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七色の日に寄せて

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 「この館を訪れるのも50年ぶりになる…か」

旧時代の城塞を彷彿とさせる館の前に立ち感慨深げに話す銀髪の大男の横に立つ小柄な青年は、その言葉に目を丸くして振り仰いだ。
「50年ぶりって……。ガトーさん、30代でしょ?」
「……コウ。…貴様の頭は鳥頭なのか?」
「失礼な事言わないで下さい! 鳥なわけ無いじゃないですか!!」
「いいや。貴様は明らかに三歩歩けば忘れる鶏頭だと、今、私は確信した」
「ええぇ〜〜?!」

酷い!と抗議する黒髪の青年の頭頂部を上から拳骨でグリグリとこねる大男に、館の入り口を開けた執事風情の初老の男性が声をかけてきた。

「アナベル殿。我らの時においても久しくお見受け致しませんでしたが、ご健勝なご様子。シャア様もさぞかし喜ばれましょう。ささ。そのような所で戯れておられず、どうぞお入り下され」
「おお!ジンバ殿!貴殿も壮健でなにより」
アナベルはかまっていた青年を放置すると、初老の男性のもとに駆け寄って嬉しそうに肩を叩いた。

「我らの時は非常にゆっくりと流れておりますからな。それでも辛かった日差しと空気が目に見えて快適になりました故、更に長生き出来そうでございますよ」
「その奇跡を起こされた御仁のご尊顔を拝する事は叶いましょうか?」
「さて。ご当主様のご機嫌如何…とだけ」
困ったような、呆れたような複雑な表情を浮かべたジンバに、アナベルも苦笑を禁じ得ないらしい。
「それ程に掌中の珠で?」
「奇跡の頭脳と魅惑の血液の持ち主でございますれば、生半(なまなか)な相手に接触をさせるご当主様ではございませぬよ」

「あの〜〜」
大柄なアナベルの後ろからひょっこりと顔を覗かせる青年に、ジンバの常は動かす事の少ない眉がピクリと持ち上がった。
「おや、この青年は? アナベル殿の対の相手で?」
「いっ! いや……」
「…嘘はいけませぬな。お顔が真っ赤でございますぞ」
いきなりそわそわとしだしたガトーを横目にし、コウは首を傾げてから一歩前に進み出た。
「あ、俺、浦木コウって言います。H・Gのニホン支部員ですが、ジオン・コーポレーションとの共同開発研究員として、ガトーとは半年前に出会いました。で、今回、ジオンの本部に報告に行くって聞いて、ニホン支部総長から、こちらへ同道してCEOに渡して欲しいものがあるとお使いを頼まれたんです」
「…コウ〜」
「ん?何?ガトー」
「お前は子供なのか?」
「俺が子供の年齢じゃないって事は、知ってるだろ?」
「なら、私が何者かも、知っている筈だな?」
「え? アナベル・ガトー。ジオン・コーポレーション開発部所属。武器開発副統括責任者…だろ?」
空に視線を向けて覚えている事をつらつらと述べるコウの姿に、ジンバが口角を上げた。
「これはこれは。何とも無邪気な御仁で。アナベル殿も心配が絶えませぬな」
「…ジンバ殿。からかわないで頂きたい。コウも、もう少し頭を働かせよ」
「コウ殿。アナベル殿はご当主殿直々に牙を授けたヴァンピールでございますよ。当年とって130歳になられます」
「あっ! そうだった!! ガトーってヴァンピールだったんだ。見た目より爺さんだって事、ころっと忘れ…イダッ!」
「爺さんとか言うんじゃない!! そんな事言ったら、ジンバ殿など仙に…」
「アナベル殿」
能天気なコウに鉄拳制裁を与えたガトーに、静かな圧力を持った声がジンバから発せられ、彼は続く言葉をのどの奥に留めた。

「このような所で足止めをさせていては、ご当主殿よりお叱りを受けてしまいましょう。どうぞ、お入りください」
完璧なアルカイックスマイルを浮かべたジンバの誘導で、ガトーとコウは城塞の中へと足を踏み入れた。
作品名:七色の日に寄せて 作家名:まお