テイルズオブジアビス 星の願いが宿る歌
召使いが荘厳な装飾が施された分厚い木の扉をノックすると、中から返事があり、扉が開かれた。
「ルーク」
部屋の中央に、丸椅子に腰掛けるナタリアの姿があった。柔らかい金の髪は結い上げられ、白いドレスとベールに身を包んだ彼女はルークの姿を認めるとメイドの手を借りて椅子から立ち上がる。
ナタリアの前まで歩み出て、その姿を真正面から見つめる。何か言おうとする前に、ナタリアが微笑んだ。
「よくお似合いですわ」
「お前こそ」
ナタリアがかけてくれた言葉に対して咄嗟に返すと、扉の前に控えた召使いが咳払いをした。
「…綺麗だ、ナタリア」
「!」
二人して頬を赤く染め顔を逸らす。周りのメイドや召使いたちは微笑ましいげに2人を見守っていた。
「失礼します」
開けられた扉の向こうから声をかけ、文官が入ってくる。ルークとナタリアに近づくと一礼し、陳情する。
「殿下、式の前にご挨拶を申し上げたいという方々が広間でお待ちです。こちらへお通ししてよろしいでしょうか?」
「ええ、お願いしますわ」
文官は畏まりました、と頭を下げて部屋を出た。
「ではルーク、また後で」
「ああ」
部屋を出る直前に軽く手を挙げ、ナタリアもそれに緩く手を振り返す。意図せず緩みそうになる頬を無理やり引き締め、廊下を歩く。控え室に戻ろうとすると、正面から先程の文官に引き連れられて一団が歩いてきた。
「…ルーク!」
一番前にいた少女と少年が声を上げて駆け寄ってくる。
「お前らだったのか」
ローレライ教団の正装に身を包んだフローリアンとアニスがまじまじとルークを見上げ、その向こうからはジェイドとガイがやってくる。
「ルーク!かっこいいね!ルークじゃないみたい!」
「すっご〜い!そうしてると本当に王子様みたいだよ♡」
「“みたい”じゃなくて本当に王子様になるんだろ」
「馬子にも衣装ですね」
「お前ら、相変わらずだな…」
久々の再会だというのに悪態しか出てこない事に辟易としつつ、どこか嬉しさも感じていた。わざとらしく溜息をついて廊下の先を見やると、ジェイドの影になって見えなかったがもう一人、そこにいることに気付いた。
「…ティア」
「久しぶり、元気そうね」
名前を呼ばれたティアがにこ、と微笑を湛えて応える。アニスと同様、教団の正装を纏うティアの髪は肩上で切り揃えられ、より一層大人びて見えた。
アニスがフローリアン、ジェイド、ガイと目配せし、
「アニス、早くナタリアにも会いたい!」
「も〜しょうがないな〜それじゃ、私たち先にナタリアのとこ行ってるね!」
「ティア、後から来いよ」
「では失礼しますよ、未来の国王陛下」
「うるせえ、さっさと行ってこい!」
笑いながら四人は文官の案内で先へ進んでいった。その場にティアと二人きりで残されて気まずさもあったが、同時に感謝もしていた。
「髪、切ったんだな」
「ええ。どうかしら」
正直まだ慣れないんだけど、と言って毛先を弄ぶティア。その仕草を見て、心がざわつくのを感じた。
「似合ってる」
「ありがとう」
ティアは微笑み礼を言う。今日のティアはよく笑う、と思っているとそのティアが胸の前で左の拳と右の手のひらを合わせ、頭を下げた。
「この度は、ご結婚おめでとうございます」
突然の公式の祝辞に一瞬たじろぐルーク。しかしそれを気取られぬよう、
「ありがとう」
努めて冷静に返した。それを聞いてティアが礼を解く。
「本当に王様になるのね」
「伯父上がいる間はまだ即位はしないけどな」
「そうなの?すぐに戴冠式もあるんだと思ってたわ」
「周りがどう思ってるかは知らねえけど…俺はそんなつもりねえよ」
プイ、とそっぽを向くルークを見て、ティアがクスッと笑う。
「ナタリアと幸せにね」
「…ああ」
それじゃあ、とティアが歩き出す。すれ違って、数歩分足音が聞こえた所でルークが振り返る。
「ティア!」
ティアの足が止まり、肩越しにルークを見やる。見つめられて、ルークの口はもごもごと言い淀む。
「…悪い、なんでもない」
ついには言うことが思いつかず、俯いてしまう。行ってくれ、と背を向けるルークに今度はティアが声をかけた。
「ねえ!」
ちら、とルークがティアを見る。
「大佐はああ言っていたけれど。私はその衣装、とてもよく似合ってると思うわ」
ルークがぱちぱちと目を瞬かせる。
「かっこいいわよ、とっても」
「…ありが、とう」
にこっと笑ってティアがまた歩き出す。その背中を見送って、ルークもまた、彼女とは反対の方向へ歩き出した。
作品名:テイルズオブジアビス 星の願いが宿る歌 作家名:古宮知夏