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逆行物語 真六部~ヴィルフリート~

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最後の逆さ紡ぎ~幸福なる晩年~


 数十年経った。私は既にアウブを引退し、若い世代にバトンタッチをしていった。既に父上も母上も高みに昇り、叔父上とローゼマインも、この世にはいない。高みでメスティオノーラ様の図書館にでもいるかも知れない。まあどうでも良いが。
 私が設定した人の寿命は後少し続く。それが終われば…、私はどうしようか。
 ボンヤリと考えていると、ある依頼が入った。

 ハンネローレ様がエーレンフェストに旅行に来ると言う。

 ハンネローレ様…。私の一番若かった時代に、妻にと望んだ女性…。最早、今となっては子供過ぎて、対象にならなかった。何と言うか、犯罪を犯してる様な気にもなる…。政略と完全に割り切れば話は変わったが、ハンネローレ様相手に割り切る事が出来なかったのだ。
 ツラツラと思い出しながら会ってみると、品の良い老婦となっている。

 私の中のハンネローレだ…。

 彼女と結ばれた時の、一番解り合えた頃。重ねた歴史が浮き彫りになる老いた身で互いを労り、過ごした日々が浮かぶ。フィリーネ達とも親しくしたが、あれは自分が救わねばならないと言う責任があった。政略を無視する訳には行かないが、それでも恋と言うモノはハンネローレとの間でしか芽生えなかった。
「…そう言えば、私、初恋がヴィルフリート様でしたわ。」
「私も…、貴方が妻になってくれたらと、貴族院時代に感じておりました。」
 昔では考えられぬ程の、ハッキリとした物言い。これは旅行産業の副産物だ。領地によって違うローカルルールによって、神の比喩は誤解を生む事もある。貴族院では生活空間自体が寮で区切られている為、多少のすれ違いで済んでいたが、この産業ではクレームの元になり、同時に顧客説明において、理解が進む。
 その為、神の比喩を使わない会話と言うものが普及していったのである。
 そしてこの会話が、私の人生の花を咲かせた。

 老いらくの恋

 まさかランプレヒトに文才があるとは思わなかった。長い間、幾度も共に歩んだが、エルヴィーラの血を引いていると感じた事は無かった。
 意外性を感じると共に、私の幸せを願ってくれたのだと、面映く感じる。かさついた心に、フリュートレーネの癒しが流れ、潤う。
 余裕等無かった。叔父上は少しマシにはなったが、ローゼマインは反省しても相変わらずで、気の休まる瞬間等無い。
 ユストクスが完全に私についた事は救いだったが、歓喜等、感じる事は無かった。ユストクス以外の側近には最早、心を通わせる事も無かった。職場の同僚としても、上部過ぎる付き合いだった。

 それが…、それなのに…、ランプレヒトが私の為に。

 まるで少年に戻っていく様に。心が踊る。感動している。その躍動のまま、私はハンネローレを迎えた。 


 ハンネローレと名を捧げあった私の人としての寿命は彼女に合わさった。遥か高みで問われる。

 半神として生きていくか、人として眠るか、と。

 私は答える。
「人として、ヴィルフリートの意思を眠らせたいと存じます。妻、ハンネローレと共に。」
 こうして私の長い人生は終わりを告げた。

続く