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永遠の楽園 【嘘の楽園 after】

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そんなアムロにカミーユがにっこりと微笑む。
「約束ですよ」
「カミーユのその微笑みは怖いな」
ボソリと呟くシャアにカミーユがキッと鋭い視線を向ける。
「大尉もアムロさんに負担を掛けない事!分かってますよね?」
「あ、ああ」
そんな二人を他所に、ハロがミネラルウォーターのボトルを持ってアムロに手渡す。
アームを伸ばして手渡すハロに、アムロが「あっ」と声を出すと、ハロは二本のアームを器用に使ってボトルの蓋を開けてアムロに差し出す。
「サンキュー」
その様子に、アムロの思考を読み取ったハロがそれを受けて蓋を開けたのだとナナイは気付く。
ハロが完全にアムロとリンクし、まるでファンネルの様に操縦者の意思に従って動いているのだ。
「サイコミュは…本来こういう使い方をするものかもしれませんね…」
ニュータイプ能力を…サイコミュの力を戦争の道具としてしか考えていなかった事に今更ながら気付かされる。
自身も微弱ながらもニュータイプの素質があるナナイにとって、完全にその能力に覚醒したアムロにはずっと興味があった。
敵軍のパイロットであり、愛するシャアの心を掴んで離さないアムロに嫉妬の想いを持ちながらも、心の底ではずっと気になっていた。
そして、その能力を目の前にして研究者としての心も疼く。
『この能力を研究してみたい、この能力の可能性を見てみたい』
「ナナイ大尉?」
「……アムロ大尉…私の研究に協力しては頂けませんか?」
「え?」
「私はニュータイプ研究所の所長をしております。アムロ大尉のその能力を研究し、その可能性をこの目で見たいのです」
「あ…」
戸惑うアムロに、シャアが直ぐ様それを却下する。
「ナナイ、それはダメだ。アムロを研究の被験体にする事は許可出来ない」
アムロは何も言わないが、過去に連邦のニュータイプ研究所で拷問の様な人体実験の被験体になっていた事を知っている。
アムロの注射嫌いも、おそらくその時のトラウマだろう。
「シャア…」
「ですが…」
「ナナイ!これは命令だ!」
キツイ一言にナナイがビクリと肩を震わす。
「申し訳ありません」
「シャア…そんな言い方…」
「しかし!」
そんなシャアを宥めながら、アムロがナナイへと視線を向ける。
「ナナイ大尉…ごめん。少し考えさせてくれないか?研究所関係にはあまりいい思い出がなくてさ。貴女はきっとあの人達とは違うと分かっているんだけど、俺の心が付いていかないんだ…」
申し訳なさそうに話すアムロに、ナナイはアムロが連邦でどの様な扱いを受けていたかを察する。
「いえ、こちらこそ申し訳ありません。アムロ大尉の気持ちも考えずに…」
「いいんだ。気にしないでくれ」
「アムロ大尉…」
「さぁ、アムロさんはもう休んで下さい。明日熱が下がらなかったら今度こそ注射打ちますからね」
この会話を終わらせる様に、カミーユが声を掛ける。
「わぁ!カミーユ、勘弁してくれよ」
「それじゃクワトロ大尉、アムロさんを寝室に連れて行きますから」
「ああ、頼む。カミーユ」
シャアはアムロの頬にそっとお休みのキスを贈る。
「お休み、アムロ」
「あ、ああ。お休み」
キスをされて顔を真っ赤にしたアムロが戸惑いながらも返事を返す。
そんな仕草が可愛くて離れ難いと思うが、カミーユに睨まれてその手を渋々離す。
ナナイと二人、部屋に残されたシャアは小さく溜め息を吐くと、ナナイに視線を向ける。
「さっきはきつい言い方をしてしまってすまなかった」
「いえ、私こそ配慮が足りませんでした」
「だが、アムロは少し考えさせてくれと言っていた。アムロ自身も興味はあるのだろう。落ち着いたら協力してくれるかもしれない。しかし分かっているな?アムロに負担のかかる事はしないでくれ」
「はい、分かっております」
ナナイの返事に頷くと、シャアはアムロが出て行った扉を見つめる。
「そういえばナナイ、アムロとカミーユの処遇だが、身分を明かすと言うのは本当か?」
「はい」
「アムロを恨んでいる者も多いだろう?危険ではないか?」
「確かに恨んでいる者もおります。しかし、あの時、たった一機でアクシズを押し返していた姿を見ていた者も数多くおります。そしてそれに共感した者も」
「それはそうだが…」
「下手に隠しだてをして後からバレた時の方が大佐にとってデメリットです」
確かに、総帥が連邦の白い悪魔を匿っていたと知れればアムロに恨みを持つ者はシャアから離れていくだろう。それに色々な噂に尾ひれが付き、他の者からの信頼も失いかねない。
「ですから堂々とアムロ・レイが大佐の手を取った事を…連邦を見限った事をアピールした方が得策かと思います。その為にも連邦のアムロ・レイへの冷遇について詳しく調べ公表する必要があります」
「しかし、それはアムロが嫌がるだろう」
「そうかもしれません。しかし、民衆は悲劇のヒーローに同情し恩赦を与えようとします。その真理を利用し、偽名で後ろめたい思いをしながら行きていくよりも、堂々とアムロ・レイとしてこのネオ・ジオンで生きていく方が、この先の長い人生にとってはいい事だと思います」
ナナイの言う事は尤もだった。
当初は偽名で匿おうと思っていたが、アムロの顔はシャア程では無いにしても意外と世間に知られている。
バレる可能性は充分にあるのだ。
「分かった。アムロには私から話そう」
「ありがとうございます」


翌日、アムロの元を訪れたシャアが昨夜ナナイと話した内容を告げる。
それを聞いたアムロは少し思案した後、小さく溜め息を吐いてシャアを見上げる。
「分かった。貴方に任せるよ」
「アムロ…良いのか?」
「貴方の足手纏いにだけはなりたくない」
「足手纏いだなどと!私が君といる事を望んだのだ!」
「分かってるよ。俺も貴方の側にいたい。その為にベストだと思える方法を選びたい」
「アムロ…、しかし君にとってニュータイプ研究所での事は思い出したくもない事だろう?」
「そうだね。それにシャイアンに幽閉された数年も地獄だったよ…」
アムロが目を伏せて唇を噛みしめる。
「アムロ…」
そんなアムロをシャアも辛そうに見つめる。
「そんな顔するなよ。過去の事だ、今はこうして幸せなんだから…。その幸せの為に必要ならば良いよ。ハロ!来い」
アムロはハロを呼び寄せると、ハロの中から小さな記憶媒体を取り出す。
「ニュータイプ研究所での事がこれに全て記憶してある」
それを受け取りながらシャアが首を傾げる。
「どう言う事だ?」
「いつもさ、研究所に行く時はこいつを連れて行ったんだ」
「ハロを?」
「ああ、連中もただのオモチャだと思っていたから特に咎められることも無くてさ。でも、こいつにはカメラとマイクが内蔵してあって実験の様子を全て記憶させてた」
「なぜそんな事を?」
「いつもさ、実験の時は薬を飲ませれたり注射で眠らされてたんだ。それで実験が終わると身体中の痛みや吐き気が凄くてさ。一体自分は何をされているのか確かめたくて、こっそりこいつにカメラを仕込んで記憶させた」
「それで…それを見たのか?」
「ああ、酷いモンだったよ。俺の事を人間だとは思っていない様な内容だった」
少し震えるアムロをシャアが抱き寄せる。