文シリ短文詰め
※病み太宰さん
【フェティッシュあるいは解体される愛】
僕は部屋の入り口に近いところに座って、ずっと彼の痩せた背中を見ていた。さっきからどちらも口をきかなかった。日は既に沈んでいた。煙草の煙にけぶった部屋の中は、もうすぐ電灯を点けねば顔も見分けられないほど暗くなるだろう。
どのくらいの沈黙の後だったのか、僕は声をかけた。
「死にたいとおっしゃるのなら死にましょう。ねえ一緒に」
ここでようやく、部屋を訪問してから初めて彼は振り向いて、身体的とばかりはいえない疲労の蓄積した昏い目をくれた。彼が時々この状態に陥るのだということは、僕は以前から聞き及び知っていた。
「生憎僕はそういう冗談は好きじゃないんだ」
「本気です」
「ここではどうやったって冗談にしかならないよ」
「でも、実際に試されたことなどないでしょう」
僕は逃げる素振りを見せない相手ににじり寄っていき、そろそろと彼の喉に手を伸ばした。
「死んでも生まれ変わるだけじゃないのかい」
「どうでしょう」
親指に力を込めると、息を詰める音がした。
ところで。いつか彼の人形に怯える顔に恍惚を覚えたように、喜びも悲しみも苦しみも、僕には彼の全てが等価である。
僕は彼の全てを無条件に愛する。
間近で見る瞳の中の、懊悩。苦悩の色のその痛ましさ。美しさ……。
興奮した……ので、それ以上力を込められないで、手を掛けたまま顔を近付けていって口付けた。