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さみしさの後ろのほう 6~10

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6

あれがああなってる時はここをそうするんです!
興奮すると指示語で喋る癖があるらしい菊は、一度だけ俺にUFOキャッチャーについてそう熱く語った事がある。
その時別にこれからする予定も無かったしと、うんうんと適当に流してしまった事を今更後悔する事になるとは。

不幸の始まりは二つ。俺が菊を基準にしてしまった事と菊が異常な程そういう類が得意だったという事。
何となく直感に従えば取れちゃうんですよね、っていうのは菊だけ。菊がよく助けてやっている何度やっても取れない奴が普通。まさか菊のを見てただけで今までやった事も無い俺が、難易度が高いらしいでかいぬいぐるみを簡単に取れる訳が無く。



「もう良いでしょう?貴方は十分頑張りましたから。それで良いじゃないですか。というかそれより、こんな事にそんなにお金使って、貴方の親御さんが可哀相です」

勝手にすれば良い、と最初はツンとしていた帝も、今や俺の左腕を揺さぶって止めろ止めろと繰り返す。けれど此所まで来て引けるか!
俺の方が力も体重もあるのと揺さぶられてるのが左腕なのを良い事に、帝を無視して続ける。
いくら使ったかって?そんなの恐ろし過ぎて、五回目から数えていない。

「後ちょっとなんだよ」
「さっきからそればっかりじゃないですか!」
「どうしても取らなきゃいけないんだよ。これだけはどうしても」

正直、菊に助けを求める事も考えた。あいつならきっとこれすら簡単に取ってくれるんだろう。
けれど、やっぱり駄目だ。俺が取らなきゃ意味が無い。俺が取って、プレゼントしてやるんだ。

「あ、また両替して来なきゃな」

今あるだけでは最後の二枚の百円玉を取り出すと、すかさず帝が俺の財布をひったくる。

「駄目です。これ以上は許しません。先輩として」

そこは嘘でも恋人としてって言っとけよ。そう思いながらも、帝らしいとも思った。
多分これ以上やって取っても喜んでは貰えない。これが正真正銘最後のチャンス。
財布を握りながらもぬいぐるみを見つめている帝の横顔を盗み見てから、二百円を投入した。