友達ごっこ
高校三年の冬、俺は喫茶店で金を受け取っている所をシズちゃんに見られてしまった。俺は、嘘をついた。どんな嘘をついたのかは覚えていない。その場ではシズちゃんも納得したようだったが、後にシズちゃんは俺のチームを潰して、真実をチームの頭から聞き出した。
「あいつはすげー奴だぜ。ウチのチームが関東最強だったのも、あいつの頭があったからだ。警察関係者の弱みもいくつか握ってたから、警察の取り締まりもいつも寸前でかわしてたしな。ああ?金?別のグループの奴らといろいろえげつない真似やってたぜ。俺らが中学ん頃は、テレクラで呼び出した親父をボコって巻き上げる程度だったけど、最近じゃ高校で女調達してきて援交の利益の上前撥ねてるとかも聞くし?そっちは嘘かもしんねーけどな」
そいつと俺は、中学校の頃からずっと付き合いがあって、喧嘩もできる使える男だった。実を言うと俺の処女もそいつに捧げたくらいだった。ただ、そいつは自分の行動の引き起こす事を何一つ分かっていない馬鹿な男だった。俺はそいつの次に喧嘩のできてそこそこ卑怯な事もできるチームの後輩に、今なら下克上できちゃうねぇと微笑みかけてやった。そいつは、あはははそうですねぇと笑ったが、ちゃんと空気を読んでいて、翌日、チームの頭をリンチし、自分がそのチームの頭に納まった。まぁそんな事はどうでもいい。
シズちゃんは俺の事を知りたがるようになっていた。俺の生活を、俺の過去を、俺の本当を。俺は、それに危機感を覚えた。
このままでは、まずい。
俺はシズちゃんの前で、俺のチームの奴らに、俺を攫わせた。わざと俺に傷をつけさせた。シズちゃんは色々な事を疑いながら、それでも俺を助けにやって来た。馬鹿なシズちゃん。馬鹿なシズちゃん!
シズちゃんは俺の前でボッコボコに殴られた。シズちゃんは立てないくらいにやられて、さすがにこれ以上やったら死ぬだろ、とチキった馬鹿が俺を解放した。俺はシズちゃんを遠巻きにするチームの奴らをチラッと見てから、シズちゃん、と泣きそうな声を出してシズちゃんに駆け寄った。
「臨也ァ、怪我、ねぇか・・?」
シズちゃんは、俺に手を伸ばして、そう言った。
「ないよ。シズちゃん、シズちゃん、」
俺はシズちゃんを抱き起こして、肩に顔をうずめた。シズちゃんの俺に対する疑いが吹き飛んでいるのを俺は悟った。本当に何でこんなに馬鹿なんだろう。でもきっとシズちゃんは馬鹿だから、また同じことを繰り返すに決まっている。何度も何度も俺を疑って俺はそれを誤魔化そうとして、シズちゃんは俺に騙される、その繰り返しだ。違う、俺の三年間の高校生活は、ずっと、その繰り返しだった。他の馬鹿みたいに完全に俺を盲信してくれればよかったのに。
「でも、俺のチームを勝手に潰しちゃったのは、許せないな」
俺はナイフをシズちゃんの背中につきたてた。ナイフは5ミリくらいしか刺さらなかった。でも、俺のチームの奴らは満足だったようで、ゲラゲラ笑った。俺はシズちゃんを突き放した。シズちゃんは目を見開いて、俺を見つめていた。目の奥がゆっくりと怒りに染まっていく。
「何怒ってるの?だってシズちゃん、俺が本当はこういう奴だって勘付いてただろ?」
俺はシズちゃんの横にしゃがんで、シズちゃんの目を見ながら、ゆっくりと教えてやった。シズちゃんと目を合わせたまま、膝を伸ばして立ち上がる。俺は、シズちゃんに盲信されることを諦めた。それよりも、もっとシズちゃんの激しい怒りの感情を見てみたくなったのだ。
「なあ、シズちゃん。自分が何やったかわかってる?俺の友達ボコッてくれちゃってさ、あいつ、全治3ヶ月だってよ。あの様子じゃもうまともに喧嘩できないだろうなぁ、長い付き合いだったのにほーんと君のおかげで台無しだよ!あははははっ!でも俺、怒ってないよ。正直、もうチームとか関東最強とか全国制覇とかには飽き飽きしてたし、丁度良かったかなとも思ってんだ」
「何言ってやがんだ、手前・・」シズちゃんは低い声で唸った。
「俺が君をいい友達だと思ってたって言ってんだよ。ただ引退ついでにシズちゃんのこと潰す協力しただけなんだ。出来心って奴。ごめんねぇ?」
「・・臨也ァ・・!」
あれだけやられたのに、シズちゃんは立ち上がった。
「手前、ぶん殴る!」
「やだなぁ、俺謝ってんじゃん。勘弁してよ、怖い怖い!助けてぇー!」
それを合図にチームの後輩が、前から後ろから武器を手にシズちゃんに襲い掛かった。シズちゃんは目を瞠った。困惑、怒り、信じられないという気持ち、他にも沢山の感情がシズちゃんの目の中で複雑に混ざり合っていた。
それだけ確認した俺はくるっとシズちゃんに背を向けた。背後からの野蛮な音を聞きながらヒラヒラと手を振る。
「な、てめぇ、」
「じゃーね、シズちゃん。君と遊ぶの楽しかったよ」