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始まりからはじめよう

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始まりからはじめよう


「なぁ…もう一度さぁ…始まりからはじめてみないか?」

アクシズの落下を阻止したものの、νガンダムとサザビーの脱出ポッドは引力に引かれて地球に落ちた。
νガンダムは大気圏突入に対応していたが、サザビーとの戦闘で損傷の激しかった機体は何とか大気圏は突破したものの、制御を失い地上に激突して大破した。
νガンダムのマニピュレータで守られていたサザビーの脱出ポッドも同じく激しい衝撃を受け、即死ではなかったものの、中に乗っていたシャアも瀕死の重傷を負っていた。
機体から何とか這い出した二人は、機体の側で背中を合わせて座り込む。
「こ…な…ところで終…わるのか!…まだ…何…も成し…遂げ…ては…いないのに…」
手元の砂を握り、シャアが唇を噛みしめる。
二人が今いるのは何処かの海岸だろう。
空が夕日に染まり、水平線へと太陽が沈もうとしていた。
肺を損傷しているのか、荒い息を吐きながら、シャアが悔しそうに顔を歪める。
そんなシャアを見つめ、アムロが呟く。
怪我の状態から、シャアの命は間もなく尽きるだろう。その前に、どうしても告げておきたかった。
「なぁ…もう一度さぁ…始まりからはじめてみないか?」
「ア…ムロ?」
話をするのも苦しそうな息の下から背後のアムロの名を呼ぶ。
アムロもまた、脇腹から流れる血を押さえながら途切れ途切れに言葉を紡ぐ。
「お…互い…さ…もうすぐ…命は…尽きるけど…生まれ変わったら…さ…今度は…ちゃんと…貴方の手を取るよ…」
「ア…ム…」
アムロは側にあるシャアの手を握り、シャアに語りか掛ける。
「今生では…さ…色んなしがらみや…意見の食い違いがあって…貴方の手を取れなかった…でもさ…別に貴方を…憎んでいた訳じゃ…ない…ゴホっ…」
ゴホゴホと咳き込みながらも、アムロが言葉を続ける。
「本当は…貴方が…好きだった…。貴方と…共に…歩みたか…った…」
その言葉に、シャアが顔を上げアムロの方へと視線を向ける。
「なぁ…約束…してくれないか?次に…生まれ変わった時も…俺に…手を…差し伸べて…くれよ…」
「ふ…ふふ…勝手…だ…な…」
「そう…かも…な…。でも…本心…だ…」
シャアの手を握る手に力を込める。
「ダメ…か…?」
シャアは浅い息を吐きながらクスリと笑う。
「いい…だろう…、必ず…君を…見つけ…だし…君を…今度…こそ…」
そこまで言いかけ、シャアの言葉が止まる。
「シャア…?」
握るシャアの手から、ゆっくりと力が抜けていく。
そして、ズルりとシャアの身体がアムロの膝の上に倒れこんで来た。
「シャア?…シャア…シャア…」
血で汚れたシャアの顔を拭きながら、その名を呼ぶ…。しかし、もう二度とあの美しいスカイブルーの瞳が開くことは無かった。
「シャア!」
アムロの瞳から涙が零れ、シャアの顔に降り注ぐ。
「うっ…く…約束…だ…必ず…」
アムロもまた、薄れゆく意識の中でシャアに約束する。
次の世では、必ずこの人の手を取ろうと。


ーーーーーー

それから五年後、二人は地球のとある場所で再会する。
シャアは五歳、アムロは…今、産まれたばかりの赤ん坊だった。
「どういう事だ?」
何故か従兄弟として生まれ変わった二人は、こうして再会した。
シャアは物心ついた頃からシャア・アズナブルとしての記憶を持っており、一緒に死んだアムロを探していた。
子供の力で各コロニーを探す事など出来なかったが、アムロの存在を感じられる自信があった。おそらく、過去の自分のニュータイプ能力は結局開花しなかったが、今生では早いうちから開花したのだろう。
人の思惟や存在を感じる事ができた。
「これがニュータイプの感覚なのか…アムロはこの感覚を持っていたのだな」
そんな事を考えながら、全宇宙に向かって意識を飛ばし、アムロを探した。
しかし、どうしてもアムロは見つからなかった。
そのアムロが、自分よりも五年も遅れてすぐ側に生まれ変わって来たのだ。
この時間の誤差に疑問が湧き上がる。
しかし、ようやくめぐり逢えたアムロに嬉しさが込み上げる。
「おそらく数年もしたら彼も記憶を思い出すだろう。その時に問い詰めるとするか」
それから十五年、アムロは記憶を取り戻す事は無かったが、シャアはアムロの側から離れず、共に過ごした。

「シャア!来週の俺の誕生日、一緒に海に行かないか?」
「海?」
「ああ、昨日ニュースで流れた所なんだけど、すっごく綺麗な所だったんだ。ちょっと遠いけど一泊くらい何処かで宿を取っていけば行けるくらいの距離なんだ」
「別に構わないが、叔父さんたちと誕生日は祝わないのか?」
「それが父さん達、その日に親戚の結婚式が入っちゃって俺一人なんだ」
「そうか、それならば構わないか」
「やった!ありがとう、シャア」
シャアはカレッジをスキップで卒業し、今は起業して独り立ちしている。
アムロも本来はまだハイスクールの学生だが、こちらも優秀な成績ですでにカレッジへと進んでいた。

当日、二人はシャアの運転するエレカで目的の海へと向かった。
思ったよりも距離があり、目的の地に着いた時には陽が傾き始めていた。
「思ったより時間が掛かっちゃったね」
「そうだな、だが夕食までには宿に着けそうだ」
「うん」
海岸線を走りながら、アムロは海を見つめる。
そして、目的の海に着いた時、夕陽が水平線へと沈もうとしていた。
その光景を見つめ、シャアは息を飲む。
「…っ…ここは!」
その海岸は、十五年前にシャアとアムロが墜落し、命を落とした場所だった。
言葉を失い海を見つめていると、隣のアムロが海に向かってふらふらと足を進める。
「アムロ…?」
それを追いかけ、アムロの後ろに追いつくと、アムロの足元に雫がポタポタと落ち、砂に吸い込まれていくのが見える。
「アムロ?」
アムロの顔を覗き込むと、アムロが両目一杯に涙を溢れさせ、夕陽を見つめていた。
「…シャ…ア…シャア…」
カタカタと肩を震わせるアムロを思い切り抱き締める。
「アムロ!」
「シャア…俺…約束…ここで…」
ポロポロと涙を流すアムロを、シャアは優しく抱き締める。

少し落ち着いたアムロが、ゆっくりと歩みを進め、ある場所で立ち止まると、そこに座り込む。そこは、正にシャアが命を落とした場所だった。
シャアがそんなアムロの横に座ると、アムロがポツリ、ポツリと語り始める。
「あの時…貴方の命が消えて行くのが分かった…。でも…貴方、凄く生に未練があって…このままじゃ魂が浄化出来ないと思ったんだ」
確かに、あの時の自分は志し半ばに倒れた事に憤りを感じ、気持ちを昇華できずにいた。
「だから…貴方に…未来の希望を持って貰いたかったんだ」
「未来?」
「あの時…刻が見えた…ララァと同じように刻を超えて…未来を見た…」
「刻を超えて?」
「ああ、未来の俺は貴方と共に居た…でも、貴方が未練を残したままで浄化出来なければ、その未来には辿り着けない事も感じた」
「君やララァには…そんなものまで見えるのか?」
シャアの問いに、アムロがクスリと笑う。
「あんなの見えたの、あの時が初めてだよ」
「そうか…だが、お陰で私はこうして新たな生を受ける事が出来た」
作品名:始まりからはじめよう 作家名:koyuho