だこいつ!?)
部員全員、影山の弱音に身震いした。
こんな弱気の影山、確か入部をかけて3対3をやった時、影山が北川第一時代トスを上げた先に誰もいなかったことを話した時と類似していた
日向の隣を失いそうになっている影山にしてみれば、当然の反応であった
この思いを告げ、相棒の関係が破綻してしまう恐怖と、あの女に日向の隣を奪われる恐怖
確かに信頼関係は築いているが、日向が自分に恋愛感情を抱いているかは謎だ
影山は今まで以上に臆病になっていた
「気持ちわるっ」
あまりの弱気ぶりに月島は鳥肌を立てながら吐き捨てた
「はっきり言ってんじゃねぇ!」
影山は眼光を鋭くし、月島の胸倉を掴み上げる
まぁまぁと東峰が仲介に入り、影山は月島の胸倉を離した
月島はさも呆れたと溜息を一つ吐き、学ランの胸元を整える
「僕が言ったのは、君がホモで気持ち悪いとかじゃなくて君の情けなさに鳥肌が立ったダケ」
ツッキー優しい!と山口が言うと、うるさい山口と月島が答えた
「ゴメン、ツッキー!でもツッキーの言う通りだと思うよ?」
山口は影山に向き直って優しく言った
「あ?」
月島は山口に続いて話し始めた
「て言うか、今までの自分の行動振り返ってみた?君びっくりするくらいチビのそばにいたのに気づかなかったんだよ?それに周囲の人間は王様の気持ち知ってたんだよ?まずそこにショック受けなよ」
「やめろ、さすがに俺も凹んだ」
「だったらいいじゃない、何を今さら失うワケ?もういっそみんなにバレてるんだから、当たって砕けなよ」
まぁ砕けたら全力で笑ってやるケド
憎まれ口を叩きつつ、月島は影山を焚き付けた
「なぁ影山」
今まで様子を見守っていた菅原が顎に手を当てニヤニヤしながら影山に問うた
澤村は嫌な予感が過るのを止められなかった
「もういっそ、日向に素知らぬ顔でキスでもしちゃえばいいんじゃないか?日向を危険な女に近づけたくないし」
みないっせいに、え?!とした顔になった
「だ、大丈夫ッスか?そんなやり方」
「弱気やめろよー旭みたいになるぞ影山」
「スガ、あんまりだぞ」
東峰のガラスのハートを粉々にした菅原が影山の肩に手を置いて続けた
「日向なら大丈夫だべ。お前ら一度大きな喧嘩してるし、でもちゃんと仲直り出来たろ?信じてやれよ相棒を」
月島は
「日向がヤンデレ女か脳筋バレー馬鹿男のどっちかを選ぶかって話でしょ。くだらない。とっととくっつきなよ」
「ツッキー言い当てうまい!」
「テメェ、簡単に言いやがって。俺は日向が好きだが日向が俺を好きか分かんねぇんだぞ」
「王様隠す気なくなったんだ、よかったねぇ吹っ切れて。じゃあ君日向のことどう思ってるの?」
「あ!?だから俺は日向のことがー」
「俺のことが何だって?」
?!
一同びっくりしてその場で日向の方に向き直った。月島と山口以外みな驚いて反応を停止する
どうやら月島と山口は日向が坂ノ下商店まで歩いてくるのが見えていたようだ
この馬鹿騒ぎに乗じて、影山に日向が好きだと言わせようとしていたらしい
「なぁ、俺がなんだって?」
何も知らない日向は影山の顔を覗き込んだ。ニヤニヤする月島と山口、他のメンツはハラハラしながらその行く末を見守った
「きゅ、急に出てくんじゃねぇよ、ボゲェ!」
顔を真っ赤にしながら影山は王様から元に戻った。次いでに日向の頭を掴み振り回す。
「イテェよバカ!俺何もしてねぇだろ?!」
「お前ちっさいんだよ!踏み潰すぞ!ドついたろか!?」
「落ち着け影山!お前はチンピラか!」
「誰もお前の話なんかしてねぇよ!お前おせぇんだよ、変な奴につけまわされたらどうする!忘れ物なんかしてんじゃねぇよ!ボゲ日向ボゲェ!」
(ツンデレやめろ!素直にいけ!)
2人のやり取りを見ていた者(月島と山口除く)はなんとか穏便に物事が進むようにと願った
ちなみに月島と山口は地面に突っ伏して腹を抱えながら笑っている
そうしていると、ガラッと坂ノ下商店の扉が空いた
「お前らいつまで騒いでるつもりだ!さっさっと帰りやがれ!近所迷惑だ!」
扉から顔出した烏養にビビり、みな帰宅につこうと慌てて謝りながらその場を離れた
みなと別れたあと、澤村と菅原は東峰と別れ先ほどの話を始めた
「スガ、お前あんなこと言ってホントに大丈夫なのか?」
「んー?大丈夫だって!もう秒読みだったみたいだし」
菅原は澤村にニヤリとしながら答えた
秒読みとは?
「そういえばスガ、昨日は日向と遅くまで自主練したあと一緒に帰ったらしいな?」
昨日、澤村は用事があって、自主練もほどほどに先に帰っていたのだ。
「それがさー俺、帰りに日向から相談されてさ」
菅原はマフラーを正しい位置に直したあと白い息を吐き出した
「相談?日向が?部活のことか?」
澤村が日向に何か悩みがあること自体に驚いていた
もしや影山が言っていたあの女子のことだろうか?もうすでに日向に忍び寄っていたというのか
それにしては手が早すぎやしないか?
影山から聞いた限りでしかわからないが、とんでもなく人の話を聞かない狂愛染みた女なのは確かだ
日向以外の部員たち全員が女の恐ろしさを冬の寒さとは違う震えを感じながら聞いていた
澤村は自然と口を引き締めていた
「んー、部活っていうか影山のことかな?日向さ、昨日の昼休み体育館脇の通路歩いてたら、たまたま影山が彼女と抱き合ってるとこ見ちゃったんだって」
なんと間の悪い
多分事故かなんかだろうとすぐに澤村は理解した
なんせ影山は日向バカだ
多分気に入った相手にしか触らせない。言わずもがな、それは日向だけだと思うのだが