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Blue Eyes【後編】

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「キグナンさん。クワトロ大尉は先日の戦闘の後、アーガマに帰艦しませんでした。そして、大破し、コックピットがもぬけの空となった百式だけが回収されました。今、アーガマで必死に捜索していますが、おそらく数日後にはMIAの認定が下りるでしょう」
「…大佐が…死んだと?」
動揺するキグナンに、カミーユが首を横に振ってそれを否定する。
「分かりません。ですがあの状況では何とも…」
カミーユの言葉に、アムロが不思議そうな顔をする。
「何言ってるの?大佐は死んでなんかいないよ。今はちょっと遠くにいるけど生きてる。僕には分かるよ」
笑顔で語るアムロに、三人が目を見開く。
「アムロさん…?」
「アムロ、では大佐は今どこに…」
「うーん、遠いところ。よくわかんない」
首を傾げるアムロに、キグナンは小さく溜め息を吐く。
「キグナン軍曹、それはあんたのが分かるんじゃないか?」
カイがキグナンを訝しげに見つめる。
「まさか…」
「キグナンさん、俺は大尉から…自分に何かあった時はアムロさんを頼むと言われました。初めは大尉が死んでしまった時かと思ったのですが、大尉はその後こうも言ったんです。「直ぐには無理かもしれないが、必ず彼を迎えに行く」と、だからお願いです俺にアムロさんを預けてくれませんか?」
「それは…しかし…」
アムロの言葉が正しければ、シャアは生きているだろう。そして、シャアの居場所が自身の予想通りならば、自分は直ぐにグラナダに戻って職務に専念しなければならない。そうなるとこのままアムロを匿い続けるのは難しい。しかし、そう簡単にカミーユを信用してアムロを預ける訳にはいかなかった。
判断するにはあまりにも情報が少なく、カイ・シデンにしても、いくら元ホワイトベースのクルーとは言え、アムロを預けても大丈夫だと言う保証はない。
考え込むキグナンに、カイが口を開く。
「まずはあんたの方でお仲間に確認を取ってあいつの安否を確認してみたらどうだ?」
「……本当に大佐は行方不明なのか?」
「はい、残念ですが…」
カミーユの答えに、キグナンは小さく頷いて席を立つ。
「分かった。少し待っていてくれ」
キグナンは不安そうに見つめるアムロの頭を優しく撫ぜると、別室に移動して仲間へと連絡を取りに行った。

「アムロ、あの男は…キグナンはお前に優しいか?」
カイの問いにアムロが笑顔で「うん」と答える。
「そうか…お前がそう言うなら、あの男はお前が不利になる様な事はしないだろう」
記憶が無いとはいえ、そういったアムロの勘は間違いないとカイは思う。
昔からそう言う事には人一番敏感だったからだ。

居間に戻ってきたキグナンが厳しい表情でこちらを見つめる。
「確認が取れたようだな」
カイの言葉にキグナンははっきりと答えないがシャアの居所が分かったのだろう。
「大尉は無事なんですね!」
カミーユの言葉にもキグナンは何も答えない。しかし否定もしなかった。
そしてアムロにチラリと視線を向ける。
「アイツ本人とは話が出来なかった様だな」
図星を指され、少し動揺したようだが表情には出さないキグナンに、カイは流石はジオン軍の諜報部員だなと少し感心する。
そして、キグナンの危惧する事を指摘する。
「アムロをこれ以上匿いきれないが、アムロを預けるにしても俺たちの事が信用できないってトコか?」
キグナンは溜め息を吐くと、コクリと頷く。
「俺たちが信用できるという…アムロの安全が確保出来るという保証が欲しいか?」
カイの言葉にキグナンが視線をあげる。
「ちょっと待ってくれ、その保証を用意する」
カイは手元の端末でどこかに連絡すると、ニヤリと笑って端末を胸ポケットにしまい、ソファに背を預けて何かを待つ。
しばらくすると玄関のドアをノックする音が聞こえた。
「ああ、来たようだな」
そう言うと、カイは玄関へと向かい誰かを迎え入れた。
そして居間へと現れた人物にキグナンの目が釘付けになる。
「……アルテイシア様…!」
この部屋には幼い兄妹の写真が飾られている。そこに写る少女の面影を残す女性がその場に現れたのだ。
それはまさしく、ジオン・ズム・ダイクンの娘、アルテイシア・ソム・ダイクンだった。
「お久しぶりね、キグナン。私を覚えていてくれたのね」
「忘れる訳などありません!ああ、益々アストライア様に似てこられて…!」
そしてキグナンと同じく、その、クワトロに面差しの似た女性にカミーユも驚く。
「大尉!?」
セイラはカミーユに視線を向けるとコクリと頷き、次にアムロへと視線を向ける。
「ああ…アムロ…本当に貴方なのね…」
アムロの元まで足を進めると、そっとその頬を両手で包み込み目に涙を浮かべる。
そんなセイラに、アムロが首を傾げる。
「お姉さんは誰?僕の事知ってるの?」
「…アムロ…」
セイラも事情は聞いていたが、目の当たりにしたアムロの状態に悲痛な表情を浮かべる。
しかしそんなセイラの顔を見つめ、アムロがニッコリと微笑む。
「お姉さんも大佐の事知ってるの?」
アムロの問いに、セイラは一瞬大きく目を見開くと涙を流しながら頷く。
「ええ、よく…知っているわ…。とてもよく…」
「そうなんだ!だからかな。お姉さんからは大佐と同じ気配がする。僕の大好きな気配!」
その言葉に、カミーユは目を見開く。
『大尉…!』
「アムロは…“大佐”が好きなの?」
セイラの問いに、アムロが思い切り頷く。
「うん!だって大佐は僕を怖いお家から連れ出してくれたんだ!それに僕にとても優しくしてくれる!」
“怖いお家”それがシャイアンの屋敷やニュータイプ研究所の事だと察し、カイが顔をしかめる。
あそこでの実験が、アムロをこんな風にしてしまったのだ。カイは悔しさに震える拳を握りしめ怒りに耐えた。
「そうなの…。“大佐”は貴方に優しかったのね…」
「うん。僕が怖い夢を見た時もギュッてしてくれたんだよ。そうすると怖く無くなるんだ」
一年戦争でシャアとアムロが命を懸けて戦っていたのを間近で見てきた。
終戦間近、二人はララァという少女を巡り、急速にその距離を縮めた様に思う。
そして、生身の身体で剣を交えた時、真に心を繋げたのだろう。
兄はアムロに向かって同志になるように求めた。
あの時、アムロが兄の手を取っていたら、こんな事にはならなかったかもしれない。そんな想いが込み上げる。
兄はララァという少女やアムロに、父が想い描いた理想を見ていた。だからこそ、戦後アムロの行方を追い、攫ってまで手に入れたのだろう。
そして、手に入れたアムロをこの鳥籠に閉じ込め愛した。アムロもまた、そんな兄を求めた。
過去のしがらみの無いアムロは、純粋に兄を求めたのだろう。
いや、記憶があったとしても求めたかもしれない。あの時、アムロは兄の差し出した手を振り払ったが…その後、まるで縋るように兄を見つめていた。
急速なニュータイプへの覚醒はアムロの心を置き去りに成長し、アムロを不安定にしていた。連邦内で理解されないニュータイプという能力を、唯一受け入れてくれる兄の存在はアムロにとって魅力的だったのだろう。
「アムロ…」
自分を見つめる無垢なアムロの瞳に、セイラは兄が求めた輝きを見る。
作品名:Blue Eyes【後編】 作家名:koyuho