Blue Eyes【番外編】
アムロは口元に手を当て、顔を真っ赤にしながらカミーユを見つめる。
「あ…多分…なんて言うか…子供の俺って凄く甘えたって言うか…ファに対してもそうだけど人肌に飢えてるっていうか…ついつい甘えちゃうんだよな」
「あーそう言われるとそうですね」
初めて会った時も思いっきりクワトロに抱きついていた事を思い出す。
「それでさ、“俺”の方は子供の俺の時の記憶があるもんだから…ちょっと居た堪れなくて…シャアやファの前では“俺”が表に出ないのかも」
「でも、アムロさん、俺にも結構スキンシップしてきますよね?」
「だってカミーユには隠しても直ぐバレるだろ?それに…なんて言うか繋がり易いんだよな…」
「…そうですね。そうかもしれない」
ニュータイプ同士、共感し易いのだろう。
また、カミーユと接する事で得られる刺激もアムロの回復に繋がっているところもある。
「あのさ、カミーユ。子供の俺は大人の俺の存在に気づいてないからさ、もしかしたらまたああいう事しちゃうかもしれないけど…大目に見てくれると嬉しいな」
「…分かりました…」
それ以上に衝撃的な事を聞いて、すっかりファの事を忘れていたが、とりあえず自分からもファに言い聞かせるという事でその話は終わった。
◇◇◇
そして数日後、テラスで朝食をとっていた時、突然アムロが顔を上げ、フォークを置いて辺りを見回す。
「アムロさん?」
どこか視線の合わないアムロが遠くに意識を向けているのが分かる。
「大佐…」
そう呟くと、突然席を立って走り出した。
「アムロさん!?」
カミーユは慌ててファと二人、アムロの後を追いかけた。
そして、アムロの向かう先を見た時、ある人物がこちらに向かって歩いて来るのが見える。
「クワトロ大尉…?」
海沿いの道を、金髪をなびかせながらスクリーングラスの男が歩いて来る。
そして、その男にアムロが抱きつくのをその逞しい腕で受け止めた。
二人は暫く抱き合った後、こちらに向かって歩いて来る。
「カミーユ…、それにファも…」
二人に気付いたクワトロが声を掛ける。
「クワトロ大尉、…おかえりなさい…」
涙ぐむファと、笑顔で迎えるカミーユにクワトロも笑顔で答えた。
「ああ、ただいま。そして、ありがとう」
クワトロがファを見つめ胸ポケットから何かを取り出す。
それは、先日アムロが飛ばした紙飛行機だった。
「これ!」
「これが…私をアムロの元に導いてくれた。空港からアルテイシアの屋敷に向かおうとしていたのだが、これが私の目の前に飛んできてアムロの気配を伝えてくれたのだ」
優しく微笑むクワトロに、ファがその瞳に涙を浮かべて喜ぶ。
「信じられない…!でも、良かったですね!アムロさん」
「うん、ファのおかげだよ!」
嬉しそうに微笑むアムロをクワトロがとろける様な笑顔で見つめる。
その表情に、思わずファとカミーユが赤面してしまう。
「大尉!ダメですそれ!」
「何を言っている、カミーユ?」
「貴方自分がどれだけ整った顔してるか自覚してますか?」
「…まぁ人並みには…」
「人並みじゃ無いでしょう!」
何を騒いでいるんだと疑問に思いながらも隣のアムロを見ると、耳まで真っ赤に染めて固まっていた。
「アムロ?」
「……大佐…その顔は反則です…」
そう呟いてクワトロの胸に顔を埋める。
「アムロ!?」
フルフルと震えながらしがみ付くその仕草が可愛くて、クワトロは思わずアムロをギュッと抱き締めその柔らかなな癖毛にキスをする。
「大尉!」
「ああ、すまない。アムロがあまりにも可愛すぎて…」
「それは分かりますけど、こんなトコでイチャつかないで下さい!」
カミーユの言葉にアムロの顔が更に赤くなる。
「カミーユ…可愛いって…僕男だよ!」
「ふふ、アムロさんってば照れちゃって!」
「ファまで!」
皆に散々揶揄われながらも、ようやく会えたシャアの胸に抱かれ、アムロに心に喜びが込み上げる。
『やっと大佐に会えた…』
◇◇◇
別荘へと戻り暫くすると、クワトロの来訪を聞きつけたセイラがやってきた。
そしてクワトロ、否シャアを目にした途端、思い切りその頬をひっぱたき、そのままその胸に抱きついた。
涙を流しながしがみ付くセイラをシャアもまた強く抱き締める。
数奇な運命に翻弄された兄妹がようやく巡り会えたのだ。
「兄さんは今…何処で何をしているの?」
当然の疑問にカミーユもファもシャアに視線を向ける。
「すまない、詳しい事は言えない。しかし、エゥーゴとは違う方法でスペースノイドの自由を勝ち取る為の準備をしている」
「エゥーゴとは違う?」
「ああ、私は数年前、ブレックス准将の理念と思想に賛同してエゥーゴに参加し、連邦の内側からの変革を求めたが、腐り切った連邦政府の中枢部はティターンズを壊滅させたとしても何も変わらない事を悟った。だからこそ、今度は外側からの変革を求め、志を同じくする同志たちと共にその準備を進めている」
“外側…”おそらくそれは武力行使を伴う変革。
セイラやカミーユはその意味を悟り、口をつぐむ。
シャアの言う通り、ティターンズが壊滅した後、ネオ・ジオンの討伐を理由に済し崩し的にエゥーゴは地球連邦政府の配下となった。
そしてそれはおそらく、クワトロ・バジーナ大尉がいたとしても変わらなかっただろう。
その結末に、カミーユは一体自分は何の為に戦ったのだろうと、命を落とした戦友達は何の為に…と思わずにはいられなかった。
「そう…」
セイラはそう言葉を返したまま小さく溜め息を吐く。
「それで、ここに姿を現したと言う事は、アムロを迎えに来たと言う事なの?」
「それなんだが…実を言うと、まだアムロを受け入れる準備は整っていない。何よりアムロの身体の事を考えるとまだここで療養すべきだと思う…」
シャアの言葉にアムロが不安気な視線を向ける。
「大佐…また行っちゃうの?」
「すまない、アムロ。今日は…君の事をアルテイシアに頼む為に来たのだ」
「大佐のバカ!」
アムロは席を立つと、走って部屋を出ていてしまった。
「アムロ!」
「アムロさん!」
後を追おうとするシャアを引き止め、カミーユが後を追う。
「俺が行きます」
そんな二人を見送りながら、シャアが驚いた顔をする。
「驚いたな。アムロがあんな反応をするとは…」
今までは暗示の影響があったせいか、こんな風に反抗的な態度を取る事は無かった。
「治療の甲斐があって、暗示が解け始めているのよ」
「暗示が?」
「ええ、身体の方も随分と回復したわ。抵抗力もついて今では外出も出来るのよ」
「本当か!?では、あとは身を守れるようになれば…記憶が戻れば一番良いのだがこればかりはな…」
新生ネオ・ジオンが拠点を置くスウィート・ウォーターは、難民収容用コロニーと言うこともあり、まだ治安がそこまで良くはない、おまけに旧ジオンの同胞にはアムロを恨んでいるものも少なくない。
「…そうね…」
一時的に記憶が戻る事はセイラも聞いて知っているが、この一年、アムロが記憶を取り戻して本来の自我となっているところをセイラも見ていない。だから少し疑問に思い始めていた。
だからこそシャアにその事を切り出せなかった。
作品名:Blue Eyes【番外編】 作家名:koyuho