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ソラから降りて来るLoneliness

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しばらく言葉を失っていたギュネイが、ゆっくりとシャアに近付きその姿を見つめる。
「死んでる…のか?」
状況を受け容れられずアムロに尋ねる。
「ああ…死んでる…俺が…殺した」
「貴様が…!」
淡々と答えるアムロに、シャアを殺された怒りをぶつけて叫ぶ。
しかし、そのアムロも決してその勝利を喜んでいるようには見えない。ギュネイはどう言葉を発すれば分からず戸惑う。
そして、宙に浮く白いノーマルスーツの腕とアムロの左腕に気付く。
「あんた腕が…」
「ああ…」
特に気にするでもなくアムロが答える。
「お前…名前は?」
不意に名前を聞かれ、ギュネイが驚く。
「何?」
「名前だよ、ああ、俺が先に名乗るべきか。俺は地球連邦軍 外郭新興部隊ロンド・ベルのアムロ・レイだ」
「貴様が…アムロ・レイ?」
「で?名前は?」
驚くギュネイを気にすること無くアムロが淡々と尋ねる。
その問いに、動揺しながらギュネイが答える。
「…お…俺は…ギュネイ…・ガス准尉だ」
「それじゃギュネイ准尉、こいつを連れて帰ってくれるか?」
アムロがフラリと立ち上がる。
「え?連邦に突き出さないのか?」
「あんな奴らに…この人を渡すわけないだろ?そっちで丁重に葬ってやってくれよ」
「おい!待てよ」
そう言ってその場を立ち去ろうとするアムロをギュネイが呼び止める。
「何だ?俺を殺すか?別に構わないぞ」
「なっ!」
投げやりな態度のアムロに驚きつつも、宙に浮く腕に視線を向ける。
「腕…持っていかないのか?直ぐに手術すれば元通りとはいかなくてもくっつくだろ?」
アムロは自身の切断された左腕を見ながら小さく溜め息を吐く。
「…別にいい。こいつの戦利品だ、シャアにやるよ」
「やるって!その腕じゃもうモビルスーツには…」
「構わないよ。もうモビルスーツに乗る必要はないからな」
シャアの遺体を見つめながらアムロが寂しげに呟く。
そのまま立ち去ろうとするアムロの腕を掴んで引き寄せると、ギュネイは応急処置用のテーピングで傷口をキツく縛り上げて出血を止める。
「痛っ!」
痛みに蹲るアムロの襟元を緩めて肩を出すと、そこにある剣の刺し傷にもテーピングをする。
「何だ?何で…こんな事…俺はシャアを殺したんだぞ」
ギュネイは何も答えず黙々とアムロの手当てをする。そしてノーマルスーツの穴も補修テープで塞いでいく。
「こんなもんだろう。後でちゃんと手当てしてもらえよ」
「え?」
ギュネイはアムロからシャアに視線を移し、今度はシャアの胸から剣を引き抜いて同じように傷を塞ぎ、その大きな身体を担ぐ。そして、宙に浮くアムロの腕を手に取る。
「それじゃ、これは戦利品に頂いていく。返して欲しかったら取りに来いよ!ちゃんと冷凍保存しといてやるから」
「は?だから要らないって…」
「あんた…大佐の望みを叶えたんだろ?」
「え?」
「大佐のこの顔を見りゃ分かる」
「ギュネイ准尉…」
「あんたは生きろよ、死ぬなんて許さない!そして、パイロットとしてもう一度戦え!今度は俺が相手だ!俺があんたを倒す!」
「は…ははは…。俺に生きろって言うのか?シャアの居ない世界で生きろって言うのか!?」
アムロの瞳から涙が溢れる。
「シャアを止めるために…シャアと決着をつける為だけに生きて来たんだ!」
「本当にそうか?」
「…?ギュネイ准尉?」
「あんたの後ろに赤ん坊が見える。あんた…父親になるんだろう?」
ギュネイの言葉に、この作戦前にベルトーチカに妊娠を知らされた事を思い出す。
「あ…」
「これからは…大佐の為じゃなく…自分の為に生きろよ」
それだけ言うと、ギュネイはシャアを連れてその場を去っていった。



ギュネイが去った扉を見つめ、アムロはフラリと座り込む。
「自分の…為に…生きる?」
アムロは暫く放心状態のまま呆然と天井を見上げる。
そして、目を閉じて一年戦争でのシャアとの出会いから今までの自分の人生を振り返る。
「あの日、初めてあの人と対峙してから、俺の人生にはいつもあの人の存在があった…」
おそらくあの人にとっても自分の存在は同じようにその人生の中にあったのだろう。
そして、あの人は俺に人生の幕を降ろさせた。
「残された俺はどうすればいい?今更自分の為に生きるなんて、考えられないよ…」
そんなアムロの耳元に「ぱーぱ」と自分を呼ぶ子供の声が響く。
「え?」
〈ぱーぱ〉
「子供の…声?」
〈ぱーぱ、まーまが待ってる…帰ってきて…〉
「帰…る?」
〈うん、みんな…待ってる〉
その言葉に、ベルトーチカとブライトの顔が脳裏に浮かぶ。
そして、確かに感じる小さな魂の光。
アムロは天井を見上げ、目頭が熱くなるのを感じる。
「シャア…俺を…待っていてくれる人が…いるんだ…。でも…貴方を失ってこんなに苦しいのに…それでも…生きていけるのかな…?」
アムロの頬を涙が伝う。
そんなアムロの周りを金色に輝く光が包み込む。
『アムロ…貴方なら生きていけるわ…』
「ララァ!?」
『ふふふ、アムロとはまたいつでも遊べるから…今は貴方を抱きしめてくれる女性(ひと)のところへお帰りなさい。きっと待っているわ。坊やもそれを望んでる』
「ララァ!でも…俺…」
『大佐と一緒に見守っているから…ね?』
「ラ…ラァ…」
自分を優しく抱きしめる暖かい光にララァの温もりとシャアの温もりも感じる。
「シャア…?」
『君とはまた逢える。君が人生を全うするまでララァ共に君を待とう…』
「シャア!」
アムロは顔を上げ、天井に向かって右手を差し出す。しかし、その手は何も掴む事は出来ず宙を彷徨う。
その手を見つめ、アムロは嗚咽を漏らしながら泣き崩れる。
「シャア…シャア!!」

しばらくそのまま涙を流し続けたアムロだったが、唇を噛み締め、涙を拭うと顔をあげて立ち上がる。
そして脱ぎ捨てたヘルメットを手に取り歩き出す。
自分を待っている家族と仲間の元へ…。

◇◇◇

アムロと別れた後、しばらく進んだ通路で、ギュネイは立ち止まり、肩に担いだ穏やかな表情のシャアを見つめる。
「これで…良かったのかよ…こんな終わりで!!」
ギュネイは唇を噛み締め涙を流す。
そしてシャアを担ぎ直すと、仲間の元にシャアを連れて帰る為、前を見据えて歩みを進める。
「あんたの理想は…俺たちが…!」




〜epilogue〜

地球では、娘のチェーミンと共に安全な場所に向かって避難をしていたミライが、戦闘の終わりを感じて空を見上げる。

「終わった…?」
見上げた宇宙からはアクシズのカケラや戦場のデブリが流星となって地球に降り注ぐ。
「…まるで…流れ星みたい…」
呟くチェーミンにミライも頷く。
「そうね…悲しみが…数え切れない悲しみが…宇宙から降りて来ているわ…」
ミライはその瞳に涙を浮かべて空を見上げる。

そして、その中でも一際大きな悲しみの雫を感じ取る。
「アムロ……」

宇宙から降りて来る数え切れない悲しみ、それはまるで宇宙の涙の様に輝き、地球に降り注ぐ。

「人々の悲しみは…例え人類が宇宙に上がっても…地球に還って来るのかもしれないわね…」


end