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『真夏日・カナのスクーター・廃工場の灰羽達』 【灰羽連盟】

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(一)



 オールドホームの庭掃除は、カナの当番だった。早起きをしたのは正解だった。未明、カナの直感が彼女に告げていたのだ。今日は暑くなるということを。
 実際、すでに朝から暑いし、風がそよともさやいでこない。首に巻いていたタオルで幾度となく顔や身体を拭いたが、作業をしていると汗はすぐにわき出てしまう。掃除の途中から諦めて、汗を流れるままにまかせた。上下の衣服はすっかり汗を吸いこみ、今やびしょ濡れだ。それがべったりと肌に張り付いてくる。
「うえ、気持ち悪い。生地が厚いのはもうダメだなあ……」
 カナは顔をしかめた。

「掃除終わり、っと!」
 彼女は掃除道具一式を物置にしまうと、空を見上げた。気温もそうだが、今までと雲の高さが違う。自然とカナは顔をほころばせた。間違いない。季節が変わった。これは夏の到来だ。
 軽くガッツポーズ。
「よし! 着替えてシャワーだ!」
 カナはシャワーの心地よさを思い浮かべる。それからさらに彼女の思考は巡り巡る。
 ――近いうちに夏服を古着屋で見繕《みつくろ》っておかなきゃ――そうだ、今度みんなで川遊びをしよう!――
 カナはもう嬉しくてたまらないのだ。カラッと晴れた空。さんさんと降り注ぐ太陽。夏こそカナの季節なのだから。

◆ ◆ ◆

 灰羽は繭に包まれてこの地に生まれてくる。灰羽となる者は、その繭の中で夢を見る。繭から生まれ出たのち、その夢を思い出すというのは、灰羽にとってとても大切なことなのだ。
 そして“彼女”は――河の中を魚みたいに漂っている夢を見たから河魚《カナ》と、そう名付けられた。名前のとおり、彼女は快活に動き回るのと、泳ぐのが大好きだった。

◆ ◆ ◆

 オールドホーム北棟。
 カナは着替えの服を取りに自室に戻った。汗を吸って重くなった服を脱ぎ捨て、新しいバスタオルで身体を拭く。窓をガラリと開け放ち、部屋にこもった空気を追い払う。
 風はないものの、室内が心持ち涼しくなってくる。真っ裸に近い格好だが、誰が見ているわけでもないから、まあよしとする。

 東棟のヒカリは起きているだろうか。窓のカーテンは開いているようだ。ヒカリの部屋とは建物を隔ててはいるが同じ階にあり、二人の部屋の位置はかなり近い。
「ヒカリー、起きてるー?」
 カナは窓から身を乗り出して呼んだが返事がない。ならばもう一回、大きな声で。
「おーいヒカリー! 朝だぞー!」
 しばし待つ。やはり反応無し。
「……なにー?」
 カナは声がした方向――庭を見下ろす。ヒカリだ。とろんと、寝ぼけた表情でヒカリはカナを見上げる。
「ああ、起きてるんならいいやー!」
 ヒカリはこくりと頷くと、ゲストルームのある西棟へと歩いて行った。ヒカリは今日、寮母のばあさんと一緒に年少組の世話を見ることになっている。大勢の朝食を作らないといけないのだから、この時間には起きていてもらわないと困る。
「あ、あくびした」
 カナは苦笑し、自分もシャワーを浴びるべく、さっさと着替えてゲストルームへと向かうのだった。