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TWILIGHT ――黄昏に還る2

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 素直に頷けば、凛は意志の強い瞳を向けてくる。
「じゃ、ちゃちゃっと壊しちゃいましょ、聖杯を!」
 意気込む凛の笑顔が眩しく見えて、士郎は視線を落とした。



***

「悪いな……」
「何を謝るのです?」
 決戦前夜、いや、まだ聖杯は顕現していないため、前々夜とでもいうべきか。とても静かな夜だった。
 変に意気込むわけでもなく、セイバーと、この時空の衛宮士郎、そして士郎は縁側で冬の月を見上げていた。
「うん、まあ……、いろいろな」
「あんたが謝ることなんか、何もないだろ?」
 少年は真っ直ぐな瞳で言う。
「…………ったく、ガキだよなぁ、お前は」
「な、なんだよ! それ!」
 勢い込む少年に士郎は苦笑を隠せない。
「お前はそうやって、真っ直ぐでいたらいいからな」
 そう言って士郎は無理やりに笑顔を作るしかなかった。
 アーチャーにしろ、この少年にしろ、互いに意地をぶつけ合うことで気づくことがあったはずだ。
 事実、士郎はどこかで偽物の理想を追っていると気づいていたことをアーチャーに晒されて、改めてその、初めにあった願いに気づいた。
 アーチャーとて同じだ。アーチャーもやはり、打ち消したかった過去の己を認めることで、自身の歩んだ道が間違いではなかったと気づいた。
 その唯一の機会を、士郎は潰してしまったのだ。
 これから先を少年は、偽物の理想だと知りながら歩んでいくことになる。そこにあった願いも想いも忘れ去ったまま。
 そして、アーチャーは守護者という仕事を繰り返す。苦しみ足掻き、衛宮士郎への怨みだけを抱えたまま。
「聖杯を破壊したら、すぐに帰っちまうんだよな?」
「ああ。長居は無用だからな」
「そっか。残念だな」
「なんでだよ?」
「もうちょっと、いろいろ……、その、聖杯戦争以外の話をしたいなって」
「未来のことは教えないぞ」
「あー、そういうんじゃなくてさ。あんたが、どうやって生きてきたか、とか……?」
 自分でも明確な何か、とは思いつかないのだろう、迷いながら話す少年に、士郎は思わず瞠目した。
「……たいした……ことじゃない。俺は、自分ができることをやってきただけだ。お前にもできるような、な」
「俺にも? でも、俺は、強化の魔術くらいしかできないし……」
「……それで、十分だろ」
「え?」
「無理をして魔術師になることもない。お前には他にできることがある。正義の味方は、ヒーローみたいに派手な奴ばかりじゃないからな」
「ふーん。そんなものなのかな……」
 納得したような、していないような、不可解な顔で少年は首を傾げた。
「あの……、」
 セイバーがおずおずと挙手する。
「なに? セイバー」
 少年が訊けば、
「すべてが終わったら、一緒にご飯を食べましょう!」
 セイバーは、満面の笑みで告げる。
「あ、それ、いいかもな!」
 セイバーの提案に、少年も乗り気になり、セイバーとともに頷き合っている。
「そのくらい、いいだろ?」
 少年の期待に満ちた表情に、
「あ、ああ、そう、だな……」
 士郎は頷くしかなかった。


TWILIGHT――黄昏に還る 2  了(2018/8/27)