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嘘の楽園【後編】

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嘘の楽園【後編】


手術を終え、目覚めた時にアムロが目の前に居る事に安堵した。
「シャア?目が覚めたか?」
優しく髪を梳いてくれるアムロに、嬉しさが込み上げ笑みが零れる。
「ああ…」
「気分はどうだ?痛みは?」
アムロに問われ、自身の身体を確認し、特に耐えられないような痛みがない事をアムロに告げる。
「大丈夫だ。麻酔が効いているのだろう。少しボウっとするが痛みは無い」
「そうか…、良かった」
ホッとするアムロに向かって手を伸ばす。
「シャア?」
アムロは伸ばされたシャアの手に自分の手を重ねる。
「アムロ…」
「どうした?」
そう言いながら優しく見つめてくれるアムロに心が温かくなる。
そして自覚する。
アムロが好きだと。愛しくて堪らないと…。
「君が愛しい…」
思わず口から零れ落ちた言葉に、それを聞いたアムロ以上に自分が驚く。
それは決して告げるつもりのなかった言葉。
しかし、あまりにも自然に口から出てしまった。
この先、自身の生きる道はアムロとは共に歩めない。自分には追い求める夢がある。そして、自分に期待を寄せ、待っている人々がいる。その期待に応える為には、アムロを切り捨てなければならない。
総帥としての人生に私情は持ち込めないのだから、アムロの事は諦めようと、諦められると思っていた。
ただ、今しばらくアムロの側に居たかった。
アムロの傷が癒えるまで、ベッドから起き上がれるようになるまで、一人で食事が出来るようになるまで…とナナイに連絡を取るのを先延ばしにしていた。
しかし、どう心を繕ってもアムロの事が諦められない。これ以上自分の心に嘘はつけないと気付く。

シャアは思わずアムロの手をギュッと握りしめる。
「シャア!?」
そして自分の口元まで引き寄せ、手の甲にキスをする。
「アムロ、君が好きなんだ」
「シャ、シャア!?」
シャアの告白に、アムロは顔に熱が集まるのを感じる。
そして、好きだと言われて胸に喜びが込み上げる。
“シャアも自分を好いてくれている。”
その事実に胸が高鳴る。
しかし、そんなアムロの脳裏に先程エレベーターで会った女性の姿が過ぎる。
『そうだ…シャアはもうすぐネオ・ジオンに戻る。いくら想いを繋げても、共に未来は歩めない』
アムロはギュッと唇を噛み締め、自分の想いに蓋をする。
『どうせ側にいられないのならば未練は残したくない』
アムロは自身の手を握るシャアの手をそっと離し、笑顔を作る。
「ば~か。何言ってんだよ。ほら、冗談言ってないでまだ寝てろ」
「アムっ」
「また明日顔を出すから。今日は大人しく寝てろよ。じゃあな、また明日!」
シャアの言葉を遮るように別れの言葉を告げる。
そして車椅子の向きをくるりと変えてシャアに背を向け、後手に軽く手を振って病室を後にした。
少し進み、人気のない所まで来ると、アムロは車椅子を止め、瞳から零れ落ちた涙を拭う。
「なんであんな事言うんだよ!俺から離れていく癖に!」
アムロは次から次へと溢れ出す涙を止められず、しばらくその場で肩を震わせた。

そんな二人を、カミーユとセイラが溜め息混じりに見つめる。
「全くあの二人は!どうして素直に分かり合えないんだ!」
憤るカミーユをセイラが悲しげな表情を浮かべて宥める。
「仕方がないわ、それ程までに二人の過去は複雑で…今の立場も難しいのよ」
「そりゃそうですけど!」
「ところでカミーユ、例の件はどうなっていて?」
「…かなりまずい状況です」
「そう…」
「いっそこのままあの人が連れていってくれれば良いのに」
少し怒りを滲ませて呟くカミーユに、セイラは厳しい表情を浮かべる。
「あ…、すみません」
「良いのよ、それは私も考えないでもないわ。でも…ネオ・ジオンにアムロが受け入れられるとは思えない…。それに、今のアムロは自分の身を守る事もままならないのよ…危険すぎるわ」
セイラの言葉に、カミーユは厳しい表情を浮かべ、唇を噛み締める。


翌日、アムロはリハビリと、シャアを見舞う為に病院を訪れた。
昨日の今日でシャアと会うのは気まずかったが、「明日行くから」と約束してしまった手前それを破るのも気が引け、「顔を見たら直ぐに帰ろう」と自分を納得させて足を運んだ。
セイラが用意した送迎の車から降りると、不意に自分に向けられた悪意を感じる。
運転手がシャアの病室まで付き添うと言ってくれたが、巻き込んではいけないと思い、それを丁重に断ると、ハロを連れ何も気付かぬふりをして病院の玄関をくぐった。
『ネオ・ジオンか?連邦?ニュータイプ研究所か?』
周囲に注意を払いながら中へと進む。
『どちらにしろシャアの所に行くのはマズイな』
アムロは車椅子を操作しながらエレベーターへと向かおうとしたところで、子供とぶつかりそうになる。
「ああ、ごめん!大丈夫かい?」
子供は驚いて転んだだけで、アムロと接触はしなかったが、念のため怪我をしていないかを確認する。
「うん、ごめんなさい。大丈夫!」
そう言うと、子供は親のいる方に走っていった。
ほぅっと息をついた所で、背後に嫌なプレッシャーを感じる。
とにかく振り向かずにその場を去ろうするが、車椅子が動かない。
背後に立った男が、車椅子を掴んで動けなくしていたのだ。
そして、背中に何か硬いものが当たる感覚と、カチャリと銃の安全弁が外れた音がする。
アムロは小さく溜め息を吐くと、車椅子の操作レバーから手を離した。
「地球連邦軍 外郭新興部隊 ロンド・ベル所属 アムロ・レイ大尉ですね?」
男の問いに、アムロは首を横に振る。
「違いますよ。人違いでは?」
アムロの言葉に、背中に当る銃口がグッと強く突き立てられて痛みが走る。
「痛っ」
「私は地球で何度か貴方にお会いしていますので、その顔は忘れませんよ」
“地球で”と言うことはニュータイプ研究所の人間だろう。
一番会いたくなかった相手に、ギリリと唇を噛みしめる。
午後になり、外来の患者が居なくなった病院の更に人気のない奥まったエレベーターホールまで連れて行かれる。
相手が銃を持っている事を考えると、他に被害を出さない為には都合が良いが、身体の自由の効かないアムロにとってはいずれにせよマズイ状態である事に変わりは無い。
周囲を伺い、他に仲間がいないかを確認する。
『他に仲間は居なさそうだな…』
アムロはチラリと足元を転がるハロに視線を向ける。
『まだテスト段階だが…いけるか?』
男が地下の駐車場に降りる為のエレベーターの前までアムロを連れて行き、ボタンを押す。
階数を示す表示がアムロ達のいる一階を目指してカウントダウンされて行く。
それを見ながら、アムロは呼吸を整える。
エレベーターが到着し、扉が開いた瞬間アムロはハロに思念を送る。
『ハロ!コイツを倒せ!顔に体当たりするんだ』
その思念を受け取り、ハロが男の顔を目掛けて体当たりを食らわす。
倒れ込んだ男が車椅子を離した隙にアムロはエレベーターに乗り込み、closeのボタンを押す。
『ハロ!来い!』
アムロの指示に、ハロは閉まる扉の隙間からエレベーターに飛び乗る。
「待て!」
慌てた男がその扉の隙間からアムロに向かって発砲した。
「あうっ!」
作品名:嘘の楽園【後編】 作家名:koyuho