テイルズオブジアビス 星の願いが宿る歌
1 始まりの日
ND2021年シャドウデーカン・レム・6の日。
刻限を告げる鐘の音が響く。その音で現実に引き戻され、今までの自分が微睡みの中にいた事に気付いた。
何度か目を瞬かせ、顔をあげる。目の前の大きな鏡に、煌びやかな衣装を纏った己の姿が映る。いつもは背に流すだけの長い赤毛も今日は後ろでひとつに括り、白を基調にした正装もきっちり着込んでいる。腰掛けた椅子の横には深紅の外套を持って召使いが控えていた。
「お疲れですね、ルーク様」
「…すまない」
目頭を押さえて、椅子から立ち上がる。召使いが二人がかりでルークに外套を着せる。右半身を覆う外套から左脇に伸びる紐飾りを留めて、召使いがうんうんと頷く。
「よくお似合いです、ルーク様」
ありがとう、と笑顔を作って応える。部屋に置かれた全身鏡を見ると、そこに映る自分は今までのどの瞬間より、貴族然としていた。
「突き当たりの間でナタリア殿下がお待ちです。行きましょう」
「ああ」
メイドが部屋の扉を開けて、ルークが通るのを待つ。召使いの先導に着いて部屋を出る。
廊下に出ると大きな窓の外は晴天だった。城の外の民衆の声も僅かに届く。
「お日柄にも恵まれて、良き日となりましたね」
空を見上げるルークに気付き、召使いが声をかける。ナタリアが控える部屋はもう少し先だ。召使いは言葉にはしないが、笑顔で歩を進めるよう促す。
長い外套をうまく翻して、廊下の突き当たりを目指す。青い空を背景に、窓ガラスに映る自分の姿を横目で見て、
(俺じゃないみてえだ)
どこか他人事のように、今の状況を見つめる自分がいた。
作品名:テイルズオブジアビス 星の願いが宿る歌 作家名:古宮知夏