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Blue Eyes【後編】

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しかし、こうしてこのメモはカミーユを経由してブライトへと届いた。
もしかしたらアムロ自身、今後起こりうる何かを察していたのかもしれない。

アムロはクワトロを「大佐」と呼んでいた。自分の世話をしてくれているキグナンという男がそう呼ぶからと。
“大佐”それはジオン軍でのシャア・アズナブルの階級。
つまり、アムロのメモにもあった通り、キグナンはジオン軍の人間であり、アムロが“ジオン軍”のシャアに軟禁、否、保護されているという事だ。

そしてカミーユは今回の作戦前にクワトロから言われた言葉を思い出す。

『もしもの時は彼の事を頼む』
『嫌な予感がする』
『直ぐには無理かもしれんが、必ず彼を迎えに行く。だからそれまでよろしく頼む』

“もしもの時” その言葉を聞いて自分は “もしも” とは “クワトロ大尉が死んだ時” と勝手に思い込んでしまったが、そうじゃない。
彼は確かにこうも言っていた。
“必ず彼を迎えに行く”

それはつまり、彼を直ぐには迎えに行けない状況に陥る事を予想していたという事だ。
クワトロはジオンの同胞の元に帰ったという事だろうか?
それが同意の上だったのか、致し方なくなのかは分からないが…。

そしてアムロのメモを見る限り、その同胞にアムロの事は隠しているらしい。
知っているのはアムロの面倒を見ているキグナンという男と…前にアムロと話した時に名前が出てきた人物、アンディ中尉とリカルド中尉の二人。
アムロが語るアンディ中尉とリカルド中尉の風貌や、普段クワトロと行動を共にしているという事から察するに、その二人はクワトロ同様ジオンから潜入してきた仲間でアーガマのクルー、アポリー中尉とロベルト中尉の事だろう。
しかし二人はこの戦争で命を落とした。
つまりアムロの事を知っているのは、今ではもうキグナンと言う男だけという事になる。
アムロはかつて「連邦の白い悪魔」という異名を持つパイロットだった。そんな彼を他のジオンの同胞達が受け入れるとは思えない。
クワトロが同胞の元に戻ったのだとすると、おそらくあまり自由には行動出来ない立場だろう。もしくは今回の戦闘で怪我を負っている可能性もある。(百式があれだけ大破していたのだ、あり得ない話ではない。)
そうなると、キグナンという男一人ではアムロを保護しきれなくなる可能性がある。
だからこそ、クワトロはカイ・シデンに連絡をしろと言ったのかもしれない。
アムロの居場所を知っている自分がカイ・シデンの協力を仰いでアムロを保護しろ…と。
そして同時にカミーユは少し焦りを感じる。
『あまり時間は無い』なぜかそう直感した。
カミーユはブライトを通じてカイと連絡を取り、急ぎ月へと向かった。

フォンブラウン市に到着し、カミーユはカイ・シデンとの待ち合わせ場所へと向かう。
カイの事はカラバで行動していた時に見かけていたので顔はわかるが、特に接触する事は無かった為、まともに話をするのは今日が初めてだ。
カミーユは待ち合わせ場所に着くと周囲を見渡しカイを探す。
そして、壁にもたれてタバコを吸うカイを見つけて駆け寄る。
カイは細身で一見いい加減そうな風貌だが、その眼光は鋭く、全てを見透かされているのではと思わされるところがある。
そのカイを前にカミーユは少し緊張しながら声を掛ける。
「カイさん、お久しぶりです」
「おう!カミーユ、久しぶりだな」
気さくに話し掛けてくれるが、その視線は周囲を警戒している。
「誰にも後を追けられてはいない様だな」
ボソリと耳元で囁かれる言葉に、瞬きだけで答える。
「よし、じゃあ行くか」
カイは腕時計を確認しながら目的地へと向かった。
例のビルの前まで行き、周囲をもう一度確認する。
「カミーユ、お前はキグナンという男と面識はあるのか?」
「はい、以前訪れた時に少し。クワトロ大尉と何やら話した後、直ぐに出て行ってしまったので会釈をした程度で会話はしていませんが」
「十分だ。まぁ、あの男はジオンの諜報部の人間だからな。お前の事は調査済みだろう」
「え、そうなんですか?」
「キグナン・ラムザ軍曹、旧ジオン軍の諜報員でグラナダに勤務。当時からのシャアの部下だ。いや、ダイクン派の人間だから元はジオン・ダイクンに仕えていたのかもしれんな」
「そういえばアムロさんのメモにもそんな事が…」

エレベーターを上がり、部屋の前まで行くと中から男の焦った様な声が聞こえてくる。
〈大佐が行方不明?どういう事だ?直ぐにグラナダに戻れと言われても、今直ぐには無理だ〉

二人はドアの前で聞き耳を立てながら様子を伺う。
「何かあったんですかね?」
「まぁ、旧ジオン軍は今バタバタだろう」
シャアの行方不明の情報がアーガマ内に潜入しているジオン兵からキグナンに入ったようだ。
おそらく潜入しているクルーと本体の部隊との仲介をキグナンがしているのだろう。
しかし、キグナン自身も本来の配属地であるグラナダからフォンブラウンにいる事で上手く本体の部隊と連絡がとれていないらしく、シャアの情報はまだ入っていないらしい。

「行くか」
カイはそう言うと、徐ろにドアをノックした。
少し時間を置いてそのドアは開かれ、キグナンが訝しげに二人を見つめる。
おそらくカメラでカミーユの姿を確認し、ドアを開いたのだろう。時間が掛かったのはアムロをどこかの部屋に隠したからかもしれない。
少し動揺した様子のキグナンに向かい、カイが堂々とした態度で挨拶をすると、やや強引に部屋へと入る。
「ちょっと!待ってください。一体何の用ですか?」
「それはあんたが一番わかっているだろう?こいつから情報を得たいんじゃないか?」
カイがカミーユを指差して不敵に笑う。
キグナンは小さく溜め息を吐くと、諦めたように二人を居間へと案内した。
そこに、アムロが飛び出してきてカミーユに飛びつく。
「カミーユ!」
「アムロさん!」
「アムロ!出てきてはダメだと言っただろう」
咎めるキグナンに、アムロが笑顔で答える。
「だってカミーユだもん!大丈夫だよ。ね?カミーユ!」
「はい、アムロさんが元気そうで良かった」
「僕は元気だよ!大佐は?……一緒じゃないんだね」
残念そうな顔をするアムロに、カミーユは少し胸が痛む。
「すみません、今日は俺と…カイさんだけです。大尉は…」
「カイさん?カイさんってこのおじさんの事?」
小首を傾げてカミーユの隣にいるカイをアムロが見つめる。
流石に、子供の様な表情で自身を見つめてくるアムロを前に、カイが目を見開いて固まる。
「…アム…ロ?」
「おじさんも大佐のお友達なの?はじめまして、僕、アムロ・レイです」
にこやかに微笑むアムロに、カイは動揺を隠せない。
「話は…聞いていたが…これは流石に…驚いたな…」
口元に手を当てカイが呟く。
「おじさん、どうしたの?」
「おじさんはないだろう?お前とは二歳しか違わねーよ」
カイの言葉に、アムロはよく分からないといった顔をする。
「まぁいい。それより本題だ。まずはあいつの現状についてカミーユから報告してくれ」
「はい」
カミーユは視線をキグナンへと移し、小さく深呼吸をしてから話し始める。
作品名:Blue Eyes【後編】 作家名:koyuho