Lovin’you afterCCA15
と、奥の部屋から女性の声が聞こえる。
「ロバート?どうしたの?誰かお客様?」
懐かしい声に、アムロの心臓がドクリと跳ねる。
「ああ、カマリア、そうなんだ」
そう答えながら声の方へとロバートが歩いていく。
そして、しばらくすると、ロバートがカマリアを伴い居間へと戻ってきた。
そして、ソファに座るアムロを見つけ、カマリアが言葉を失う。
「あ…アム…ロ?」
両手で口を覆い、アムロを見つめる。
そして、ロバートに支えながらゆっくりとアムロへ近付く。
そんな母親に、アムロもただ目を見開き、言葉が出ない。
小さく震えるアムロの手を、シャアが優しく、安心させるように握りしめる。
その温もりに、アムロは少し冷静さを取り戻すと、母親に向かって声をかける。
「母さん…」
「アムロ!」
カマリアはアムロの頬を両手で包み込み、懐かしそうに見つめる。
「本当に…アムロなのね…夢じゃ…ないのね…」
みるみるカマリアの琥珀色の瞳に涙が溢れ出し、頬を濡らしていく。
「母…さん」
そんなカマリアに、アムロの瞳にも涙が溢れる。
「アムロ…」
アムロの名を呼びながら、カマリアがアムロを抱き締める。
それにビクリと肩を震わせるアムロに、カマリアがギュッと強くアムロを抱き締める。
「ごめんよ…アムロ…あの時…お前に酷いことを言ってしまって…傷付けてしまって…」
「母…さん?」
「アムロは…私を守ってくれたのに…本当にごめんね…」
アムロは目を見開き、呆然と母の言葉を聞く。
「…母さんは…私の事…嫌いじゃないの?私は…母さんの望む子じゃないのに…」
「嫌いな訳無い…お前は…私の大切な…たった一人の愛する娘なんだから…」
「愛する…?私の事…愛してくれてるの?」
母の言葉にアムロの胸が締め付けられる。
「当たり前でしょう…。ずっと…ずっと…想っていた…。会いたくて…会いたくて…。でも、あの時、お前を傷付けてしまった私には、会う資格なんて無いと…ずっと…ずっと後悔していた」
「そんな…私の方こそ…母さんの望む子になれなくて…母さんに見捨てられたと…思ってた…」
「そんな事無いわ…本当にごめんなさい…私が全ていけないの…。あの時…唯々驚いて…お前を受け入れられなかった…」
泣き縋る母親の言葉にアムロはただ涙を流す。
そんなアムロの涙を、シャアが優しく掬う。
そして、アムロの瞳を見つめ、コクリと頷く。
母に縋って良いのだと、甘えて良いのだとシャアの瞳がアムロに告げる。
「シャア…」
アムロは震える手を伸ばし、ゆっくりと自分に抱きつく母の背中に回す。
そして、戸惑い、震えながらそっとその背に触れた。
その背中は暖かく、幼い頃、自分を抱きしめてくれた母親を思い出す。
アムロの瞳からは涙が更に溢れ出し、その背中をギュっと抱き締める。
「母さん…会いたかった…」
「アムロ…」
十年以上も離れ離れだった母娘がようやく再会出来た瞬間だった。
互いにずっとずっと求め続けていた。けれど負い目を感じて手を伸ばせなかった…。
そんな二人を、シャアとロバートが優しく見守る。
シャアはアムロとカマリアはどこか似ていると思う。
自分で何もかも抱え込んでしまうところ、相手の事を考えすぎて、自分を抑え込んでしまうところが…。そんな二人だから、こんなにも時間が掛かってしまったのだろう。
けれど、漸く二人の時間は動き出した。
たとえ、その時間があまり多くは残っていなくても…。
翌日、スウィート・ウォーターに戻る二人をカマリアとロバートが見送る。
「シャア総帥、今回は本当にありがとう」
「いえ、こちらこそありがとうございました」
シャアに寄り添うアムロを見つめ、カマリアが微笑む。
「一緒に歩む人に巡り会えたのね」
カマリアの言葉に、アムロはシャアと視線を合わせて微笑む。
「うん…、今度は…子供達も連れてくるよ」
「ええ、楽しみにしているわ」
「それまで…元気で…」
「そうね、もう少し頑張らなくちゃね」
涙を滲ませて微笑むカマリアに、アムロが抱きつく。
「母さん!」
そのアムロを、カマリアがロバートに支えながらも抱きしめ返す。
「アムロ、愛しているわ」
「うん、私も…」
名残惜しい想いを抱きながら、アムロはカマリアから離れ、その顔を見つめる。
そんなアムロの頬を両手で包み込み、カマリアが頬にキスを贈る。
それは、五歳の頃別れ際にされたキスと同じだった。
「母さん…」
自分も親となり、今だからようやく分かる。
あの時、母がどんな思いでアムロにキスをして送り出したのか…。
そのキスに、どれだけの愛情が込められていたのか…。
「さぁ、アムロ。そろそろ時間でしょう?」
「うん…」
涙を浮かべて母を見つめる。
そんなアムロをカマリアも優しく見つめる。
「アムロ…いってらっしゃい」
「あ…うん!いって…きます」
それは、あの時には貰えなかった言葉。
けれど、今度は貰えた…。
また来ても良いのだと、帰って来ても良いのだとそう言ってくれたのだ。
宙港に向かうエレカの中で、アムロはポロポロ涙を流す。
けれど、それは悲しみの涙ではなく、喜びの涙。
そんなアムロの手を、シャアが優しく握りしめる。
「シャア…ありがとう…。本当に…ありがとう…」
◇◇◇
しばらくした後、子供達を連れてアムロは再び母の元を訪れた。
その時の母の笑顔はアムロの胸に焼き付いて離れない。
その翌年、カマリアは静かにこの世を去った。
彼女の人生もまた波乱に満ちたものだったが、最期の瞬間は、愛する者たちに囲まれた幸せなものだった。
◇◇◇
そして、いつもの日常が再びアムロとシャアの間に流れ始める。
「そういえばさ、例の手紙の時…貴方私の浮気を疑ったよね…」
「君があんな風に男からの手紙を隠すからだろう!」
「だからって浮気を疑うなんて!!」
「ならば素直に話せば良かったではないか!」
「言いたくなかったんだよ!」
「そう言って君はいつもいつも一人で抱えて!何度言えば分かるんだ!」
「夫婦だからって何でも話さなきゃいけないのか!」
「何を言っている!そうやって君が隠すから疑いたくもなる!」
「私を信じてないのか!?」
「そういうことじゃないだろう!」
「そういうことだろう!」
「アムロ!」
「あー!もう!勝負だ!」
「君には言っても分からなそうだからな!受けて立とう!」
「で?また模擬戦(夫婦喧嘩)?」
モビルスーツデッキで怒鳴り合いながら互いの愛機に乗り込む二人を見つめ、レズンが呆れながら呟く。
その横では、ハラハラと心配気に二人を見つめるカミーユと、胃に手を当て溜め息を吐くブライト。
そして目の座ったナナイが立っている。
「まぁ、このイベント(夫婦喧嘩)のお陰でクルー達の暇つぶしと、血気盛んな若者の気が紛れているようなので良しとします」
「まぁ…そうだな」
楽しそうにはしゃぐパイロット達やメカニック、それにどこから聞きつけてきたのか多くのギャラリーがドックにひしめき合う。
「そんじゃ、私も賭けに行くかな」
「今日はどっちに賭けるんですか?」
カミーユの問いに、レズンが不敵な笑みを浮かべる。
「勝負に私情は禁物さ!ついでに敵に塩は贈らないよ!」
「えー!教えて下さいよ」
作品名:Lovin’you afterCCA15 作家名:koyuho