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花の色

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「すみません、この城の主に会いたいのですが」


錬兵場から戻る途中、城門が騒がしかったのでふらりと顔を覗けると、見たことのない軍服を纏った小柄な青年が立っていた。

「何かあったのか?」
「あっ、親衛隊長殿!…こちらが閣下にお会いしたいと」
「総帥に?…お前、名は?」

謎の軍人は煙に巻くように曖昧な笑みを浮かべる。

「名乗っても意味がありますまい。…害を成すつもりは御座いませんし、貴方に付いて来て頂いても結構です。とにかくお目通りを」

丁寧な物腰でいながら頑くなな様子が見て取れる。
リンは仕方ないとばかりに溜め息を吐くと、ここは任せたと兵に後を任せ、青年に着いて来いと促した。

沈黙のまま廊下を歩く。
一定の軍靴の音を響かせながら執務室へと近付いていった。

「話は通してみるがどうなるかは知らない。暫くここで待って貰うよ」
「わかりました」

扉の横に立ち待つ青年を尻目にノックをして部屋に入る。

「リン?どうかしたか?」
「アキラ、兄貴に客なんだけど…」
「総帥に?…そんな予定はなかった筈だが」
「見たことのない軍服を着てたよ」

軍人らしいと聞き、アキラの眉根が寄った。

「ここに通せばいい。そうすればその男の目的も判る」
「っ……総帥?いつの間に出ていらっしゃったのですか」
「わざと気配消すなんて、質悪いよなぁ…兄貴は」

いつの間にか立って居たシキは愛刀を片手に獰猛に笑って見せた。


応接間に通された青年は特にきおった様子もなく、ただうっすらと笑みを浮かべているだけだ。
アキラはその様子を珍しく感じながら無表情に観察する。
シキとその青年が向い合い座り、シキの背後にリンとアキラが立った。

「お目通りをお許し頂き有り難く存じます」
「前置きはいい。本題は何だ?」

シキが遮るように言うと青年は困ったように笑う。

「…私、人としての名を本田菊と申します」
「人として、だと?」
「信じて頂けるか判り兼ねますが……本来の名を日本、と」

あのシキがその言葉を飲み込むまでに時間が要ったくらいには衝撃的な言葉だった。
リンもアキラも唖然とするばかりだ。

「この国をお纏めになりますれば、次は世界へ、とお考えでしょう。外には私と同じ存在がいらっしゃいます」
「なるほど……お前が居なければ国の代表として認められないということか」

皮肉気にシキが言えばニコリと本田が笑う。

「今、どれだけの国があるのか知りませんが、大方の国には顔で分かって頂けますよ」
「ちょっと待って下さい」
「何だ?」
「その話を鵜呑みにして大丈夫なのですか」

アキラの疑問は尤もであり、リンも本田の言葉に懐疑的だ。

「そうですね、証明せよと言われると難しいのですが……それにしても、お育ちに成りましたね」

急な話題の転換に目を見開く。

「シキ様もリン様もお父上より大きく成られて…昔は私の腰程でしたのに」

懐かしい、と笑いかけられるがシキもリンもその様なことを言われる理由も思い当たらないので黙するのみだ。
「あの方は私の様なものに、息子を鍛えろ等と無茶を仰るのでお断りするのに苦労したものです」

その言葉にリンが驚きで声をあげる。

「もしかして、菊ちゃん?」
「おや、覚えてお出ででしたか。一週間かそこらだったと思いましたのに」
「えー、マジ?変ってなさ過ぎ!」
「あの時か…」

シキの記憶にもある様で微かに驚きを顕にしている。

「私は長くこの姿ですから。……アキラ様は色々と御座いましたがお元気そうで安心致しました。nと呼ばれて居ましたか…あの方と共に居る所を遠目に見たことが御座いましす」

nの名に空気が揺れ動く。しかし動じた様子もなく、本田はただ微笑むだけだ。
シキがふぅ、と小さく息を吐く。

「真実か否かは直ぐに分かるだろう。取りあえずはよろしくと言っておこうか」
「ありがとうございます」

尊大なシキの言葉に怒るでもなく、ただ笑って頭を下げる本田は事実はどうあれ、ここに居る誰よりも大人であることに違いはなかった。

「ところで何故軍服を着て居るのだ?」
「あぁ…普段は和装で過ごして居ますのであまり衣装が御座いませんで…動き易く、着慣れたモノと言うことで昔の服を引っ張り出してきた次第です」

その話を聞いてニヤリとシキが笑う。

「ということは戦える、ということだな」
「総帥!?」
「すぐに場所を確保しろ」
「さっき練兵場が空いたばっかりだけど…」
「よもや、ただ無為に永く生きてきたわけはあるまい?」
「変りませんね。良いでしょう、稽古をつけて差し上げますよ」

本田はニッコリと笑った。


練兵場で向かい合うシキと本田は二人とも日本刀を手に佇んでいた。
真剣では危ないのではないかとアキラは制止したが、このくらいでどうにかなるような輩を国とは認めないというシキの言葉と裏を見せない本田の笑みに押され今の状況に至る。
本田も展開を悟っていたのか、日本刀を持参していた。

「合図は入りません。いつでもどうぞ」
「そうか」

ハラハラと見守るアキラとリンを尻目に本田は笑みを浮かべたままシキに相対している。
シキも獰猛に笑うと一気に抜いた。
アキラ達でさえ見たことないほどの素早さで切りかかるシキに対して本田は動揺一つせず刀を抜くと受け流す。
受け流した力の反動を利用して攻めに転じる。
払い、流して、シキの攻撃を軽くいなしていく。

「そろそろ終わりにしましょう」

本田がそう言うや否や刀が跳ね上がり、シキの刀が弾き飛ばされた。
そして、シキの首元に刀が突きつけられる。

「ふふ・・・・・・・まだまだ若いものには負けませんよ」

アキラもリンも唖然としている。
あのシキが子供のようにあしらわれたのだから。
本田が刀を引き、鞘に収める。

「伊達に2000年近く刀は握っていません。貴方も一緒に遊びますか?nさん」
「・・・・・・遊ぶ気はない」

本田が言った言葉に応えが返る。
入口に目をやるとnとエマが並んでいる。

「何時の間に・・・・・」

アキラが呟くとエマが満面の笑みを浮かべて近づいてくる。
nもその後をトテトテと着いていく。

「久しぶりだな、アキラ。相変わらず可愛いぞ」
「ん・・・・・また会えたな」
「来るなら連絡してくれればよかったのに・・・・・」
「それにしても、あの男は弱いにも程があるな」
「なんだと貴様・・・・」

ほのぼのとした隣で殺伐とした空気が漂い、その合間で冷気が発生していた。

「菊ちゃんは強いんだなぁ・・・・」
「日本は・・・・俺を止めれる唯一だった」
「えっ、それって・・・・・・」
「・・・・戦場でお会いしまして、国民の皆様が減りすぎますと私も困りますのでやりすぎる前に止めさせていただきました」
「それって・・・・笑顔で言う言葉じゃないよ」
「エマも逃がしてくれた・・・・・感謝している」
「そんなこと言われる云われは有りませんよ。私は国民の為に存在するのですから」
作品名:花の色 作家名:あきら