Blue Eyes【後編】
『ああ、兄はニュータイプと言うだけでは無く、この輝きに惹かれたのかもしれない。きっと、兄さんにとってもアムロは救いだったのだわ…』
セイラの瞳から、ポロポロと涙が溢れる。
「どうしたの?どこか痛いの?」
止まらぬセイラの涙にアムロが不安な表情を浮かべる。
「いいえ、違うの。ちょっと驚いただけよ。」
「本当?」
「ええ、どこも痛く無いわ」
「そっか、良かった!」
「ふふ、アムロは優しいのね」
「そんな事ないよ!大佐のがもっと優しい!」
「そう…」
嬉しそうに兄の事を語るアムロにセイラは笑顔を返すと、キグナンに視線を向ける。
「キグナン、兄に代わって私がアムロを預かるわ」
「アルテイシア様…」
「私では信用が無くて?」
「そんな!とんでもない」
キグナンは少し思案した後、アムロを見つめる。アムロもまた、この状況を察してキグナンに答えを求める。
「アムロ…」
キグナンはアムロに近づきそっとその肩を叩く。
「キグナンさん?」
「アムロ、私は仕事でここを離れなければならない、大佐もしばらくはここに来られないだろう。だからその間、このお方の所にお世話になりなさい」
キグナンはセイラに向けて頭を下げる。
「アルテイシア様、お願いします」
それに、セイラはがコクリと頷いて応える。
「アムロ、分かったかい?」
「うん、キグナンさんがそう言うなら!」
「アムロ…本当にいいの?」
自分の事をあまりにもあっさりと了承するアムロにセイラが確認する。
「だって、大佐がキグナンさんの言う事をちゃんと聞きなさいって言ったから。僕は大佐の言うことなら何でも聞くよ」
「アムロ…」
セイラはアムロの言動に少し不安を覚える。
それを察したキグナンが、記憶媒体のチップを取り出してセイラに手渡す。
「シャイアンから持ち出したアムロ・レイの実験内容と、こちらで保護してからの治療内容や経過が記録されております。そこにアムロ・レイに施された暗示についてもデータがありますのでご確認下さい」
「暗示…」
その言葉にセイラの顔が歪む。
「セイラさん、そろそろ…」
カイが時計を見ながらセイラに告げる。
「そうね…。キグナン、兄に会えたら伝えて頂戴。アムロは私が責任を持って預かりますと、そして…ここに居るからと…」
セイラは自身の連絡先をキグナンに手渡すと、アムロを連れ、キグナンに背を向けて歩き出した。
「ああ、アルテイシア様、お待ちください、これを…」
セイラを引き留めてキグナンが手渡したのは幼い兄妹が微笑む写真。
「これは…!」
写真を見つめセイラが涙ぐむ。
「アルテイシア様、必ず大佐にお伝えします」
「ええ、お願いね。キグナン」
そうして、アムロはセイラ達と共にこの鳥籠を後にした。
「ねぇ、カミーユ、大佐は僕をいつ迎えに来てくれるかな?」
移動する車の中でアムロが尋ねる。
「どうでしょう…でも、俺に必ずアムロさんを迎えに行くって言ってました。だからきっと来てくれますよ」
「そっか、良かった!」
嬉しそうに微笑むアムロにセイラとカイ、カミーユがそれぞれの想いを胸に抱く。
次に会った時、彼はどうなっているだろう…。連邦政府の腐敗を目の当たりにし、エゥーゴを見限ったシャア。
おそらく彼はジオンを復興させるだろう。ハマーン・カーンのようなザビ家の復興を掲げるものでは無く、もっと大きな組織として…。
「兄が…人の心を失わず…アムロを迎えに来てくれたなら…」
キグナンから渡された写真を握るセイラの手に力がこもる。
「大丈夫ですよ。アムロさんの存在が、クワトロ大尉を支えてくれる筈です」
「そうね…そう願いたいわ…」
そんなセイラの顔を、隣に座るアムロがじっと覗き込む。
「なあに?アムロ」
「ふふ、お姉さんの瞳も綺麗なブルーだね!大佐と同じ空の色!僕、大佐の青い瞳が大好きなんだ!大佐、早く迎えに来てくれないかなぁ」
アムロの言葉に、セイラは希望を見いだす。
『アムロが…兄を正しい道にきっと導いてくれる…』
◇◇◇
そして、一年が過ぎた頃。アムロは地球のセイラが所有する別荘の一つにカミーユとカミーユを追って地球に来たファと共に暮らしていた。
「今日は天気が良いのでテラスで朝食を食べましょう!」
テラスのテーブルに朝食の準備をするファにアムロが笑顔で答える。
「そうだね!」
カミーユとファとテーブルを囲み、テラスで朝食を取っていたアムロが、突然フォークを投げ出し走り出した。
「アムロさん!?」
慌ててその後を追うカミーユとファの前に、金色の髪をなびかせて歩いてくる男が目に入る。
「あれ…もしかして…クワトロ大尉!?」
二人は足を止め、クワトロの元に走るアムロを見守る。
「大佐!」
クワトロは自身に飛びつくアムロを、その逞しい腕で受け止め、強く抱きしめる。
「アムロ…」
しばらく抱きしめ合ったのち、二人が並んでカミーユ達の元に歩いて来た。
「カミーユ…、それにファも…」
「クワトロ大尉、…おかえりなさい…」
涙ぐむファと、笑顔で迎えるカミーユにクワトロも笑顔で答える。
「ああ、ただいま。そして、ありがとう」
地球の空は青く晴れ渡り、シャアの瞳の様に澄み渡っている。
アムロはシャアを見上げ、スクリーングラスを取って微笑む。
「ふふ、やっぱり大佐の瞳は地球の空の色だ。僕の…一番好きな色…」
end
後日談とか、地球でカミーユ達と暮らしている時のアムロの様子とかをこの後番外編で書きたいと思います!
作品名:Blue Eyes【後編】 作家名:koyuho