文シリ短文詰め
5時間以内に7RTされたら、欲情した眼で耳と尻尾を付けさせている太芥を書(描)きます! http://shindanmaker.com/117910
【お願い聞いて】
「いきなりですが、芥川先生。是非これを付けて頂きたいんです。お願いします」
青年は紙袋を差し出すと、芥川の前に寸毫の躊躇いもなく土下座した。
芥川側の締め切りが立て込んで、しばらく顔を出していなかった太宰の訪問第一声がこれであった。
「は?え?これを?いやしかしこれは…」
芥川が卓の上に置かれた紙袋の中を確かめると、猫の耳としっぽが入っている。もちろん本物ではなく作り物だ。
(平成地区のアキバでこんなの見たっけ。泉さんが気に入って結局買ってたな……あれはウサギの耳か)
紙袋から目を移すと、太宰はまだ頭を下げている。
こんな玩具を付けてくれとは彼は何を言い出すのだろう。出会ってから恋人同士という関係になった今に至るまで、彼はたまに分からないことを口走る……。
黙っていると、太宰は身を乗り出し、芥川をかき口説き始めた。
「少しっ、ほんの少しの時間でいいのです。五分、いや三分…!」
懇願する青年の目はとにかく熱っぽく真剣である。
「お、落ち着いて。ていうか太宰くん、顔が怖いよ」
熱心な太宰に戸惑いつつ、芥川は猫の耳を手に取ってしげしげ眺めた。
やっぱり見るからに玩具という安い造りだ。
「昨今こういう付け耳が平成地区で流行ってるって聞いたけど…。こんなのは余興とか子供が遊びで付けるようなものなんだろう?何だって君は僕にこんな仮装をさせたがるんだい?」
しかもそんな真剣に…と心の中で小さく付け加わえた。
「僕、芥川先生に大変お似合いになると思うのです!否絶対似合います!見たいんです!見せて下さい!」
「う、うん…」
畳みかけるような語勢に気おされて、曖昧に頷いてしまう。こんな子供の玩具を似合うといわれても、どう反応していいのだ。一体彼は何故そんなものが見たいのであろう。
(―…はっ!そうか!)
ここで芥川にある考えが閃いた。
これほどまでに熱心に頼んでくるのだ。彼は創作上のインスピレーションでも得ようというのかもしれない……!
谷崎を見よ。彼など先ごろ原稿を取りに来た新人編集相手にSMプレイを強要したとかしないとか。その作家の創作意欲の源泉がどこにあるかなど、他者が理解しきれるものではないのである。
自分もライトノベルの執筆を打診されたことがある。きっと果敢にも当世風の作品に挑戦しようという彼なりの試みなのではないのか…?
芥川龍之介は真面目だった。真面目すぎて天然だった。
「ま、まあこれを付けて表を歩けとでも言うんでなければ、少しの間付けるくらいは…?」
谷崎の行動まで行くと犯罪だが、ただ玩具の耳を付けるだけだ。ならば芥川とて同業の才能ある後輩に協力するのはやぶさかではない。
「本当ですか!!!!」
鼻息荒く迫られて、その勢いに一瞬己の発言を後悔しかかったが、ありがとうございます!と感涙に咽んでいる太宰を前にしては取り消し辛い。
「じゃあ…少しだけ…」
「あ、これも忘れずお願いしますねっ」
ぱっと顔を上げた太宰は間髪入れず尻尾を差し出した。
取り合えず今の自分の姿は絶対鏡で見たくないな……と遠い目になりながらも、芥川は猫耳を装着し終え、
「えっと、これでいいのかい」
付ける様子を見られているのが何だか恥ずかしかったので、向こうを向いてもらっていた太宰におずおずと声をかける。
「いい!!大変宜しいです!!!」
振り向いた青年の顔は、清々しい程に輝いていた。
と思うやいなや太宰は懐からスマホを取り出し、芥川に向かってかざした。
膝の上に手を乗せて正座している芥川の前に回ったり、後ろに回ったり、腹這いになって下から仰いだりしている。
「ああ~少し恥じらいのあるのも堪りません…!素晴らしい!」
「……。あのさ、太宰くん、何してるんだい…?」
「何って勿論、先生の素晴らしい御姿を記録に残しているのに決まっているじゃありませんか」
「へ?記録?…あっ」
そういえば以前谷崎に強引に勧められ、同じものを買わされた時に、この機械は通話の他に写真を撮ることも出来るのだと教えられたのを思い出した。
「やめてくれたまえ!僕はこの場限りだからと付けたんだ。こんな格好を撮って他の人間にも見せて笑おうとでもいうのかい。太宰くん、君がどうしてもと言うから付けたのにひどいよ!」
「何をおっしゃるんですか、こんなかわいらしい貴方を他の奴らに見せてやったりするものですか!僕の秘密の裏☆芥川先生コレクションに加えて大事にさせて頂きます!」
「何そのコレクション」
「おっと口が滑りました」
ねえちょっとと追求しようとするのをのらりくらりとかわされながら、しばしの間撮影会は続いた。
「いやあ堪能させて頂きました」
短い時間にも関わらす精神的疲労を感じている芥川とは対照的に、太宰はほっこり満足げな満たされた表情をしている。
すると太宰は頭をかきながら、急に恥ずかしそうに芥川を見た。
「あの、ありがとうございました。僕のこんな不躾な頼みを聞いてくだすって」
心底申し訳なさそうに上目遣いで言うものだから、大の男が頭から猫の耳を生やした間抜けな格好であることも一時忘れ、まあいいか…と思ってしまう。
何だかんだ芥川は青年のこの顔に非常に弱いのだった。
「うんまあ僕も、君の創作の役に立てたんならうれしいよ」
「創作…?ええと、それとですね、芥川先生」
太宰は居住まいを正した。
「もうひとつ、本当に勝手な願いなんですけれど」
芥川の手を取って握る。
「付けたままで、一回お願いします」
「え」
この間の抜けた格好のまま?
「あ!もしかして原稿明けでお疲れですか!?今日は駄目ですか!?」
「いや、それはその。駄目ではない、けど」
恋人同士久し振りに会えたのだから、もちろんそういう期待はあるし。あるが。
「よろしいんですね!ありがとうございます!一生の記念になります!僕もう死んでもいいですぅう…!」
「君も僕ももう死んでるから!いや、そうじゃなくってね、」
「先生、好きですっ、ああ良いです耳、ハアハアとってもかわいい…!」
「太宰くん、だから待っ…」
息も詰まるほど抱きしめられて、君はもう少し落ち着いて話を聞いて!という心の叫びを伝えるには、毎度ながらもキスの雨をかいくぐっては難しかった。