友達ごっこ
その時の怪我が原因で、シズちゃんは卒業式の日まで学校に出てこられなかった。俺は新羅に呆れられたり、ちょっと怒られたりしながら、残りの学園生活を有意義に送った。
卒業式の日、俺と新羅は式をサボッて保健室でだらだらと喋っていた。 話の内容はこの場にいないシズちゃんの事だったと思う。
「君はなんでそんなに静雄を目の敵にしてるんだい?」
「新羅に友達がいたっていう事にイラついたんだ」
「臨也に嫉妬されても気持ち悪いだけだからね。まぁ分かってると思うけど僕が嫉妬されて嬉しいのは」
「首なし女だけだろ?嫉妬なんて嘘に決まってる。なんだろうなぁ、最初は俺と似てるかもしれないって思って、むかついてた。そのうち、シズちゃんは俺と全然違うって思ってもっと嫌いになった。理由なんかないんだ」
「あは、・・そうだろうと思った」
学校を出る時、下駄箱の所で俺はシズちゃんと鉢合わせた。シズちゃんは顔を顰めた。俺は笑ってしまった。
「もう怪我は治ったの?さっすがシズちゃん」
「手前よくもそんな事言えるなぁ・・臨也ぁ・・!」
シズちゃんの顔に血管が浮き出た。そんな風に怒りを露にするシズちゃんを俺は何度も見てきた。シズちゃんが俺に対してそんな顔をしたのは初めてだった。
「いいの?ここ学校だよ?卒業式に、暴れたらどうなるんだろうねぇ?卒業取り消しになったりして。シズちゃんの将来、滅茶苦茶になるんじゃない?それはそれで面白いけど、」
ガゴン!
シズちゃんは俺の代わりに、下駄箱を殴った。ステンレス製の下駄箱は、あっさりとひしゃげた。
「人を舐めんのも大概にしろよぉ・・、殴り殺されてぇか?」
「こわいなぁ!」
俺はナイフを出した。その瞬間、シズちゃんの目の色が変わった。あ、キレた。そして俺は学校を飛び出し、池袋中を逃げ回った。 そして、俺とシズちゃんの間にあった高校三年分の友情は完全に完膚なきまでに、修復不可能なものとして消え去った。
これが、俺とシズちゃんの間にあった全てだ。
でも、もしかしたらシズちゃんの中でそれらは未だ過去になっていないのかもしれない。今でもシズちゃんは俺を見つけると殴りかかってくる。シズちゃんは偶然なのか故意なのか、かなりの頻度で俺の仕事の邪魔になるので、そんな時は俺もシズちゃんの排除に苦心している。
シズちゃんには物理的な攻撃よりも精神的な攻撃の方が効くので、俺は、シズちゃんの周りに、シズちゃんを好きになりそうで、標準よりも明らかに強い女を集めようと思っている。シズちゃんは女の人に愛されるべきなのだ。愛されて、丸くなってしまえばいい。そうして、俺の前から消えてしまえばいいのだ。