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 ミハイルが残した書類の山を1つ1つ目を通していく。
 彼がこれまで関わってきた事案の覚書や、武器庫襲撃の草案。
 中にはミハイルが暗殺の標的としてきた人物の名前などもある。
 また荒っぽい事ばかりではなく、祖国のあるべき姿や未来への展望などが、
 メモ程度ではあったが書かれていたりもする。
 そして中でも目を見張ったものは、孤児院のさらなる建設の必要性がびっしり
 と書き込まれた書類だった。
 それはミハイル自身の生い立ちによるものが大きいと、アレクセイは思った。


 ミハイルの記憶の中に父親は無く、病がちの母親と二人、極貧の中で暮らして
 いたらしい。
 そんな二人を何くれと無く力になってくれていたのが、アントン・イワノフ
 であった。
 アントンがなぜ面倒を見てくれたのかは、最期まで教えてもらえなかった
 そうだ。
 母親に惚れていたからだろう、とミハイルは笑っていた。
 母親が死に、身寄りの無くなったミハイルはアントンに引き取られた。
 アントンは本当の父親の様にミハイルと暮らし、かわいがってくれたという。

 「やもめ暮らしで貧しかったくせに、縁もゆかりも無いガキを引き取って
 くれたんだ。感謝してもしきれない」

 酒が入った時のミハイルの口癖だ。
 「アントンがいなけりゃ、おれは何にも知らない街のゴロツキになって
 いたろうな。こんなおれに字の読み書きまで教えてくれたんだぜ。
 そりゃ、ガキの頃はなんでこんな事やらなきゃならないんだ、と反抗して
 いたけどな。だが、それでもおれは結構いい生徒であり、息子だったと
 思うぜ」

 にやりと笑ってうそぶいたあの時のミハイルの笑顔を アレクセイは
 今も忘れられないでいる。


 
 改めてミハイルの文字を見てみると、意外に丁寧に書かれている。
 普段の彼とのギャップに思わず頬が緩む。
 「あいつ、以外にまめな性質だったんだな。見ろよ、これはあんたを脱獄
 させる時の書類だ。手順やら業者に渡した金の金額やら細かく書いてある」
 ズボフスキーに書類を渡し、次々と書類を走らせる。
 ふと1枚の書類に目が留まる。
 「これは……」
 スパイとして潜入していた憲兵を辞める時に持ち出した書類の中の1枚
 だった。
 アレクセイの顔色がみるみると変わる。
 「どうした?」
 「お…、おい、あんた、これ知ってたか?」
 アレクセイ・ミハイロフの助命嘆願が出された事が記されていた。
 当初の判決は『死刑』。
 それがレオニード・ユスーポフ侯爵の助命嘆願により『無期懲役』に
 減刑された、とはっきり明記されている。
 「おまえ、知らなかったのか?」
 「あ、ああ……」
 「てっきりミハイルが話しているかと思っていたが、そうか…知らなかった
  のか」
 アレクセイは混乱していた。
 黒い髪、黒い瞳の政敵。
 なぜあの男が自分の命を助けたのか?
 自分とは、出自が同じ侯爵家というだけでなんの係わり合いも無い。
 出会った当初から敵同士だ。
 接点といえば、あの男の弟の命を助けたぐらいだ。そんな事位であの
 『氷の刃』が情けをかけるとはとても思えない。

 その時………

 アレクセイの脳裏に金色の閃光が走った。
 
 ユリウス……!
 ユリウスが何か関係があるのか?
 
 「もしかして……?」
 ズボフスキーも同じ事を思ったらしい。
 アレクセイは自分を落ち着かせるように、大きく息を吸い込んだ。
 「ユリウスは、おれのシベリア流刑の判決をあの男と一緒に馬車の中で聞いた
 と言っていた。胸騒ぎがして、頭ががんがんと割れそうに痛んだと。
 その時のあいつは記憶を失っていて、おれの事など覚えちゃいなかった」
 「事実としてそういう事になるな。だがなぜだ?なぜユスーポフ侯がおまえの
 助命嘆願を?ユリウスが頼んだのか?」
 とっさに自分も頭にひらめいた事ではあった。
 けれど、それはありえなかった。
 「あいつが記憶を失ったのは、ペテルスブルグの廃屋から落ちて頭を強打して
 しまった事故によるものだそうだ。ユスーポフ侯からそう説明されたらしい。
 おれ達がモスクワ蜂起で敗れたのは、あいつが記憶を失った後だ。
 覚えてもいないおれの事をユスーポフ侯に頼む筈は無いだろう」
 「ふむ。それもそうだな。だが、ずいぶんと確信しているんだな。
 その時系列を」
 「……その直前、そこでおれたちは偶然再会していた」
 「!!」
 「あいつはその時、おれの事はしっかりと覚えていたよ。今と違って……な」

作品名:その先へ・・・1 作家名:chibita