Blue Eyes【番外編】
アムロは、本当にカミーユの前でだけ本来の自我を取り戻していたのだ。
「とりあえず兄さん、アムロにはせめて“いつまで”という期限を提示してあげて下さいな。そうすれば受け入れられると思うの」
「そうだな…せめてあと一年…準備期間が欲しい…」
「一年ね、わかったわ。その間…可能であれば会いに来てやって欲しいの」
「ああ、出来うる限り時間を作ろう」
シャアとセイラでそんな話しがまとまった頃、アムロの部屋では、ベッドに突っ伏して涙を流すアムロと、それを慰めるカミーユの姿があった。
「アムロさん…もう少しですよ。大尉だって迎えに来る気がないなら今回ここを訪れたりしません。だからいつか迎えに来てくれた時に万全の体制で付いていけるように身体を治しましょう」
「分かってる、カミーユ。分かってるんだ。今までだって、いくら離れていても必ず会いに来てくれた。でも…また大佐と離れちゃうと思ったら悲しくて…」
「そうですよね…」
カミーユは枕に顔を埋めて涙を流すアムロの髪を優しく撫でて慰めた。
そのまま眠ってしまったのか、アムロは夜中に目を覚ました。
「あ…僕、あのまま寝ちゃったんだ…」
溜め息を吐きながら寝返りをうつと、そこには恋い焦がれたシャアの寝顔があった。
「え?大佐!?」
驚いて起き上がろうとするアムロの腕を、逞しいシャアの腕がギュッと掴む。
「アムロ…こっちにおいで」
そのまま引き寄せられてシャアの胸の中に閉じ込められる。
「大佐…!」
「アムロ…本当にすまない…あと一年…ここで治療を受けながら待っていてくれないか?時間の許す限り会いに来るから…」
シャア切ない声にアムロは自身の胸も締め付けられる。
「本当に一年?一年待ったら迎えに来てくれる?」
「ああ、もちろん!約束だ」
「……分かった…。だったら良いよ…僕…ここで待ってる。大佐の事ずっと待ってるから…!だから絶対に迎えに来てね」
そう言いながらアムロはシャアの首にしがみ付く。
「ああ、必ず迎えに来る!」
シャアもまた、アムロの体を抱きしめて約束する。
そしてふと、アムロの身体が以前よりも肉が付き、しがみ付く力も強くなっている事に気付く。
「ああ、随分と回復したんだな…良かった…」
「うん、もっともっと頑張るよ」
そのいじらしい言葉と、自身を見上げる琥珀色の瞳にドクリと心臓が高鳴る。
「アムロ…君の温もりを忘れない為にも…君をもっと感じたい…」
そう言いながらアムロの服の中にそっと手を滑り込ませ、その滑らかな肌を撫で上げる。
「あっ…大佐…」
「良いかい?」
シャアの求めを断る事など出来るはずもなく、アムロはそれに応えるようにシャアの首に腕を回す。
「うん…僕も…大佐を感じたい…」
二人は視線を合わせると、どちらともなく顔を寄せてキスをする。
何度も何度も啄ばむようなキスを繰り返し、徐々にそれは深いものへと変わっていく。
「アムロ…愛してる…」
「うん、僕も…」
二人は互いの肌の温もりを胸に刻み着けるように抱きしめ合い、熱を分かち合う。
『大佐…辛いけど…僕、頑張るよ…来年には大佐がびっくりするくらい元気になるから…。だから…その時は絶対に連れて行ってね…』
アムロから伝わるそんな切ない思惟をシャアは、受け止めながら心に誓う。
何があってもこの愛しい存在を迎えに来ようと…。
翌朝、カーテンの隙間から朝陽が差し込み、アムロの頬を照らし出す。
「…ん…朝か…」
目が覚めて、自身が誰かに抱きしめられて身動きが取れない事に気付く。
「あれ?なんだ?何で動けない…?俺、どうしたんだっけ?」
アムロは重い瞼を開けて、自分を抱きしめるその腕の主の顔を間近で見て思わず叫ぶ。
「なっ!シャア!?俺…え?何で俺!?」
そう、アムロは今、本来の自我が表に出ている。
今まで一度もそんな事は無かった。それなのに今朝は何故か本来の自我の自分がシャアに抱きしめられている。
思いもしなかった状況にパニックに陥るアムロをシャアもまた驚いた顔で見つめる。
「どうした?アムロ」
「どうし…って、え!?ちょっと待て!コレっ貴方何で裸…って俺も!?」
シャアに抱き締められているだけでなく、互いに素肌のままだと言う事にもパニックになる。
「“俺”?“貴方”?」
普段のアムロが到底使わない言葉を連発する状況にシャアが疑問の声を上げる。
「え?あ、いや…、えっと…」
と、今の自分たちの状況に、昨夜の子供の自分とシャアとの光景が脳裏に蘇り顔が真っ赤に染まっていく。
『俺、昨日シャアと…』
「アムロ?」
あまりの羞恥にアムロはまともにシャアを見る事が出来ず、両手で顔を覆って必死に動揺を鎮めようとする。
しかし、その手をシャアの引き剥がされ、シーツの上へと押さえ付けられてしまう。
「シャ、シャア…コレは…だから…えっと…俺にも何が何だか…今までこんな事は無かったのに…」
「こんな事?」
「あ、いや、だから…」
話せば話す程墓穴を掘っている事に気付かず、必死に言い訳をする。
そんなアムロの口調や仕草が、いつもの子供のものではなく、本来の年齢であり大人のものでは無いかとシャアは疑問に思い始める。
「アムロ…私のこの額の傷の事を覚えているか?」
「え?傷?昔、剣でやりあった時の?」
とにかくパニック状態で自分が何を話しているのかもわからなくなっているアムロは、ポロリと子供のアムロが知り得ない事実を言ってしまう。
アムロが『しまった!』と思った時には既に遅く、目の前のシャアが“確信”を掴んだとでも言うような表情を浮かべ、アムロの手首を押さえつける手に力を込めた。
「やはり…」
かくして、逃げ道を失ったアムロは、全てを白状させられる事となる。
その後、セイラとカミーユから事情を聞いたシャアだったが、数時間経ってまたいつものアムロに戻ってしまった事から、予定通りあと一年アムロはここで療養する事となった。
そして一年後、まだ完全とは言えないが大分回復したアムロはシャアと共にスウィート・ウォーターへと旅立っていった。
その傍らには、付き添いという名目でカミーユとファの姿があったとか…。
end
作品名:Blue Eyes【番外編】 作家名:koyuho