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七色の日に寄せて

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 石造りの館は、適度な湿度を伴ったひんやりとした空気に包まれていた。
足音がコウの分だけ反響している長い回廊を歩いていると、中庭に大きな巨木がある事に気づいた。
樹齢は想像できないほどの幹回り。
その足元に、白い衣の華奢な姿がある事に、コウが気付く。

「ガトー。あそこに人が…」
「ん??」
「おおぉ! お方様。そのような所にお一人でおいでになっていては、シャア様にお叱りを受けてしまわれますぞ!」
コウの視線の先に気づいたジンバが、瞬きの内に巨木の根元へ走り寄る。
ジンバの声に白い衣の人物がこちらに振り向いた。
「あ〜〜! アムロ…さん?」
紅茶色の巻き毛と特徴的な大きな瞳が、H・Gのニホン支部に残されていた伝説の技術者の顔貌そのままであった事に、コウが吃驚した声を上げ、思わず駆け出していた。
コウの声と動きに、アムロの視線が投げかけられる。

「彼は? ジンバさん」
「彼はアナベル殿がお連れしたH・Gニホン支部の研究員だそうでございます。それよりも、お早く自室へお戻り頂かねば…」
「ユーグに話しかけられたから来たんだけど…。それでも駄目なのかな」
「ユグドラシルが?」
ジンバと異なる深い声がアムロにかけられ、その声の方向へ視線を向けると、銀髪にラベンダー色の瞳をした長身の偉丈夫が、アムロに抱きつきかねない勢いで駆け寄ってきた青年の襟首を捕まえながら見下ろしていた。

「あなたがアナベル・ガトーさん? シャアの腹心とも言える初期のヴァンピールの」
「お知り頂いておるなど、光栄の極みに存じます。これなるお調子者は浦木 コウ。H・Gニホン支部の技術開発班に所属する研究員でございます」
「日本支部の?! なら、ブライトさん、知ってるよね?!」
アムロの視線がコウへと向けられ、旧知の情報を欲しているとわかる瞳に、コウは大きく頷いた。

「ブライト元支部総長には大変お世話になりました。で、今回の訪問に際し、アムロさんに渡して欲しいと託された物が…」
そう言ってコウが懐から封書を取り出して手渡そうとしたが、その手は猛烈な勢いではたき落とされた。
「私の許しも無くアムロに触れようなどとは、言語道断! 書状は私が預かる。ガトーは謁見の間に行っておれ。後ほど話を聞く」
「シャア…」
「心得ました」
コウは打たれた手の痛みを忘れて、目の前に立つ金髪碧眼の美丈夫をポカ〜ンと口と目を見開いて見ていた。
が、シャアと呼ばれた美丈夫は、アムロの痩身を胸の中に閉じ込めるようにすると、瞬き一つの内にその場から姿を消した。
「あれ??」
頭を垂れていたガトーがため息と共にコウの頭を軽く叩いた。
「コウ…。お前の最悪のタイミングを掴む才能には、ほとほと感心する。ジンバ殿がアムロ様に言っていた言葉を聞いていなかったのか?」
「えっ??」
「ご当主シャア様は、アムロ様を他者の目に触れさせる事を、殊の外厭われます。お会い出来るのはシャア様のお許しがあってから後。それをお許しも無くお姿を拝し、声をかけられるなどと…」
やれやれ言わんばかりに頭を振る二人に、コウは訳が分からないまま割り当てられた部屋へと連れて行かれたのだった。


 結局コウは、帰国の途に着く直前まで、ガトーとジンバ以外の人物に会う機会は一度も無かった。
あてがわれた部屋以外を自由に見て回っても構わないと許可を貰って、あの巨木のもとへ何度も足を運んだりもしたが、アムロに出会う事は出来なかった。
ガトーは連日、CEOに呼び出されて話し合いの場に行っていたが、コウに声はかからなかった。
それでも、帰国前日にはアムロからの返事を収めた封書をジンバから渡されたので、少しは任務を果たせたかと胸を撫で下ろした。
作品名:七色の日に寄せて 作家名:まお