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テイルズオブジアビス 星の願いが宿る歌

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 シェリダンへ繋がる連絡船に乗り、久々に感じる船の揺れに慣れてきた頃。ルークは水平線上に見え始めたラーデシア大陸を船の甲板から眺めていた。空は快晴。船体にぶつかる波の音とエンジン音を聞きながら欄干に寄りかかる。
「あと一時間程度で到着だそうよ」
 背中側から聞こえたのはティアの声だ。ルークと同様に欄干に掴まり、大陸の方を確認する。
「久しぶりの船はどう?」
 ティアは少し笑いながら尋ねる。ルークが先程まで客室でのびていたのを知っているからだ。
「アルビオールの方が断然いいや」
 アルビオールに乗った時の浮遊感と加速に伴う圧迫感も最初は戸惑ったが、いまこうして船に乗って比べてみると違いがよく分かる。ルークは、海の波が生む独特な揺れの方が辛かった。
「速度も全然違うしね。ちゃんと借りられたらいいんだけど」
 旅をすると決まった時、最初に交通手段としてアルビオールを借りて使わせてもらうのが良いだろうと提案したのはガイだった。ルークの頼みであれば断られないだろう、ということで旅の最初の目的地はシェリダンとなった。
「軍からも事前に要請は出してくれたみたいだけどな」
「アルビオールを使いたい組織は多いでしょうから」
 過日の結婚式の招待客を運んでくれたのもアルビオールだった。あれがなければ、きっとあのように各地の客人は招けなかっただろう。
「ノエル元気かなぁ」
「つい最近会ったでしょう?元気だったじゃない」
「俺は直接話してねえんだよ」
「あ…ごめんなさい」
 あの時はまだアッシュだったものね、とティアが言う。
「きっとノエルも喜ぶわ」
「…だといいな」
 計器に目を配り操縦桿を操作し、自らの手足のようにアルビオールを飛ばすノエルの姿を思い浮かべる。その後ろ姿はいつ見ても頼もしく、かっこよかった。
 またアルビオールに乗れると思うと、少しワクワクした。ガイほどではないにせよ、人が作った音機関が自由に空を駆ける姿はやはり心を躍らせる。
「ジェイドやアニスは、船で帰ったんだよな?」
「ええ。…ふたりとも、そろそろ到着したころじゃないかしら」
 ジェイドはグランコクマへ、アニスはダアトへ。彼らは予定通りあの後すぐに出立し、それぞれの立場からナタリアやアッシュのことを探ってくれることになっていた。
「船だと遠いな、どっちも」
「旅の最後の方は、ずっとアルビオールで飛んでいたから少し変な感じよね」
 アルビオールの速さなら二日もあればオールドラントを一周できてしまう。そのため、大抵の目的地へは一日もあれば辿り着いた。
「またすぐ会えるわ。アニスは向こうで報告を済ませたらすぐに合流したいと言っていたし」
 はたと気づきルークはティアに尋ねる。
「ティアやガイは良かったのか?一回帰ったりしなくて」
 今更?とティアが笑う。その通りだとルークも思った。
「私はトリトハイム大詠師から正式な任務として拝命しているし、ガイもピオニー陛下から勅命を受けているのよ。“次期キムラスカ国王陛下の援助”をね」
「そうだったのか…」
 名目上、ということなのだろうがそれが仕事なのであれば気兼ねなく付き合ってもらえる。ルークがそう思うことも知った上で、ふたりは働きかけてくれたのだろう。
「むしろ次期国王の護衛が二人だけっていうのもどうかと思うけど」
「あんまり大所帯だと動きづらいだろ」
 もちろん、インゴベルト国王に旅に出ることを話した時には一個小隊を護衛に付けかねない勢いだった。港に見送りに来たセシル将軍やゴールドバーグ将軍も最後まで着いてこようとしていたし、それを断るのも一苦労だった。
(正直、将軍たちに囲まれてたら息が詰まるし)
 気心知れた昔の仲間たちとだけで旅をした方が色々と上手く行く気がしたので、周囲を説得して今の形になった。ガイやティアの腕は皆知るところであった為、特に大きな反発もなく話が進んだのは幸いだった。
「…そういやガイは?」
「ああ、彼なら…」
 ティアが後ろを振り向き、ルークも同じ方向を見る。その先には、ルーク達より甲板の後方、シェリダンの音機関技師らしき男性と談笑するガイがいた。
「たまたま乗り合わせていた、アルビオールの整備士なんですって」
「相変わらずだな」
 船に乗る前、ガイがアルビオールについて話していたことを思い出す。確か、新しい機体の開発が進んでいるとかだった。きっとシェリダンでは多くの技師が駆け回っているのだろう。活気のある職人の街を思い、そこに生きる人達の顔を思い浮かべる。
 あの街でも色々あった。得たものも、失ったものもあった。ふと寂しさを感じた時、後頭部に衝撃が走った。
「フィフィ」
 ティアがルークの頭の上辺りを見て言う。なんとなく想像はついていたが、正体を聞いてやはりお前かと思う。フィフィは器用にルークの頭の上によじ登り、尻尾を大きく揺らした。その眼は遠くの空を見上げ、ティアがその視線の先を追う。
「…あれ、もしかして」
 東の空。小さな点のように見えていたものが、次第に大きくなっていく。
「…アルビオールだ!」
 鳥が翼を広げたような形がはっきり見えたと思うと、空気を切り裂く音と共にあっという間に船に近づきルーク達の頭上を駆け抜けた。直後、まるで挨拶をするかのようにくるりと機体が旋回した。
 残された風と音の中で、甲板にいたほかの乗客たちも色めき立っていた。ルークの頭上のフィフィも、今まで見たことがないくらい尻尾を振っている。中でも、
「おいふたりとも!見たか今の!」
 音機関マニアのガイの興奮は一際目立っていた。ルークたちに駆け寄りながらもその目はまだ西へ飛んでいくアルビオールを追っている。
「見たけど」
「新号機だぞあれ!完成したんだ…!凄い、凄いことだぞこれは!!」
「へー…」
 ガイのボルテージが上がっていくのに反比例してルークとティアの視線の温度はどんどん下がっていく。しかし今のガイには通じない。
「パイロットはノエルかな!?いいなぁ、少しだけでも乗せてもらえねえかなあ…!なあルーク、シェリダンに着いたら頼んでくれよ!」
「はあ?自分で頼めよ」
「俺よりもルークが頼んだ方が通りやすいだろ!な、頼む!!」
 ルークはとある一件でシェリダンに恩を売っている。ガイはそのことを言っているのだろう。
「まあ頼んでみるくらいなら…」
「!まじか!ありがとな〜ルーク!」
 やっぱり持つべきは友だな!と言ってルークの肩を叩くガイ。ティアは呆れたようにため息をつき、フィフィはいつの間にか船首の方まで移動して空を見ていた。
《……ご乗船の皆様。当船はまもなくシェリダン港に到着致します。客室をご利用の方はお荷物のご準備をお願い致します。当船は────…》
 船内にアナウンスが響き、甲板にいた乗客たちはそれぞれ船内に戻っていく。
「ルーク、ガイ。私たちも行きましょう」
「おう。…おいフィフィ!」
 ルークが呼びかけるとフィフィは耳を立てて振り返る。パタパタと甲板を駆けてルークの肩に飛び乗った。
「ついたらまず飯だな」
「さっきまで船酔いしてたくせに、調子いいんだから」
 ルークの背中で揺れるフィフィの尻尾は、楽しげに揺れていた。