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テイルズオブジアビス 星の願いが宿る歌

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「だからフィフィがいなかったんですね」
「ああ…ちょっと悪いことをしたと思ってるよ」
 アルビオールの近くに横並びに腰を下ろし、状況説明をしている最中ノエルに言われてガイは最後に見たフィフィの様子を思い出す。レヴィンの研究室に戻り、ルークから「しばらくジェイドと仲良くな」と告げられたフィフィはまるでこの世の終わりのような顔をしていた。「宜しくお願いします♡」と謀略に満ち満ちた笑顔のジェイドに背後から抱きかかえられた時には「これは聞いてない!裏切り者!」と言わんばかりに暴れていた。当のジェイドはそんな抵抗ものともせずあっさりフィフィを何処ぞへ連れ去っていたが。
「…っふふ」
 思い出していたらつい吹き出してしまった。ノエルが不思議そうに首を傾げる。
「ああ、ごめん。あの時のフィフィは傑作だったなって思ってさ」
 目に浮かぶようです、とノエルも笑う。
「でもあの子、本当にジェイドさんが苦手なんですね。どうしてでしょう?」
「…さあ。特に旦那と何かあったわけじゃないはずだが」
 言われてみればあまり深く考えたことがなかった。フィフィとジェイドは言うほど顔を合わせた回数も多くない。勝手に生存本能だと思っていたが違うのだろうか。
「ミュウはあんなに怖がらないもんな」
「みゅ?」
 ノエルの膝の上でリンゴを齧っていたミュウが顔を上げる。
「ジェイドさんはたまに怖いですの。でもいつもはご主人様に優しいですの!だからボクも怖くないですの!」
「はは、そうか」
 ミュウは全部ルークが基準なんだな、とガイは笑う。ノエルがミュウの頭を撫でた。気持ちよさそうに目を細めるミュウを見ていると、どうしてもフィフィを思い出す。
(離れて寂しいのは俺の方か?)
 そんなことを言えば四方八方から揶揄われるのは目に見えているので決して口には出せないが、なんだかんだフィフィの世話係のようになっていたガイは肩口に触れるものがないことに落ち着かなくなっていた。フィフィは体こそ軽いが毛並みは柔らかで撫でれば暖かく日向の匂いがする。出会ってからの時間はあまり長くないが、そばにいる時は大抵撫でて過ごしていたのでそれを取り上げられた寂寥感は予想外に大きかった。
「あ、戻ってきましたよ」
 ノエルの声でガイは掌から視線を外し前を見る。その先にはルークとティアが連れ立って歩いていた。また何か言い合いをしているのか二人とも肩を怒らせているのが遠目に見てもわかる。
「ただ買い出しに行ってもらっただけの筈なんだが…」
 暫く見守っているとルークがティアの抱える荷物を取り上げた。ティアは取り返そうとするが、上手く躱すルークにそのうち観念して大人しくその横をついて歩き始めた。苦笑するガイとノエル。ミュウが手にしていたリンゴをノエルに預け、膝から降りてルーク達の元へ走り寄っていく。
「あの二人も素直になればいいのにな」
 ルークもティアも自分の気持ちを素直に言葉にできない性分だ。ルークに関しては昔に比べれば随分ましになったが、ティアは肝心のルークの前では隠したがるきらいがある。それがこの旅が始まってから、より頑なになっているのをガイは感じていた。昨夜の一件がいい例だ。
(素直に一緒にいたいって言えばあんなややこやしくならなかったんだ)
 その一言が、簡単だからこそ難しい。人の恋路を傍から見ているとつい口を出してしまいそうになるが二人にとってそれは良くないこともわかっている。ルークの兄替わりであるガイには、今の状況は楽しくもあるが同じだけ苦しくもあった。
「喧嘩するほど仲が良いとも言いますし」
「なら、いいけどな」
 足元までやってきたミュウをティアが抱き上げ、ガイ達に気付いたルークが荷物ごと左腕を掲げて合図を送る。ノエルとガイも立ち上がって三人が戻ってくるのを迎えた。
「全部買えたか?」
「おう」
 ルークが持つ荷物を半分受け取って共に機内に運ぶ。ダアトへ移動する前に必要なものを買い足すことに決め、二人を街に送り出している間、ガイとノエルはアルビオールの状態を確認していた。ディストがアルビオールをいじったと聞いていた為きちんと動くか心配したが、特に悪いことはなさそうだった。
「一緒に乗る人達は?」
「そろそろ来る頃だと思うぞ」
 ダアトへ発つ事をレヴィンに話した時、そこから送られてきた患者の中で経過が良好な者はアルビオールに同乗させることになっていた。時間的には、患者たちの選別と移動の準備が整う頃だ。荷を片して機窓から外を眺めると遠くにそれらしき一団が歩いているのが見えた。
 ルークの後についてタラップを降りると、下ではティアとノエルがミュウにリンゴを食べさせていた。それを見下ろすルークの横顔が決して自分には見せない優しい顔であることに気付き、ガイの目元は自ずと緩む。
 ルークが地上に立ったことを確認するとガイは一気にタラップを駆け下りてルークの背をぽんと叩き、その横に立つ。
「頑張ろうな、ルーク」
「は?ああ……うん?」
 いきなりなんだよ、と要領を得ず戸惑うルークを余所にガイはアルビオール目指して歩く一団のいる方向を眺める。
「ダアトも久しぶりだな」
「…そうかもな」
 何を思い出しているのか、ルークの瞳が遠くを見つめるように少し翳る。いつの間にかルークの隣りにティアとノエルもやって来て、彼らと同じほうを見つめていた。
「少し長い旅になりそうね」
 ティアの言ったそれは、今から飛ぶダアトまでの道程のことだったかもしれない。しかし、ガイにはそれだけの話には聞こえなかった。
「そうだな」
 応えたのはルークだ。彼にはどう聞こえたのだろうか。ガイは横目で隣の様子を窺うが、敢えて尋ねたりはしない。ルークの視界に映るものが何なのかを知るために、また前を向く。全く同じものを見て歩くことは出来ないかもしれない。けれどせめて、助けを求められた時には手を差し伸べられるように。
(なるべく近くにいてやろう。これが最後かもしれないから)
 背中を押すように、柔らかい風が一陣。若木の青い匂いを乗せて一行の間を吹き抜けた。