黄金の太陽THE LEGEND OF SOL28
「そのデュラハンは、姑息な手を使ってまでどこに行ったんだ? それが分からないことには……虱潰しにするしかないのか?」
「それには及びませんよ、デュラハンの位置は特定できています」
イワンが言った。
「本当か!? でもどうして分かるんだ?」
「姉さんが探っていてくれたのです。デュラハンの術中にはまる前に姉さんは離脱して、逃げるデュラハンを予知のエナジーで行く先を追っていたようなのです」
そういえば、と一同はハモがここにいないことに気が付いた。メガエラの暴走やガルシアの術の習得など、様々な事が原因で、ハモがいないことが分からなかったのだ。
しかし、イワンにだけは、ハモのエナジーによって彼女の声が心の中に響いていた。
イワンは目を閉じながら、エナジーの光に包まれていた。遠く離れた場所からエナジーによってやって来るハモの声を感じ取る。
「デュラハンは、ここより遥か東の方角へ逃げているようです」
イワンは、ハモから伝わってきた情報を口にする。
「イワン、ハモ殿の声を俺達に届けることはできないのか?」
ガルシアは訊ねた。
「連続して『テレポート』や『プリディクト』を使用したせいで、姉さんはエナジーがだいぶ少なくなってしまったようです。なのでボクに届けるのが精一杯……」
ふと、イワンに最後の交信が届いた。しかし、それは最後まで言葉を紡ぐことなく途絶えてしまった。
「姉さんのエナジーが尽きてしまったようです。ここを出ましょう。姉さんは船にいます。後の事はそこで直接教えてくれるようです」
「だったら話は早い、船に戻ってハモ様に会いに行くぞ。ヴィーナススターも回収したことだし、ここにはもう用はない」
ロビンは提案する。皆はこれに満場一致で賛成した。
「そうだな、デュラハンを追わねば。では『リターン』でここからでよう。たくさんのエナジーが必要になるが、今は急ぐぞ」
ガルシアは言い、エナジー発動の準備をした。
このエナジーは、どれほど迷宮の奥深くに入り込もうと、光のある外へと飛ばすものだった。
性質的には『テレポート』と似たようなものではあるが、このエナジーは違い、飛んでいく位置を正確に知らなくても異次元などへは飛ばされない。必ず外部へと出ることができるのである。
しかし、地繋がりで外へと出る地のエナジーでありながら、『テレポート』のような風のエナジーと似たような事をするために、消費する精神力はとても大きかった。
「それなら手を貸すぜ、ガルシア。お前一人じゃここにいる全員を移動させるのはキツいだろう?」
同じエナジーを使うことのできるロビンは、ガルシアへ協力を申し出た。
「そうだな、そうしてもらえると助かる。ありがとう、ロビン」
「礼には及ばないさ。さて、それじゃあ一気に行くか」
ロビンはエナジーの光を放った。これに当たった者は全て『リターン』の効力を受けられる。
ガルシアとのエナジーが合わさり、エナジーの光はその場にいる全員を包み込んだ。後は『リターン』を発動し、アネモス神殿の外へ出るだけである。
――ん? 何だあれ――
ふと、ジェラルドは妙なものに気が付いた。
それはこの部屋の門扉、壁との隙間辺りに付いていた。
――水の跡……?――
水が扉の下の方、角の部分にばしゃっ、とかけられたようになっており、地面に滴り落ちて水溜まりを作っていた。
「ジェラルド、どうしたんです、扉の方を見て?」
イワンが訊ねてきた。
「ん? ああいや、大したことじゃないんだけど、あんなところに水溜まりがあるからさ」
「水溜まり、ですか?」
「うん、ほら、あそこに……」
ジェラルドは指差してその場所を教えようとした。
『リターン』
しかし、イワンが覗き込むか否かのところで、ロビンとガルシアはエナジーを発動してしまった。
一同は光の粒子へと姿を変え、蜘蛛の子を散らすように消えていった。
玉座の間には誰もいなくなった。
ジェラルドが発見した水溜まりは、なんとぐにゃぐにゃと動き始めた。まるで単細胞の生物が移動するかのようである。
さらに、移動する水溜まりの表面に人の眼のようなものが出現し、それは笑っているような半円状になった。
水溜まりはエナジーの光に包まれると、蒸発するように消えていった。
デュラハンを退け、イリスとシバを助け出し、ロビン達はアネモス神殿から脱出した。もぬけの殻となった玉座の間には、すきま風の音が僅かに鳴るだけであった。
※※※
竜殺しの闘霊となり、爆発的な強さを得たロビンにより、瀕死に追い込まれ、片腕を飛ばされた大悪魔は、空を進んで逃亡していた。
「はあ……はあ……」
ロビンによって受けた傷はかなり深く、無限の活力を与えてくれる魔脈も四つのうち三つを破られ、デュラハンは最早虫の息であった。
「ぐっ……! はあ、はあ、危うかった。まさかシレーネが残していった置き土産がああまで効力を発揮しようとはな……」
イリスが石板より解き放たれんとした時、デュラハンは逃亡するための仕掛けを発動していた。
スターマジシャン、シレーネが得意としていた幻惑の魔術を使用し、あの場にいた全員が互いに戦い合うようにして、その隙にデュラハンは逃げ出した。
上手くいけば同士討ちで全滅してくれる可能性に懸けたが、デュラハンの思惑通り事が進むはずがなかった。
ギアナの地からはだいぶ離れたが、イリスの力、そして自身をここまで追い詰めたロビンの力を感じとることができる。このままでは早晩、居所を探られ、今度こそ引導を渡されることであろう。
しかし、やられるのを待つだけのデュラハンではなかった。彼には秘策があった。
かつてデュラハンはシレーネにより、永遠の生命力を持つドラゴンの存在を知らされたことがある。どれほど傷を受け、瀕死に追いやられようとも、決して死がおとずれる事はないのである。そんな存在がこのウェイアードにあった。
魔脈という器官を持ち、既に不死身の体を得ていたデュラハンは、そのドラゴンの存在を知らされても気に止めることは無かったのだが、こうして今死に最も近付いた時、思い出したのだった。
イリスとの融合が叶わなかった今、再び世界を混沌に陥れる魔王になるためには、そのドラゴンの力を奪うしかなかった。
――シレーネが言うには、オロチとやらは、何があろうと死ぬことはないという事であったな。皮肉だが、今の我には誂え向きであろう――
不死身のドラゴンは、その名も魔龍オロチ。そしてそれは何の因果か、かつてデュラハンが自らの手によって殺した大地母神ガイアの名を持つ岩山、ガイアロックの最奥部に封じられている。
大地母神たるガイアの加護により、ガイアロックのある島、ジパン島は生命力に溢れ、小さな島でありながら豊穣の村があるほどであった。
そこに出現したドラゴン、オロチはその生命力を強く受け、ジパン島の豊穣の村、イズモ村はオロチに襲撃されている。
生命力に溢れ、オロチを不死身にしたガイアロックは、死の無い不死の山、フジ山という別名を与えられることとなった。
そして今、デュラハンはそのフジ山のある場所、ジパン島を捉えた。
「永久に死の無い不死身の力、存分に利用させてもらおうぞ!」
作品名:黄金の太陽THE LEGEND OF SOL28 作家名:綾田宗