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嘘の楽園【後編】

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銃弾はアムロの左肩を掠めたが、扉が閉まり、なんとかその場から逃げる事に成功した。
しかし直ぐに追ってくるだろう。
アムロは数階上がった所でエレベーターを降り適当な部屋へと身を隠す。
「ふぅ…巻いたか?」
ほっと息を吐くと、ハロが足元に転がってくる。
〈アムロ ケガ テアテシロ〉
「あ、ああ。掠っただけだよ。大丈夫、よくやったな、ハロ」
〈ハロ エライ スゴイ〉
「ははは、偉い偉い。さて、どうするかな、シャアの存在に気付いてなきゃいいが…時間の問題か。とりあえずセイラさんに相談だな」
アムロがセイラの元へと移動する為、部屋の外を確認しようと顔を出した所で、昨日会ったネオ・ジオンのナナイ・ミゲルと鉢合わせる。
「「あっ」」
互いにまさか会うとは思わず言葉を失う。
と、そこにさっき巻いた男が現れた。
「アムロ・レイ!」
銃を向ける男に、アムロが咄嗟にナナイを背中に庇う。
男が引き金を引こうとしたその瞬間、男の体がぐらりと傾き、その場に倒れこんだ。
男の後ろには、カミーユ・ビダンが立っていた。
「カミーユ!」
「アムロさん!大丈夫ですか!?」
空手の有段者であるカミーユは、手刀で男を気絶させたのだ。
男を別室に拘束すると、騒ぎを聞きつけたセイラがアムロの元に駆け付けた。
「アムロ!」
アムロはカミーユに傷の手当てをされながらセイラへと視線を向ける。
「セイラさん…」
「怪我をしたの!?」
駆け寄るセイラに、アムロが「大丈夫」だと微笑む。
「ああ…良かった…」
そして、偶然居合わせた為に巻き込んでしまったナナイに向き直り頭を下げる。
「私はこの病院の理事長をしております、セイラ・マスと申します。この度は大変ご迷惑をお掛けしてしまい、申し訳ありませんでした」
「い、いえ。私は怪我などもしておりませんし、どうぞお気になさらずに、頭を上げて下さい」
顔を上げたセイラの顔を見つめ、ナナイは自分の愛する男によく似た面影に思わず見入ってしまう。
「どうかされましたか?」
「あ、いえ」
「俺からもお詫びします。俺のせいで危険な目に合わせてしまい、申し訳ありません」
アムロもナナイに向かって頭を下げる。
「いえ、私こそ庇っていただいて…」
ネオ・ジオンの人間だと知りながら、アムロは自分を背に庇った。ナナイはそれを疑問に思う。
「お詫びついでにお願いがあるんですが」
「…お願い?」
突拍子もないアムロの言葉にナナイが驚いて目を見開く。
「アイツを…シャアを連れて行ってくれ」
「え?」
「ここに姿を現したって事は、既にアイツを受け入れる準備は出来ているって事だろう?」
カミーユとセイラが一斉にナナイへと視線を向ける。
「アムロ…まさか彼女は…」
「ええ、ネオ・ジオンの人間です。シャアを迎えに来た。そうでしょう?ナナイ・ミゲル大尉」
「何故私の名を?」
「ネオ・ジオンの作戦参謀でシャアの片腕。そのくらいは少し調べたらわかるよ」
そんなアムロに、ナナイがクスリと笑う。
「少しとは…ネオ・ジオンのデータベースをハッキングして調べたという事ですか?」
「ああ、“少し”覗き見させて貰った」
ニヤリと笑うアムロに、ナナイも不敵な笑顔で答える。
「はい、その通りです。大佐にネオ・ジオンへ戻っていただく為にお迎えに上がりました」
二人の会話に、カミーユとセイラが複雑な表情を浮かべる。
特にセイラは、兄がまたネオ・ジオンの総帥として間違った方向に向かって行ってしまうのではと不安になる。
その不安を感じ取ったアムロが、セイラに微笑む。
「大丈夫ですよ。セイラさん、アイツはもう間違えない。自分のすべき事をちゃんとわかってるから」
「アムロ…」
「とりあえず、ニュータイプ研究所に俺がここにいるとバレた以上、シャアが見つかるのも時間の問題だ。一刻も早く此処を離れないと…」
アムロの言葉に、ナナイが疑問の声を上げる。
「アムロ・レイ、何故…大佐を逃すのですか?貴方は連邦の人間で、大佐を憎んでいたのではないですか?」
「んー。確かに連邦軍に居たけど、それはシャアを止める為に必要だったから居ただけだし、別にシャアを憎んでいたわけでも無いよ」
「で、では何故あそこまでして我々の作戦を阻み、大佐と戦ったのですか?」
「そりゃ、シャアがバカな事をするのを止めたかったからさ。それに、俺と一騎打ちで戦うことを望んだのはあの人の方だ」
思いもよらない回答に、ナナイは驚きで言葉が出ない。
そこに、手当を終えたカミーユがアムロの動かない左腕に触れながら叫ぶ。
「だからってアムロさんがあの人を守る為にこんな怪我を負うことなんてなかったんですよ!」
「カミーユ…」
「アムロさん、あの時重力に捕まったクワトロ大尉の脱出カプセルを守る為に自分も地球に落ちたでしょう?νガンダムだけなら逃げ切れたはずだ」
「…カミーユには見えてたのか?」
「はい…。サイコフレームの光から…アムロさんとクワトロ大尉の声と…心が伝わってきました。そして、二人の姿が見えたんです」
あの光は、人々の想いを乗せて地球を覆い尽くした。
ニュータイプであるカミーユは、その光からアムロ達の姿までも見る事が出来たのだ。
だからこそ、二人が落ちてくる場所にいち早く駆け付け、助ける事が出来た。
「クワトロ大尉の求めていたものは解ります!でも!あのやり方は間違ってる!あれじゃ人々の憎しみや哀しみの心が増えるばかりで戦争は終わらない!」
叫ぶカミーユの瞳からは涙が溢れる。
「大体…あの人が大罪を背負ってまで得られるスペースノイドの自由って何ですか!」
「カミーユ…」
アムロは自由になる右腕でカミーユの腕を引き、その頭をそっと抱きしめる。
「そうだな…」
「アムロさん…!」
カミーユにとって、今でもシャアはネオ・ジオンの総帥ではなく、共に戦ったエゥーゴのクワトロ・バジーナ大尉なのだ。
地球連邦政府を内側から改革しようとし、ティターンズを壊滅へと追い込んだ。
しかし、結局は変わらない政府に彼は見切りを付け、シャアは自ら対抗組織を立ち上げた。
「アムロさん…本当に今度はあの人…間違えたりしませんか?」
「ああ、大丈夫だよ」
「信じて…いいんですよね?」
カミーユの縋るような瞳に、アムロが少し目を伏せながら答える。
「あの人と一緒に暮らしててさ…元々知ってはいたけど…本質的には優しい人なんだって…改めて思ったよ。純粋で…真っ直ぐで…でもそんなだから憎しみや哀しみ、絶望に心を囚われすぎてしまう…」
アムロはそっとセイラに視線を向け、セイラも悲しげに顔を歪ませる。
両親と故郷を失い、そして愛する妹を守る為、仮面を着けて自身を偽り、復讐に身を投じた。
復讐を成し遂げた後は、亡き父の理想の世界を追い求め、腐りきった地球連邦政府を内側から改革しようとした。
しかしそれが叶わぬと知った時、彼は地球の重力に囚われた人々に絶望し、粛清をしようと試みたのだ。
「だけどさ、俺と暮らす内に…人として普通の生活を送るうちにさ、段々と人間らしくなったって言うか…ようやく心の中に巣食っていた闇を昇華できた様な気がするんだ。だから大丈夫。それにナナイ大尉、あなた方も、もうあんな事は考えていないだろう?」
作品名:嘘の楽園【後編】 作家名:koyuho