永遠の楽園 【嘘の楽園 after】
永遠の楽園
アクシズショックと呼ばれた出来事から二年、行方不明となっていたシャア・アズナブルがネオ・ジオンへと帰還した。
本拠地であるコロニー「スウィート・ウォーター」では、ネオ・ジオンの幹部たちがシャアを出迎える。
「大佐!ご無事で!」
「ネオ・ジオンに帰られる日を信じておりました!」
「これでスペースノイドの独立は確かなものとなります!」
「シャア総帥万歳!」
「ジーク ジオン!」
「ジーク ジオン!」
口々にシャアの帰還を喜ぶ声と、これからのスペースノイドの希望を唱える声が響き渡る。
そんな人々の期待を一身に受けながら、堂々とした足取りでシャアが歩みを進める。
そして、その中心まで来ると、自身の帰還を報告すると共に、これからのスペースノイドの独立に向けての想いを告げる。
真っ赤な総帥服に身を包み、真っ直ぐと前を見据えて話すシャアを、アムロは少し離れた場所から見つめていた。
「すごいな…あの人はこんなにも多くの人々の期待を背負っているんだな。そして、それに応える力をあの人は持っている…」
アクシズの地球降下作戦は失敗に終わったものの、ネオ・ジオンの勢いは衰える事なく、地球連邦に反感を持つ各コロニーの支援を受けて独立に向けて力を蓄えていた。
そして、シャアの帰還により全てが動き始める。
「刻が…動き出した…」
そう呟くアムロを、カミーユが複雑な表情を浮かべて見つめる。
地球へと落下した二人は、傷を癒しながら互いに支え合い、穏やかな日々を送っていた。
永遠には続かないと分かっていたが、カミーユは二人のその時間が少しでも長く続けば良いと心から願っていた。
しかし、シャアを迎えにきたネオ・ジオンからの使者と、アムロを狙うニュータイプ研究所からの追っ手によりその時間は終わりを告げ、シャアはネオ・ジオンへと帰還し、アムロもまた、シャアと共にネオ・ジオンへとやってきた。
半身に麻痺のあるアムロを医者として支える為、そしてジオン兵にとって遺恨のあるアムロをジオンから守る為、カミーユはアムロと共にネオ・ジオンへやって来た。
カミーユは車椅子に座ってシャアを陰から見つめるアムロの肩をそっと叩く。
「アムロさん、そろそろ行きましょう。迎えの車が来ています」
「ああ、分かった。カミーユ」
車椅子を押しながら、ナナイが寄越した迎えの車へと乗り込み、これから生活する住まいへと移動する。
ナナイが用意したのは総帥邸のすぐ隣に建てられたゲスト用のコンドミニアムで、そんなに大きくはないが、造りの良いセキュリティも充分に整った建物だ。そして、そこは障害のあるアムロでも不自由が無いようにと色々と手が加えてあった。
「いい家だね。明るいし段差も無いから車椅子でも充分に暮らせる」
「本当ですね。強いて言うなら総帥邸が真横と言うのが気になりますが」
棘のある言い方で、カミーユが窓の外に見える総帥邸を睨みつける。
「ふふ、本当にカミーユはシャアが好きだよね」
「はぁ!?何言ってるんですか!」
「ははは、照れなくてもいいよ。何だかんだ言ってシャアの事も心配なんだろ?」
アムロに本心を言い当てられてカミーユが言い淀む。アムロの言う通り、確かにアムロの事も心配だが、ジオンに戻る事になったシャアの事も心配だった。
これからシャアはまた、ネオ・ジオンの総帥としてその身をスペースノイドの為に捧げる事になる。地球でアムロと暮らしていたような自由で穏やかな時間はもう望めないのだ。
あの時の穏やかなシャアがきっと彼の本質なのだろうに、これからは本人が望んだ事とはいえ、自分の本質を押し殺し、人身御供とも言える日々を送る事になる。
「俺も正直、あの人の事が心配だよ。俺には政治的な事は何も手伝う事は出来ない。でも、疲れたあの人を癒すくらいは出来るかもしれないだろ?」
「アムロさん…」
「だからさ、とりあえずはあの人を支えられる様に、自分の身体を何とかしようと思う。モビルスーツに乗って守る事は出来ないが、あの人の隣に立てる様にはなりたいな。だからさ、リハビリをもっと頑張りたい。俺を助けてくれるか?カミーユ」
和かに微笑むアムロに、カミーユは思い切り頷く。
「もちろんです!アムロさん、俺に出来る事は何でもしますから!」
「ありがとう。カミーユ、頼りにしてるよ」
アムロのシャアに対する想いに心が熱くなる。
そして思う、きっとアムロを支える事があの人を支える事になるのだと。
その日の夕食の後、シャアがナナイと共にアムロ達の元を訪れた。
「アムロ、カミーユ。不自由はないか?」
「ああ、問題ないよ。ナナイ大尉、色々とありがとう」
「いえ、アムロ大尉に来て頂いたお陰で大佐のやる気が上がり、前にも増して公務が捗っておりますので」
「それ、アムロさんに会う時間を作りたくて早く終わらせてるだけなんじゃないんですか?」
カミーユのチクチクとした言葉に、ナナイがクスリと笑う。
「もちろんスピードも上がっておりますが、手を抜く様な事は一切ありませんので大丈夫です」
「手など抜いたらアムロに怒られるからな」
そう言いながらアムロの頬に手を添える。
「当然だろ?何事にもベストを尽くせよ」
「ああ、分かっている」
と、シャアが膝を折ってアムロへと視線を合わせ、両手で頬を覆う。
「な、なんだよシャア!」
「アムロ、君熱があるぞ?」
「あ…」
〈アムロ タイオン 38.7℃ 〉
アムロの身体をスキャンしたハロがピョンピョン跳ねながらシャアへと報告する。
「え?ハロ!そう言う事は気づいた時点で報告しろ」
慌ててアムロを診察するカミーユがハロを睨みつける。
〈アムロ シンパイサセタクナカッタ ハロ アムロ ノ ココロ シタガウ〉
「アムロさん!隠された方が心配します!ハロもこう言う時はアムロさんがどう思っても俺に報告しろ」
カミーユの言葉にハロがアムロへと確認を求める。
それにアムロがため息混じりにコクリと頷く。
〈アムロノ キョカ デタ ハロ カミーユニ ホウコクスル〉
「よし、いい子だ」
〈カミーユニ ホメラレタ ハロ イイコ!〉
ご機嫌で飛び回るハロを、ナナイが驚愕の眼差しで見つめる。
「このペットロボットはアムロ大尉の脳波にリンクしているのですか?」
「え?ああ。俺の介助用にサイコミュで繋がっているんだ」
「サイコミュで!?」
「まぁ、まだまだ調整は必要だけど大分役に立つ様にはなったかな」
「アムロ大尉が改造を?」
「ああ、こう言うの結構好きなんだ」
「そうやって寝食を忘れて作業するからこうして熱を出すのだろう!いい加減成長したまえ!」
「シャア…お、怒るなよ…。それにこの熱はそれが原因じゃないし」
「長距離移動による疲れが出ましたかね。とりあえず解熱剤を打ちますから手を出して下さい」
カミーユが医療キットを準備しながらアムロの袖を捲る。
「え?注射!?飲み薬じゃダメか?」
「注射のが速効性がありますから」
「いや、そんなすぐに効かなくてもいいから注射は…」
焦るアムロにカミーユがクスクスと笑い出す。
「本当にアムロさん、注射が嫌いですね。これからは直ぐに俺に言うって約束できるなら飲み薬にしてあげます」
「うっ…分かったよ。約束するよ」
アクシズショックと呼ばれた出来事から二年、行方不明となっていたシャア・アズナブルがネオ・ジオンへと帰還した。
本拠地であるコロニー「スウィート・ウォーター」では、ネオ・ジオンの幹部たちがシャアを出迎える。
「大佐!ご無事で!」
「ネオ・ジオンに帰られる日を信じておりました!」
「これでスペースノイドの独立は確かなものとなります!」
「シャア総帥万歳!」
「ジーク ジオン!」
「ジーク ジオン!」
口々にシャアの帰還を喜ぶ声と、これからのスペースノイドの希望を唱える声が響き渡る。
そんな人々の期待を一身に受けながら、堂々とした足取りでシャアが歩みを進める。
そして、その中心まで来ると、自身の帰還を報告すると共に、これからのスペースノイドの独立に向けての想いを告げる。
真っ赤な総帥服に身を包み、真っ直ぐと前を見据えて話すシャアを、アムロは少し離れた場所から見つめていた。
「すごいな…あの人はこんなにも多くの人々の期待を背負っているんだな。そして、それに応える力をあの人は持っている…」
アクシズの地球降下作戦は失敗に終わったものの、ネオ・ジオンの勢いは衰える事なく、地球連邦に反感を持つ各コロニーの支援を受けて独立に向けて力を蓄えていた。
そして、シャアの帰還により全てが動き始める。
「刻が…動き出した…」
そう呟くアムロを、カミーユが複雑な表情を浮かべて見つめる。
地球へと落下した二人は、傷を癒しながら互いに支え合い、穏やかな日々を送っていた。
永遠には続かないと分かっていたが、カミーユは二人のその時間が少しでも長く続けば良いと心から願っていた。
しかし、シャアを迎えにきたネオ・ジオンからの使者と、アムロを狙うニュータイプ研究所からの追っ手によりその時間は終わりを告げ、シャアはネオ・ジオンへと帰還し、アムロもまた、シャアと共にネオ・ジオンへとやってきた。
半身に麻痺のあるアムロを医者として支える為、そしてジオン兵にとって遺恨のあるアムロをジオンから守る為、カミーユはアムロと共にネオ・ジオンへやって来た。
カミーユは車椅子に座ってシャアを陰から見つめるアムロの肩をそっと叩く。
「アムロさん、そろそろ行きましょう。迎えの車が来ています」
「ああ、分かった。カミーユ」
車椅子を押しながら、ナナイが寄越した迎えの車へと乗り込み、これから生活する住まいへと移動する。
ナナイが用意したのは総帥邸のすぐ隣に建てられたゲスト用のコンドミニアムで、そんなに大きくはないが、造りの良いセキュリティも充分に整った建物だ。そして、そこは障害のあるアムロでも不自由が無いようにと色々と手が加えてあった。
「いい家だね。明るいし段差も無いから車椅子でも充分に暮らせる」
「本当ですね。強いて言うなら総帥邸が真横と言うのが気になりますが」
棘のある言い方で、カミーユが窓の外に見える総帥邸を睨みつける。
「ふふ、本当にカミーユはシャアが好きだよね」
「はぁ!?何言ってるんですか!」
「ははは、照れなくてもいいよ。何だかんだ言ってシャアの事も心配なんだろ?」
アムロに本心を言い当てられてカミーユが言い淀む。アムロの言う通り、確かにアムロの事も心配だが、ジオンに戻る事になったシャアの事も心配だった。
これからシャアはまた、ネオ・ジオンの総帥としてその身をスペースノイドの為に捧げる事になる。地球でアムロと暮らしていたような自由で穏やかな時間はもう望めないのだ。
あの時の穏やかなシャアがきっと彼の本質なのだろうに、これからは本人が望んだ事とはいえ、自分の本質を押し殺し、人身御供とも言える日々を送る事になる。
「俺も正直、あの人の事が心配だよ。俺には政治的な事は何も手伝う事は出来ない。でも、疲れたあの人を癒すくらいは出来るかもしれないだろ?」
「アムロさん…」
「だからさ、とりあえずはあの人を支えられる様に、自分の身体を何とかしようと思う。モビルスーツに乗って守る事は出来ないが、あの人の隣に立てる様にはなりたいな。だからさ、リハビリをもっと頑張りたい。俺を助けてくれるか?カミーユ」
和かに微笑むアムロに、カミーユは思い切り頷く。
「もちろんです!アムロさん、俺に出来る事は何でもしますから!」
「ありがとう。カミーユ、頼りにしてるよ」
アムロのシャアに対する想いに心が熱くなる。
そして思う、きっとアムロを支える事があの人を支える事になるのだと。
その日の夕食の後、シャアがナナイと共にアムロ達の元を訪れた。
「アムロ、カミーユ。不自由はないか?」
「ああ、問題ないよ。ナナイ大尉、色々とありがとう」
「いえ、アムロ大尉に来て頂いたお陰で大佐のやる気が上がり、前にも増して公務が捗っておりますので」
「それ、アムロさんに会う時間を作りたくて早く終わらせてるだけなんじゃないんですか?」
カミーユのチクチクとした言葉に、ナナイがクスリと笑う。
「もちろんスピードも上がっておりますが、手を抜く様な事は一切ありませんので大丈夫です」
「手など抜いたらアムロに怒られるからな」
そう言いながらアムロの頬に手を添える。
「当然だろ?何事にもベストを尽くせよ」
「ああ、分かっている」
と、シャアが膝を折ってアムロへと視線を合わせ、両手で頬を覆う。
「な、なんだよシャア!」
「アムロ、君熱があるぞ?」
「あ…」
〈アムロ タイオン 38.7℃ 〉
アムロの身体をスキャンしたハロがピョンピョン跳ねながらシャアへと報告する。
「え?ハロ!そう言う事は気づいた時点で報告しろ」
慌ててアムロを診察するカミーユがハロを睨みつける。
〈アムロ シンパイサセタクナカッタ ハロ アムロ ノ ココロ シタガウ〉
「アムロさん!隠された方が心配します!ハロもこう言う時はアムロさんがどう思っても俺に報告しろ」
カミーユの言葉にハロがアムロへと確認を求める。
それにアムロがため息混じりにコクリと頷く。
〈アムロノ キョカ デタ ハロ カミーユニ ホウコクスル〉
「よし、いい子だ」
〈カミーユニ ホメラレタ ハロ イイコ!〉
ご機嫌で飛び回るハロを、ナナイが驚愕の眼差しで見つめる。
「このペットロボットはアムロ大尉の脳波にリンクしているのですか?」
「え?ああ。俺の介助用にサイコミュで繋がっているんだ」
「サイコミュで!?」
「まぁ、まだまだ調整は必要だけど大分役に立つ様にはなったかな」
「アムロ大尉が改造を?」
「ああ、こう言うの結構好きなんだ」
「そうやって寝食を忘れて作業するからこうして熱を出すのだろう!いい加減成長したまえ!」
「シャア…お、怒るなよ…。それにこの熱はそれが原因じゃないし」
「長距離移動による疲れが出ましたかね。とりあえず解熱剤を打ちますから手を出して下さい」
カミーユが医療キットを準備しながらアムロの袖を捲る。
「え?注射!?飲み薬じゃダメか?」
「注射のが速効性がありますから」
「いや、そんなすぐに効かなくてもいいから注射は…」
焦るアムロにカミーユがクスクスと笑い出す。
「本当にアムロさん、注射が嫌いですね。これからは直ぐに俺に言うって約束できるなら飲み薬にしてあげます」
「うっ…分かったよ。約束するよ」
作品名:永遠の楽園 【嘘の楽園 after】 作家名:koyuho