Lovin’you afterCCA13
動揺するアムロの頭をポンポンと撫ぜてクスリと笑う。
「初めてアンタと飲んだ日にさ、酔っ払って寝ちまったアンタを迎えに来たんだよ。あの男。っていうか、少し前から私達の話に聞き耳立ててさ、私がアンタに何かしないか見張ってた」
レズンがクスクスと思い出し笑いをする。
レズンの言葉に、アムロはあの日、途中から記憶が無く、朝起きたらシャアのベッドの中だった事を思い出す。
そして、シャアとの関係を知っているという事は、もしかすると自分の素性も知っているかもしれないと気付き、アムロはサッと血の気が引くのを感じる。
自分は幾百ものジオン兵を撃墜してきた連邦のパイロットだ。レズンにとって敵以外の何でもない。
「もしかして…私の素性も…知って?」
「ん?アンタが元連邦のアムロ・レイだって事かい?」
さらりと言うレズンにアムロは驚きを隠せない。
「レズン…少尉…」
アムロはカタカタと身体を震わせながら目を見開く。
「そんなに怯えなくてもいいよ」
レズンは震えるアムロの頬を優しく撫ぜる。
「何で…」
「ん?」
「私は…レズン少尉にとっては憎い敵でしょう?何でこんなの優しくしてくれるの?」
「まぁ、アンタと総帥とで出来てるって知った時は流石に腹が立ったさ。私の部下達は何の為に死んだんだってね。その辺はちゃんと総帥に文句言ってやったよ」
「シャアに?」
「ああ、まさかトップが敵のエースパイロットと出来てたなんて、裏切りどころの話じゃない。文句は言っとかないと」
「レズン少尉…」
「戦場で見たアンタは凄まじい力を持ったパイロットで、正直圧倒された。でも、だからこそアンタを倒そうと思った」
その言葉に、アムロが悲しい表情をする。
そんなアムロを慰めるように、レズンはアムロの頬を優しく撫で上げる。
「でもさ、あの時、たった一機でアクシズを押し返してるアンタを見て…この戦争は何だったのかと思ったよ。私たちは何をしようとしていたのかと…地球に隕石を落として沢山のアースノイドを殺し、人の住めない星にする…スペースノイドの為とはいえ、なんて自分勝手な事をしようとしていたのかってさ。アンタの想いに同調して一緒にアクシズを押し返したMS達の中には私の部下もいた。正直驚いたよ」
「そんな…私はただ…シャアに重い罪を背負って欲しくなかっただけで…」
アムロの言葉にレズンが目を丸くする。
「え?地球を守る為じゃ無くって?」
「そりゃ、地球には大切な人たちもいたから守りたいと思った。でも、何より純粋すぎて、極端な行動に出てしまったあの人を止めたかったんだ。あの人を追い詰めた原因は私にもあったから…」
アムロがギュッとシーツを握りしめる。
「私が弱かったからあの人を孤独にして…追い詰めた…私がバカだったから…」
アムロが両手で顔を覆って吐き出すように呟く。
「アンタが追い詰めたって…?」
レズンの問いに、アムロは顔を上げると、人体実験んでカイルを身篭ったこと、シャアが父親だと知ってジオンや連邦からカイルを守る為にとシャアの手を振り払った事…それらをポツリ、ポツリと告白する。
それを、最後までじっと聞いていていたレズンが、ギュッとアムロを抱きしめた。
「レズン少尉!?」
驚くアムロを、更にギュッと抱き締める。
「確かにアンタのした事は間違っていたかもしれない。でも人間なんだから選択を間違えることなんて幾らでもある。だからそんなに自分を責めるな。アンタは良くやった、それを誇っていい、私はアンタを誇りに思う」
レズンの言葉に、アムロの瞳から涙が溢れ出す。
弱く、愚かな自分を認めてくれる人がいる。
それが、とても嬉しかった。
「私はアンタが好きだよ。友人だと思ってる。私が出会ったアムロは連邦のパイロットじゃなく、メカニックのアムロだ。そこから始まった関係だ。それでいいだろう?」
「レズン少尉…!」
「大体こんな泣き虫で頼りないのが連邦の白い悪魔だって言われたってねぇ」
レズンがクスクス笑いながらアムロの鼻をツンっと突つく。
「ギュネイとの模擬戦を見てアンタがアムロ・レイなんじゃないかって気付いたけど、こんな姿見せられたら恨み言なんて言えないよ」
「え?模擬戦で気付いてたの!?」
「私をバカにするんじゃないよ、MSの動きを見れば一目でわかる」
「ああ、もう!やっぱり模擬戦なんて引き受けなきゃ良かった…エドは何考えてたんだろ」
「あの狸親父が何を考えてたか知らないが、私が気づく事は承知の上だったみたいだね」
「え?」
「まぁ、アンタの事を思ってした事だって言うのは確かだろうけどね」
「エド…」
「と、言いつつ強化人間とニュータイプの戦闘データをちゃっかり取ってたから、ただのメカ馬鹿かもしれないけどな」
「ははは、確かに」
クスクス笑うアムロに、レズンは少しホッとする。
「やっと笑ったね、アンタにはその方が似合う。過去はどうあれ、今は平和にここで生きているんだ。それを楽しみなよ」
「私が幸せになっても良いのかな…」
「バカだね。幸せになっちゃいけない人間なんていない。あのバカ総帥だって一緒だよ」
自軍のトップを馬鹿呼ばわりするレズンに笑いが込み上げる。
「ふふふ、シャアを馬鹿呼ばわりする、裏表の無いレズン少尉のそういうところ結構好きだよ」
「アンタの旦那だろうが総帥様だろうが、私は馬鹿だと思う奴は馬鹿呼ばわりするよ」
「ははは、そうだね。それがレズン少尉の良いところだ!」
二人は笑い合いながらベッドへと倒れこむ。
「なんか目が覚めちゃったな。飲み直すか!」
「ええ!レズン少尉まだ飲むのか!?」
「ちょっとだけだよ」
そう言いながらアムロも付き合わされ、夜が更けていった。
翌朝、レズンの家のインターホンが鳴り響く。
「ああ?一体誰だいこんな朝っぱらから!」
ほぼ下着状態のレズンが玄関へと歩いていく。
「ちょっ!レズン少尉、その格好でドアを開けるのは不味くない!?」
同じくほぼ下着状態のアムロがレズンを引き止めようとするが、レズンは気にする事なく玄関のドアを開ける。
「はいはい、今開けるよ」
ガチャリと開けた扉の前には金髪に真っ黒なサングラスをしたシャアと、息子のカイルが立っていた。
「朝早くにすまない、アムロを迎えに来た」
キャミソールにショーツだけのレズンの姿を気に留める事も無くシャアがレズンに話し掛ける。
「ああ、やっぱりアンタか」
そんなシャアを腕を組んで見上げるレズンが、シャアの後ろで顔を真っ赤にしているカイルに気付く。
「ふふ、この子がカイルかい?本当にアンタそっくりだね。って言うか、アンタもこの子くらい可愛い反応見せなよ」
仮にも男なら、下着状態の女性を前にして無反応とは失礼だ。
「女性の家に突然押しかけてすまない。昨夜、カイルがアムロが夢に魘されていると言ったのでな。本当は夜中だろうと迎えに行こうと思ったが、流石にそれは非常識だと思いこうして朝になってから訪れた」
「偉そうに言ってるけど、こんな朝っぱらに来るのも充分非常識だよ」
「それはすまない」
全くすまないとは思っていない態度のシャアに、レズンが溜め息を吐く。
「アンタさぁ、そのアムロ以外はどうでも良いって言う態度なんとかしなよ」
「事実、どうでも良いから仕方がない」
作品名:Lovin’you afterCCA13 作家名:koyuho