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テイルズオブジアビス 星の願いが宿る歌

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 ルークと女の間を風が吹き抜ける。揺れる女の銀髪が光をチラチラと反射し、陽射しの温かさを感じさせる。対照的に、ルークの胸は酷く凍えていた。背中を冷たい汗が伝う。
 女の後ろに浮かぶ、ふたりの姿。目を覚ます様子はない。状況を考えれば、それはある意味幸いかもしれない。問題は、ふたりが浮かぶ位置だった。彼女達を閉じ込める結界は今ルークが立つ建造物の外側にある。つまりその足元は地上まで何も無い。
 この建造物の具体的な高さは分からないが、地上であれほど立ち込めていた砂塵がほぼ舞っていないことを見ると相当の高度があるはずだ。確実なのは、生身で落ちて助かる高さではないこと。それは、あの女が結界を解除するだけでふたりの命は簡単に失われることを意味した。
 現状を把握して女を睨む。
「どういうつもりだ…!そいつらに何かあってみろ、絶対に殺す!」
 殺意を剥き出しにした言葉を受けて、女はふわり、と岩壁から飛び降りた。まるで重力を感じさせない着地は音もなく、優雅としか言い様がない。それもまたルークの神経を逆撫でる。
「この状況を作り出したのはあなた達自身よ。恨むなら互いを恨みなさい」
 女の言葉も仕草も、何もかもが腹立たしい。いつの間にか自由を取り戻した体で抜刀しながら立ち上がる。
 ここから全力で走れば、結界を解かれたとしてもどちらか片方には追いつくだろう。しかし、片方だけだ。二人とも救うことはできない。
(アルビオール…はだめだ、ここが何処かもわからねえ…!)
 胸元に仕舞われた通信機がやたら重く感じられる。せめてガイがいてくれたら。一瞬友人のことを思い浮かべ、すぐに頭を振る。
(無いものをねだってどうする…!考えろ、今は俺しかいねえんだ…!)
 また正面を見据えると、女はじっとルークを見つめていた。岩壁から下に降りてきた女は僅かに距離が近づいたことで、その表情も先ほどよりは判るようになった。
「どうして迷うの?あなたがアッシュだというなら答えは簡単でしょう?」
 真顔のまま女は首を傾げる。
「それともまだふたりとも助けられると思ってる?それは傲慢よ、あなたの身体はひとつしかないんだから」
 助けられる命もひとつだけ、と告げられる言葉は無情だ。感情を感じさせない平坦な声音にまた苛立ち、唇を噛み締める。
 状況に着いていくことだけで精一杯な中、なぜこんなにも重い決断を迫られなければならないのか。
 ナタリアか、ティアか選べと言う。更に選ばれなかった方はその場で命を失う。自分の選択で、そんなに簡単にひとつの命が失われるのか。何より、こんな事で人の命を奪うと言って尚、感情の揺れを一切見せない女には恐怖すら覚える。
 様々な感情で頭を支配されて思考がまとまらない。悔しさからか呼吸も浅くなる。知らず知らず、剣を握る左手には力がこもり爪の先まで真っ白だ。衝動に任せて走り出し、女に剣を振り下ろせたらどれほど良いか。しかし、それは許されない。
「時間よ」
 女が右手を顔の高さまで挙げる。
「さあ、あなたの答えを見せて」
「ッ!」
 パチン、と指が鳴らされると同時にティアとナタリアを包んでいた結界が消える。ふたりの身体は重力を思い出し、地面に吸い寄せられていく。髪の一筋一筋、着衣の揺れ動きのひとつひとつがはっきりと網膜に焼き付くようだった。
「────!!」
 手を伸ばし、走り出したと思う。その時口から発した音がなんだったのかはわからない。誰かの名前だったかもしれないし、言葉にならない叫びだったかもしれない。ただ、「見つけた」と呟いた女の声と、その瞳が深い群青色であったこと  だ