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六年生の子守唄の段(立花・善法寺・食満ver)

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「さぁ~って!!洗濯物が終わったぞ!」

 きり丸は干し終えた洗濯物を見上げて、満足そうに笑った。


「食満先輩~…、ってあら。…寝ちゃってる…」


 振り返って見れば、さっきまで子供達を寝かしつけようと一緒に横になって本を読んでやっていた食満が寝息を立てていた。

「子供達の世話、結局先輩一人に任せちゃったようなもんだからなぁ…」

 いつも、忍術学園一忍者をしている潮江と喧嘩をしている食満とは思えないぐらい、穏やかに眠っている。
 苦笑しながらきり丸は風邪を引かないように薄手の毛布をかけてやった。

「う~ん、しんべヱも喜三太も、…食満先輩に苦労かけてるんだろうなぁ」

 あの二人がそろっては大変だろなぁと思いつつ、それに文句を言わない食満はすごいなと感心した。


「おお~い…」

「あ、善法寺先輩、立花先輩」


 そこに、黒焦げになった善法寺と、まだススがついて汚れている立花が帰ってきた。


「先輩達~、何やってんスかぁ」

「す、すまない、すまない」
「なかなか伊作がしぶとくてな」


 やっと普段どおりに戻った立花が、そっぽを向く。


「も~…。二人が追いかけっこ始めるから、子供達の世話、食満先輩が一人でやってくれたんスよ」

「え?留三郎?」
「…あいつ、寝てるぞ」


 二人が何本もの川の字になって寝ている子供達のほうを見ると、それに食満が混じっていた。


「…よく寝てるな」
「う~ん、よっぽど疲れたんだろうね」


 しゃがみこんでその顔を観察する立花と、申し訳なさそうにする善法寺。


「起きてるときはうるさいが、寝るとさすがに静かだ」

「あっ、仙蔵」


 何かいたずらがしたくなったのか、立花は食満の頬をつねって伸ばす。
 みょーんと伸びた頬に、それでも眠る食満は、少し痛そうに眉をしかめた。






「――またせたね。洗濯に子守、ありがとう」


 家の奥さんが帰って来て、三人に向かって言った。

「さあ、お疲れさん。たんと食べておくれ。遠慮は要らないよ」

 そう言って、出してくれたのは以前もくれた饅頭。
 今回もきっちり四つあり、さっそくきり丸は手を伸ばした。

「いただきま~す!あ~ん。…~ぅんまい!おいしいっス!!」

 仕事後の甘味に、きり丸はご機嫌で奥さんにお礼を言った。
 …しかし。


「…あれ?先輩達どうしたんスか?」


 何故か目の前の立花と善法寺は饅頭に手を出す雰囲気がない。
 きり丸が不思議がると、立花と善法寺が互いに顔を合わせた。


「きり丸、私の分の饅頭も食べていいぞ」
「え?」


 きり丸は立花の突然の申し出に首をひねる。


「…せっかくついてきたのに、ほとんど手伝えなかったからな。せめてものお詫びだ」


 腕を組み、目を閉じる立花。
 善法寺がその隣で苦笑した。


「…じゃあ、僕のは留にあげようかな。結局、不運で何もできなかったし」


 そう言って善法寺は懐紙で饅頭を二つ、包んだ。


「え…、いいんスか?」


 きり丸は饅頭と立花を見比べる。


「ああ」

「食べなよ、きり丸。仙蔵が自分から物を人にやるなんて滅多にないんだから。貴重、貴重」


 善法寺は遠慮するきり丸に、ウィンクしてみせた。


「は、はい!じゃあ、ありがたくいただきます!!」


 嬉しそうにニコニコと饅頭をほお張る。
 そんなきり丸に、立花と善法寺は…。

「ふっ。やっぱり、まだまだきり丸も子供だな」
「そうだね。…あんな嬉しそうな顔しちゃって」

 クスクスと、かわいらしい後輩の様子に笑っていた。






「――ほら、留三郎。起きろ。そろそろ帰るぞ」

「んぁ?…ああ、いかんな。すっかり寝入っていたようだ」


 空が夕焼けになってきた頃、立花が食満を起こした。

「留、よく寝てたね~」
「お前らが仕事放って遊んでるからだろう」

 目をこすりつつ、食満は善法寺に言う。


「じゃあ、帰りましょうか」

「ああ」
「うん」
「そうしよう」


 そう言って、四人は連れ立って、忍術学園の方向へ足を進めた。


「「お兄ちゃ~~~ん!!」」


 後ろの方から子供達の声が聞こえてきた。


「「今日はありがとう――!!」」
「「また来てね――!!」」


 振り向くと、六人の子供達と奥さんが手を振っていた。
 それを見て、きり丸が笑う。


「じゃ――なぁ――!!」


 きり丸はぶんぶんと手を振り返した。

「ははは」

 善法寺も手を振り、食満と立花は笑う。






「――…先輩達、次もまた付き合ってくれます?」






 六年の三人に囲まれながら歩くきり丸が聞いた。


「む」
「まぁ…、ははは」


 それに困った顔を返す立花と善法寺。


「ああ、いいぜ」


 食満は、ぽん、と手をきり丸の頭にのせた。






 ――夕焼けの空を見ながら帰る四人。






 …その後ろには、少しでこぼこの黒い影が、仲良く並んで伸びていた――