Blue Eyes【後編】
Blue Eyes
エゥーゴ、ティターンズ 、アクシズの三つ巴の戦いは熾烈を極め、コロニーレーザー “グリプス2”を巡り、カミーユ、クワトロ、ハマーン、シロッコによる激闘が繰り広げられた。
「シロッコ!!お前だ!!いつもいつも脇から見ていて人を弄んで!!」
カミーユは逆上しZガンダムでシロッコが駆るジ.Oに向かってバーニアを吹かす。
「勝てると思うな!小僧!!」
シロッコの叫びと共にジ.O のビームがZガンダムに放たれた。
それを躱しながらカミーユが叫ぶ。
「俺の命に代えても!身体に代えても!こいつだけは!!」
サーベルで斬りかかるZガンダムにジ.Oのビームが襲いかかる。
「くっ!!」
と、そこにエマの声がカミーユの脳裏に聞こえる。
『だからいけないのよ!冷静になりなさい!』
他にもライラ・ミラ・ライラやカツ、レコア、ロザミア、フォウ逹の…懐かしい声がZガンダムのコックピットに響き渡る。
「みんな…、みんなにはわかる筈だ!今日という日にこの男は生きていてはいけないと!!みんなに俺の身体を貸すぞ!!」
人々の想いがカミーユの身体を通してシロッコへと向かっていく。
そして、ウェブライダーへと換装したZガンダムがジ・Oを貫きシロッコの命を絶った。
“人の死”それをこの瞬間、カミーユは今までで以上に強く感じた。
一人の人間の歪んだ欲望が、人々の幸せを脅かす。そして、その死が人々の幸せを守る事になるなんて…。
遣る瀬無い想いにカミーユは唇を噛み締める。
この戦争で、多くの人々の命が失われた。
両親、エマ中尉、レコア少尉、ロベルト中尉、アポリー中尉、ヘンケン艦長、カツ、サラ、ロザミア、そしてフォウ…。
大切な人達の命が宇宙へと散っていった。
悲しみが心を覆っていくのを感じて、カミーユはノーマルスーツの胸元を握りしめる。
戦いが終わり、各隊が撤退を始めた時、Zガンダムの元にファのメタスが飛んできた。
〈カミーユ!!〉
ファの涙声がヘルメットのスピーカーから聞こえてくる。
「ファ!」
生きていてくれた大切な人の声を聞き、カミーユの瞳に喜びの涙が込み上げる。
二人はコックピットを飛び出すと、くるくると宇宙空間を漂いながら抱きしめ合い、スーツ越しに互いの温もりを感じながらその“生”を噛み締めた。
アーガマに帰艦したカミーユに、クワトロの未帰艦の報告が入る。
「クワトロ大尉が!?」
艦橋ではブライトが必死にクワトロに呼びかけている。
しかし、クワトロからは何の返事も帰って来なかった。
数時間が経ち、クワトロ大尉の百式が大破した状態で回収された。
ドックへと急いで向かったカミーユが見たのは、両手両脚を失った百式と空のコックピット。
誰もがその機体を見て、クワトロの死を覚悟した。
「クワトロ大尉…」
「まさか!クワトロ大尉に限ってそんな事!」
口に手を当て泣き叫ぶファを、カミーユはどこか他人事のように見つめる。
『クワトロ大尉が戦死?そんな事有り得ない』
その機体を見ても、カミーユはクワトロの死を認める事が出来なかった。
しかし生死はどうあれ、クワトロがアーガマに…エゥーゴに帰艦しなかったのは事実だ。
カミーユはフラつきながら自室へと戻るとベッドへと倒れこむ。
その時、不意にサイドテーブルの上に置いてあった紙飛行機が目に入った。
徐ろにそれを手に取り、天井の灯りにかざす様にして眺める。
“これ大佐が教えてくれた折り方で、すっごく良く飛ぶんだ!”
嬉しそうに話すアムロの顔が目に浮かぶ。
「アムロさん…」
その時、灯りに照らされ、紙飛行機の紙に何かメモが書かれているのが透けて見えた。
慌てて飛び起きると、飛行機の折り目を解いて紙に書かれている文字を確かめる。
「これは…!」
カミーユはその紙を握りしめ、急いで艦長室へと向かった。
「どうした?カミーユ」
艦長室で1日半ぶりの休息を取っていたブライトが、疲れた顔をしてドアを開ける。
「お疲れのところすみません!どうしても伝えなければいけない事があって!」
その慌てぶりに、ただ事でない事を察したブライトは艦長室へとカミーユを迎え入れた。
カミーユは艦長室に入ると、盗聴器やカメラがない事を確認して、先ほどの紙飛行機をブライトに広げて見せる。
不思議な顔をしながらも、それを受け取り内容を確認する。
「この字は!」
「やはり、アムロさんの字ですか?」
「あ、ああ。この右上がりのクセのある字は間違いなくアイツの…それよりもこの内容…どういう事だ?カミーユ!アムロは!?」
「艦長!アムロさんは生きています!」
「何!?」
「ああっやっぱり!アムロさんの心は完全に失われてはいない!艦長!急いでカイ・シデンさんに連絡を取ってください!俺も直ぐに月に向かいます」
その紙に書いてあったのはアムロのメモ…いや、記録だった。
『4月11日
今日は朝から頭の中がスッキリしている。俺の意識が保てるのは三日から五日に一度、二時間くらいだろうか…。脳の記憶を司る部位を損傷したのだろう。記憶が酷く不安定だ…。初めは全てが無になったと思った。
そして、まるで赤ん坊が成長するように少しずつ自我が形成され、今、俺はようやく十歳くらいに成長した様に思う。
だが、どうやら記憶が全て失われた訳では無いようだ。こうして時折記憶が蘇り、本来の自我を取り戻す。
4月14日
今日は酷く不安定だ。子供の俺と本来の俺の意識が混ざり合って混乱する。
…ー
4月20日
久しぶりに『俺』だ。しかし身体が怠い。熱がある様だ。子供の俺の意識が混濁すると『俺』に戻りやすいのだろうか…
4月25日
キグナンは来週、シャアがここに来ると言っていた。なぜか、ララァに似た気配を感じる。きっと…何かが動き始める。
4月29日
キグナンが仲間と連絡を取っている。
彼は、ジオンでのシャアの部下らしい。
それも、かなり古参の…ダイクン派?そんな単語が耳に入る。
シャアは…連邦に潜入しているという…。しかし、その影でジオンの仲間とも繋がっている…。何か…準備をしている様だ。
5月1日
明日、シャアがここに来るらしい。
子供の俺は、それをとても楽しみにしている。なぜシャアは俺を助けたのか…。
それも、ジオンの同胞に俺の事を隠しているらしい。なぜ…
5月2日
昨日に続き今日も『俺』だ。
久しぶりにシャアに会った。
シャアはキグナンと何やら話し込んでいる。
キグナンはシャアが一言声を上げれば同胞達がシャアの元に集まると言っている。
しかし、シャアはあまり乗り気ではないようだ。
5月3日
珍しく連日『俺』の意識がある。
一日のうちのほんの数時間だが嬉しい。
昨夜、俺に触れるシャアから“迷い”と“孤独”の思惟が伝わってきた。
そんなシャアを救いたいと思うこの気持ちは、俺の中に溶け込んだララァの想いなのだろうか…』
アムロの記憶は完全に失われてはいなかったのだ。
時折記憶が戻り、本来の自我を取り戻す度、こうして記録を付けていたのだろう。
このメモを子供のアムロが何も知らずに紙飛行機にしてしまったのか、それとも意図しての行動だったのかは分からない。
エゥーゴ、ティターンズ 、アクシズの三つ巴の戦いは熾烈を極め、コロニーレーザー “グリプス2”を巡り、カミーユ、クワトロ、ハマーン、シロッコによる激闘が繰り広げられた。
「シロッコ!!お前だ!!いつもいつも脇から見ていて人を弄んで!!」
カミーユは逆上しZガンダムでシロッコが駆るジ.Oに向かってバーニアを吹かす。
「勝てると思うな!小僧!!」
シロッコの叫びと共にジ.O のビームがZガンダムに放たれた。
それを躱しながらカミーユが叫ぶ。
「俺の命に代えても!身体に代えても!こいつだけは!!」
サーベルで斬りかかるZガンダムにジ.Oのビームが襲いかかる。
「くっ!!」
と、そこにエマの声がカミーユの脳裏に聞こえる。
『だからいけないのよ!冷静になりなさい!』
他にもライラ・ミラ・ライラやカツ、レコア、ロザミア、フォウ逹の…懐かしい声がZガンダムのコックピットに響き渡る。
「みんな…、みんなにはわかる筈だ!今日という日にこの男は生きていてはいけないと!!みんなに俺の身体を貸すぞ!!」
人々の想いがカミーユの身体を通してシロッコへと向かっていく。
そして、ウェブライダーへと換装したZガンダムがジ・Oを貫きシロッコの命を絶った。
“人の死”それをこの瞬間、カミーユは今までで以上に強く感じた。
一人の人間の歪んだ欲望が、人々の幸せを脅かす。そして、その死が人々の幸せを守る事になるなんて…。
遣る瀬無い想いにカミーユは唇を噛み締める。
この戦争で、多くの人々の命が失われた。
両親、エマ中尉、レコア少尉、ロベルト中尉、アポリー中尉、ヘンケン艦長、カツ、サラ、ロザミア、そしてフォウ…。
大切な人達の命が宇宙へと散っていった。
悲しみが心を覆っていくのを感じて、カミーユはノーマルスーツの胸元を握りしめる。
戦いが終わり、各隊が撤退を始めた時、Zガンダムの元にファのメタスが飛んできた。
〈カミーユ!!〉
ファの涙声がヘルメットのスピーカーから聞こえてくる。
「ファ!」
生きていてくれた大切な人の声を聞き、カミーユの瞳に喜びの涙が込み上げる。
二人はコックピットを飛び出すと、くるくると宇宙空間を漂いながら抱きしめ合い、スーツ越しに互いの温もりを感じながらその“生”を噛み締めた。
アーガマに帰艦したカミーユに、クワトロの未帰艦の報告が入る。
「クワトロ大尉が!?」
艦橋ではブライトが必死にクワトロに呼びかけている。
しかし、クワトロからは何の返事も帰って来なかった。
数時間が経ち、クワトロ大尉の百式が大破した状態で回収された。
ドックへと急いで向かったカミーユが見たのは、両手両脚を失った百式と空のコックピット。
誰もがその機体を見て、クワトロの死を覚悟した。
「クワトロ大尉…」
「まさか!クワトロ大尉に限ってそんな事!」
口に手を当て泣き叫ぶファを、カミーユはどこか他人事のように見つめる。
『クワトロ大尉が戦死?そんな事有り得ない』
その機体を見ても、カミーユはクワトロの死を認める事が出来なかった。
しかし生死はどうあれ、クワトロがアーガマに…エゥーゴに帰艦しなかったのは事実だ。
カミーユはフラつきながら自室へと戻るとベッドへと倒れこむ。
その時、不意にサイドテーブルの上に置いてあった紙飛行機が目に入った。
徐ろにそれを手に取り、天井の灯りにかざす様にして眺める。
“これ大佐が教えてくれた折り方で、すっごく良く飛ぶんだ!”
嬉しそうに話すアムロの顔が目に浮かぶ。
「アムロさん…」
その時、灯りに照らされ、紙飛行機の紙に何かメモが書かれているのが透けて見えた。
慌てて飛び起きると、飛行機の折り目を解いて紙に書かれている文字を確かめる。
「これは…!」
カミーユはその紙を握りしめ、急いで艦長室へと向かった。
「どうした?カミーユ」
艦長室で1日半ぶりの休息を取っていたブライトが、疲れた顔をしてドアを開ける。
「お疲れのところすみません!どうしても伝えなければいけない事があって!」
その慌てぶりに、ただ事でない事を察したブライトは艦長室へとカミーユを迎え入れた。
カミーユは艦長室に入ると、盗聴器やカメラがない事を確認して、先ほどの紙飛行機をブライトに広げて見せる。
不思議な顔をしながらも、それを受け取り内容を確認する。
「この字は!」
「やはり、アムロさんの字ですか?」
「あ、ああ。この右上がりのクセのある字は間違いなくアイツの…それよりもこの内容…どういう事だ?カミーユ!アムロは!?」
「艦長!アムロさんは生きています!」
「何!?」
「ああっやっぱり!アムロさんの心は完全に失われてはいない!艦長!急いでカイ・シデンさんに連絡を取ってください!俺も直ぐに月に向かいます」
その紙に書いてあったのはアムロのメモ…いや、記録だった。
『4月11日
今日は朝から頭の中がスッキリしている。俺の意識が保てるのは三日から五日に一度、二時間くらいだろうか…。脳の記憶を司る部位を損傷したのだろう。記憶が酷く不安定だ…。初めは全てが無になったと思った。
そして、まるで赤ん坊が成長するように少しずつ自我が形成され、今、俺はようやく十歳くらいに成長した様に思う。
だが、どうやら記憶が全て失われた訳では無いようだ。こうして時折記憶が蘇り、本来の自我を取り戻す。
4月14日
今日は酷く不安定だ。子供の俺と本来の俺の意識が混ざり合って混乱する。
…ー
4月20日
久しぶりに『俺』だ。しかし身体が怠い。熱がある様だ。子供の俺の意識が混濁すると『俺』に戻りやすいのだろうか…
4月25日
キグナンは来週、シャアがここに来ると言っていた。なぜか、ララァに似た気配を感じる。きっと…何かが動き始める。
4月29日
キグナンが仲間と連絡を取っている。
彼は、ジオンでのシャアの部下らしい。
それも、かなり古参の…ダイクン派?そんな単語が耳に入る。
シャアは…連邦に潜入しているという…。しかし、その影でジオンの仲間とも繋がっている…。何か…準備をしている様だ。
5月1日
明日、シャアがここに来るらしい。
子供の俺は、それをとても楽しみにしている。なぜシャアは俺を助けたのか…。
それも、ジオンの同胞に俺の事を隠しているらしい。なぜ…
5月2日
昨日に続き今日も『俺』だ。
久しぶりにシャアに会った。
シャアはキグナンと何やら話し込んでいる。
キグナンはシャアが一言声を上げれば同胞達がシャアの元に集まると言っている。
しかし、シャアはあまり乗り気ではないようだ。
5月3日
珍しく連日『俺』の意識がある。
一日のうちのほんの数時間だが嬉しい。
昨夜、俺に触れるシャアから“迷い”と“孤独”の思惟が伝わってきた。
そんなシャアを救いたいと思うこの気持ちは、俺の中に溶け込んだララァの想いなのだろうか…』
アムロの記憶は完全に失われてはいなかったのだ。
時折記憶が戻り、本来の自我を取り戻す度、こうして記録を付けていたのだろう。
このメモを子供のアムロが何も知らずに紙飛行機にしてしまったのか、それとも意図しての行動だったのかは分からない。
作品名:Blue Eyes【後編】 作家名:koyuho