As you wish / ACT1
Act.1~関わるなと言われても~
「いいか帝人、この池袋ライフを生き抜くには、絶対に関わっちゃいけない人間っていうのはいるから覚えておけよ?」
紀田君は紀田君だなあ。
数年ぶりに再会した幼馴染の言葉に相槌を打ちながら、帝人がのんびりと思ったのはそんなことだった。それだって何度も思って、再確認して、嬉しくなってもう一度思って、と何回も繰り返しているのだがそう思わないではいられない。
紀田君は、紀田君だった。
今自分が池袋にいると言う事実よりも、そっちのほうがずっと嬉しいことだ。
竜ヶ峰帝人は、今日池袋へ引っ越してきたばかりのおのぼりさんだ。まだ自分のすむ予定の部屋へさえ足を踏み入れておらず、送った荷物が届いているかさえも確認していない。けれどもそれはとりあえずどうでもよかった。自分には家の場所までの地図と鍵があり、そして今目の前には親友が・・・紀田正臣が居るのだから。
「まずはこの俺・・・」
「関わっちゃいけない人って、誰?」
すでに慣習となった正臣への鋭い切り返し。何事かわめく言葉を聞き流して、もう一度先を促さなければ、きっと幼馴染は満足して話しださないだろう。そうしてその通りの展開になると、帝人はやっぱり紀田君だなあと思って嬉しくなってしまう。
やっぱり、いいなあ。出てきてよかったなあ。
「んっとに、お前その俺に対する鋭いツッコミ技術をもっと他に生かすといいと思うぞマイフレンド」
「だって紀田君のボケってずたずたにしてやりたくなるんだもん。そんなことよりさっきのだけど」
「え、何それツンデレ?それともドS?」
「関わっちゃいけない人って?」
「スルー!?せめて反応くらいして・・・!」
愛が痛いぜ帝人!と大げさに言う正臣を、早く言ってくれないかなあと頬づえをついて見つめる。帝人は変わったものが好きだ。日常からこぼれ落ちる非日常が好きで、関わっちゃいけないと言うからには相当変わっているのだろうと目を輝かせているのだ。
「なーんでそんなにうれしそうなんだよー。んー、とりあえずまずは平和島静雄だな。あいつには近づかないほうがいい」
「どうして?」
「自販機が空を舞い、道路標識が飛んでくる、って言ったら、信じるか?」
ニヤリ、といたずらっ子のような笑顔を見せる正臣の顔を分析して、それが本当であると推測した帝人は、なにそれすごい!と子供のように顔を輝かせた。
「紀田くん、それってどこに行けば見れるの!?」
「だーかーら、関わっちゃいけない人だっつーの、人の話を聞けよ」
ていっ、とデコピンしてくるのを、ひょいとよける。お前はー!とまた声が上がった。
ああ、本当に紀田君だ。
帝人はにこりと笑いかけながらそう思い、それからはっと気づいて口を開いた。
「で?」
「ん?」
「ん?じゃないよ。まずは、ってからには、他にもいるんでしょ?」
「ああ・・・帝人、お前相変わらず、妙なとこさといよなあ」
普通この流れだったら、流されるぜ?なんて言いながら、正臣は頭を掻いた。
「まあ、もう一人のほうは新宿が拠点だから。たぶん会う機会は少ないと思うけど・・・折原臨也って人には、気をつけろ」
それは、正臣にしては真剣な目で、冗談めかした言葉に織り交ぜられた本気を垣間見せる、とても真摯な言葉だったのだけれども。
「え?臨也さん?あの人有名なの?」
すっとんきょうな声を上げた帝人に、その真剣なまなざしはあっけにとられ、手にしていたペットボトルを思わずごとんと落っことすほどの衝撃に、正臣は襲われたのだった。
「・・・え?」
ぎぎぎ、と音がしそうなぎこちなさで、正臣は帝人を凝視した。
今コイツ、なんつった?
マイフレンド、お前に何があった。
「え?・・・あの、えっと帝人さん・・・?」
「何で敬語」
「あ、いや、あの今、俺の聞き間違えじゃなかったら・・・」
ごくり、正臣は唾を飲み込み、恐る恐ると言うように口にする。
「お前・・・臨也さんと、知り合いなのか?」
アーメン、どうかあんな厄介なのと幼馴染が関わりありませんように!祈った正臣にきょとんと首をかしげ、帝人は何でそんなことを、とでも言うようにあっさりと、
「そうだけど」
と肯定した。
「・・・帝人!悪いことは言わないから今すぐやめておけ!あの人はダメだ、あの人は!」
「ちょっと紀田君、ゆすらないでよ!」
僕今ジュース持ってるんだから!とふたの開いたペットボトルを指差して怒る帝人に、そんなことはどうでもいいから!と詰め寄る正臣。もしかしてはたから見ればケンカっぽい光景だったかもしれない。
「お前は知らないだろうけど!臨也さんに関わると不幸になるっていうか、いろいろ損だから!な!」
必死に言い募る正臣の様子に、どうやら本気で心配してもらっているらしいことを察した帝人は、うーん、と眉間にしわを寄せた。
「何、あの人なんかしでかした?」
「っつーか物騒な噂しか聞かない」
「え、ほんとに?叱っておいたほうがいい?」
「おま、だから関わるなって!」
危機感の薄い帝人に、どうすれば臨也の危なさが伝わるのか、と正臣は頭を抱えた。しかしそもそも、どういう知り合いなんだ。あの主成分は胡散臭さ!みたいな臨也に、叱るってお前。
「大丈夫だよ、ちょっとネジが2・3本飛んでるけど、別に僕には害のない人だから。・・・いや、別の意味で害はあるけど、まあそれはおいといて」
「意味深なんだけど!っつか、何、どういう知り合い?端的に10文字で説明せよ!」
「ペットと飼い主かな」
ぺっととかいぬしかな。ううわぴったり10文字で説明した。愕然としてから、いや、注目すべきはそこじゃない!と正臣は頭を振る。
「ちなみに、どっちがペット・・・?」
なんか答えを聞くのは怖い。気がする。けど、聞かなきゃ何もわからない。
帝人は何言ってるのとでも言うように、笑いながら答えた。
「そんなの、僕が飼い主に決まってるでしょ」
ですよねー、とは、いえなかった。
しゃれにならん。マジ、しゃれになんないです帝人さん。
今日も今日とて池袋では、もはや日常茶飯事の、けれども相当非日常的な戦いが繰り広げられている。
「いぃざぁあああやぁあああ!」
ドガバキベシャ、と派手な効果音つきで、自販機とゴミ箱がガンガンぶん投げられているのを、ひょいひょいと軽快に避けながら、臨也は大きなため息をつい た。
「ちょっとシズちゃーん?ほんっとに今日はもうやめようよ。俺の大事な大事な大事な用件がひかえてるっていうか、もう既に出遅れ気味って言うかさあ」
うんざりとした様子で、さっきから飛ばされる物をよけまくっている臨也は、珍しく反撃の手を出さないままだ。ここでナイフを出したら余計長引くことが分かっているからだろう。本気で時間を気にしているようで、何度も腕時計に視線を送るのだが、それで引き下がるようなら平和島静雄ではない。ああもう。
「ちょこまかちょこまかうるせえんだよ!とっとと地獄へ落ちやがれ!」
「だーから、今日は用事があるんだって言ってるじゃん!いい加減逃がしてよ!」
「うるっせえええ!」
「いいか帝人、この池袋ライフを生き抜くには、絶対に関わっちゃいけない人間っていうのはいるから覚えておけよ?」
紀田君は紀田君だなあ。
数年ぶりに再会した幼馴染の言葉に相槌を打ちながら、帝人がのんびりと思ったのはそんなことだった。それだって何度も思って、再確認して、嬉しくなってもう一度思って、と何回も繰り返しているのだがそう思わないではいられない。
紀田君は、紀田君だった。
今自分が池袋にいると言う事実よりも、そっちのほうがずっと嬉しいことだ。
竜ヶ峰帝人は、今日池袋へ引っ越してきたばかりのおのぼりさんだ。まだ自分のすむ予定の部屋へさえ足を踏み入れておらず、送った荷物が届いているかさえも確認していない。けれどもそれはとりあえずどうでもよかった。自分には家の場所までの地図と鍵があり、そして今目の前には親友が・・・紀田正臣が居るのだから。
「まずはこの俺・・・」
「関わっちゃいけない人って、誰?」
すでに慣習となった正臣への鋭い切り返し。何事かわめく言葉を聞き流して、もう一度先を促さなければ、きっと幼馴染は満足して話しださないだろう。そうしてその通りの展開になると、帝人はやっぱり紀田君だなあと思って嬉しくなってしまう。
やっぱり、いいなあ。出てきてよかったなあ。
「んっとに、お前その俺に対する鋭いツッコミ技術をもっと他に生かすといいと思うぞマイフレンド」
「だって紀田君のボケってずたずたにしてやりたくなるんだもん。そんなことよりさっきのだけど」
「え、何それツンデレ?それともドS?」
「関わっちゃいけない人って?」
「スルー!?せめて反応くらいして・・・!」
愛が痛いぜ帝人!と大げさに言う正臣を、早く言ってくれないかなあと頬づえをついて見つめる。帝人は変わったものが好きだ。日常からこぼれ落ちる非日常が好きで、関わっちゃいけないと言うからには相当変わっているのだろうと目を輝かせているのだ。
「なーんでそんなにうれしそうなんだよー。んー、とりあえずまずは平和島静雄だな。あいつには近づかないほうがいい」
「どうして?」
「自販機が空を舞い、道路標識が飛んでくる、って言ったら、信じるか?」
ニヤリ、といたずらっ子のような笑顔を見せる正臣の顔を分析して、それが本当であると推測した帝人は、なにそれすごい!と子供のように顔を輝かせた。
「紀田くん、それってどこに行けば見れるの!?」
「だーかーら、関わっちゃいけない人だっつーの、人の話を聞けよ」
ていっ、とデコピンしてくるのを、ひょいとよける。お前はー!とまた声が上がった。
ああ、本当に紀田君だ。
帝人はにこりと笑いかけながらそう思い、それからはっと気づいて口を開いた。
「で?」
「ん?」
「ん?じゃないよ。まずは、ってからには、他にもいるんでしょ?」
「ああ・・・帝人、お前相変わらず、妙なとこさといよなあ」
普通この流れだったら、流されるぜ?なんて言いながら、正臣は頭を掻いた。
「まあ、もう一人のほうは新宿が拠点だから。たぶん会う機会は少ないと思うけど・・・折原臨也って人には、気をつけろ」
それは、正臣にしては真剣な目で、冗談めかした言葉に織り交ぜられた本気を垣間見せる、とても真摯な言葉だったのだけれども。
「え?臨也さん?あの人有名なの?」
すっとんきょうな声を上げた帝人に、その真剣なまなざしはあっけにとられ、手にしていたペットボトルを思わずごとんと落っことすほどの衝撃に、正臣は襲われたのだった。
「・・・え?」
ぎぎぎ、と音がしそうなぎこちなさで、正臣は帝人を凝視した。
今コイツ、なんつった?
マイフレンド、お前に何があった。
「え?・・・あの、えっと帝人さん・・・?」
「何で敬語」
「あ、いや、あの今、俺の聞き間違えじゃなかったら・・・」
ごくり、正臣は唾を飲み込み、恐る恐ると言うように口にする。
「お前・・・臨也さんと、知り合いなのか?」
アーメン、どうかあんな厄介なのと幼馴染が関わりありませんように!祈った正臣にきょとんと首をかしげ、帝人は何でそんなことを、とでも言うようにあっさりと、
「そうだけど」
と肯定した。
「・・・帝人!悪いことは言わないから今すぐやめておけ!あの人はダメだ、あの人は!」
「ちょっと紀田君、ゆすらないでよ!」
僕今ジュース持ってるんだから!とふたの開いたペットボトルを指差して怒る帝人に、そんなことはどうでもいいから!と詰め寄る正臣。もしかしてはたから見ればケンカっぽい光景だったかもしれない。
「お前は知らないだろうけど!臨也さんに関わると不幸になるっていうか、いろいろ損だから!な!」
必死に言い募る正臣の様子に、どうやら本気で心配してもらっているらしいことを察した帝人は、うーん、と眉間にしわを寄せた。
「何、あの人なんかしでかした?」
「っつーか物騒な噂しか聞かない」
「え、ほんとに?叱っておいたほうがいい?」
「おま、だから関わるなって!」
危機感の薄い帝人に、どうすれば臨也の危なさが伝わるのか、と正臣は頭を抱えた。しかしそもそも、どういう知り合いなんだ。あの主成分は胡散臭さ!みたいな臨也に、叱るってお前。
「大丈夫だよ、ちょっとネジが2・3本飛んでるけど、別に僕には害のない人だから。・・・いや、別の意味で害はあるけど、まあそれはおいといて」
「意味深なんだけど!っつか、何、どういう知り合い?端的に10文字で説明せよ!」
「ペットと飼い主かな」
ぺっととかいぬしかな。ううわぴったり10文字で説明した。愕然としてから、いや、注目すべきはそこじゃない!と正臣は頭を振る。
「ちなみに、どっちがペット・・・?」
なんか答えを聞くのは怖い。気がする。けど、聞かなきゃ何もわからない。
帝人は何言ってるのとでも言うように、笑いながら答えた。
「そんなの、僕が飼い主に決まってるでしょ」
ですよねー、とは、いえなかった。
しゃれにならん。マジ、しゃれになんないです帝人さん。
今日も今日とて池袋では、もはや日常茶飯事の、けれども相当非日常的な戦いが繰り広げられている。
「いぃざぁあああやぁあああ!」
ドガバキベシャ、と派手な効果音つきで、自販機とゴミ箱がガンガンぶん投げられているのを、ひょいひょいと軽快に避けながら、臨也は大きなため息をつい た。
「ちょっとシズちゃーん?ほんっとに今日はもうやめようよ。俺の大事な大事な大事な用件がひかえてるっていうか、もう既に出遅れ気味って言うかさあ」
うんざりとした様子で、さっきから飛ばされる物をよけまくっている臨也は、珍しく反撃の手を出さないままだ。ここでナイフを出したら余計長引くことが分かっているからだろう。本気で時間を気にしているようで、何度も腕時計に視線を送るのだが、それで引き下がるようなら平和島静雄ではない。ああもう。
「ちょこまかちょこまかうるせえんだよ!とっとと地獄へ落ちやがれ!」
「だーから、今日は用事があるんだって言ってるじゃん!いい加減逃がしてよ!」
「うるっせえええ!」
作品名:As you wish / ACT1 作家名:夏野