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永遠に貴方のもの。<前編>

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最初に気がついたのはやたらと部屋が綺麗になっていることだった。
割とそういうのには無頓着な方だと自覚していたから多分、余程綺麗になっていたんだろう。
執事に尋ねてみれば最近自分の部屋の掃除担当を変えたという。
会わせろ、と言えば少し渋い顔をする。

「なんだよ、会わせられねーよーな奴に主人の部屋掃除頼んでんのか」
「いえ、決してそういうわけでは・・・」
「じゃあいいじゃねーか」
「なんと申しますか、仕事はできるのですが、口が利けないのかどうかはわかりませんがあの者、一言も話そうとはしないのです」
「へえ?」

言ってから執事は後悔した。
この屋敷の主人は珍しいものを好む傾向が強い。
多少抵抗はしたものの、話題の人物と引き合わせる羽目になるのは数分後のことだった。


「この者がギルベルト様のお部屋掃除を担当している者でございます」

多少渋みが残る顔で執事が執務室に連れてきたのはこの辺だと珍しい黒髪黒眼の青年。
目には光がなく、死んだようにも見える目。ずっと見ていると吸い込まれそうになる。
それが定期的に瞬いていることでかろうじて生きているのだと実感した。

「お前が俺の部屋掃除してくれてたんだってな?」

こくんと浅く頷く。
本当に話さない、話さないどころか表情一つ変えない。

「礼を言うぜ、前よりずっと綺麗になった」

へこり、と浅く適当にお辞儀をする。下げた顔も上げた顔も変わらない。
なんだか面白くなってきた。
おい、と出入り口付近に控える執事に声を掛ける。

「こいつ、他になんか仕事してんのか?」
「他には・・庭や玄関掃除を、あと花瓶の水を変えております」
「へー、忙しいか?」

今度は青年に尋ねる。
やる気がないというわけではないらしく、首を横に振る。浅く。

「よし、決めた」

「俺の茶汲みしろよ」

青年はわずかに目を見開いたが、後ろの執事が大きく目を見開いた。







器用なのだろうか。
青年は淹れる茶も美味かった。大した銘柄を使ってはいないから、多分、彼の腕前なのだろう。

他の奴隷と違って無駄なことを話さない、というのも相まって俺は益々青年が気に入って何かと傍に置くようになった。
今じゃ庭掃除をせずに俺の書類整理をしてくれる。寝室の掃除は相変わらず彼に任せたままだけど。
奴隷の扱いとして間違っていると執事に苦言を呈されたこともあるがなんとか説き伏せた。

ただ、そこまで可愛がってもこいつは一言も話をしてくれない。
名前さえも。一度尋ねたら首をはっきりと横に振られてしまった。

言えないのか、言ってはいけない決まりでもあるのか。それとも奥底に反抗心があって、言う気はない、ということなのか。
なんか卑怯かな、とは思いつつも直接奴隷市場から買い付けた執事に聞いてみたら、札には『ニホン』と書いてあったらしい。
・・・・変わった名前だな。

呼んだら、なんか反応してくれるだろうか。
怒ってもいい、吃驚してくれたらもっといい。

「なあ・・・ニホン」
「ッ!?」

本当に珍しく、目をくわ、と開いて茶を淹れていた彼が振り返る。
そんなに驚くなんて予想もしてなくてこっちも驚いた。

「ごめんな、執事に聞いたんだ。お前の名前。手伝ってくれてるのに名前も知らないなんて変だろ?」
「・・・・どうして、ですか?」

さらに目を見開く羽目になった。
初めて聞いた青年の声は見た目のベビーフェイスから連想されるような少年のような声ではなく、低く響いた、艶のある声だった。
決して合わないというわけではなく、むしろ声を聞いてからならこちらの方がしっくり来る。
ほう、と思わず息を吐く。それに構わず彼は続けてその艶声を披露した。今まで黙っていたのが嘘のように。

「正直のところ、これでは奴隷である私(わたくし)と他の使用人たちと、立場がそう変わらないように思われます」
「ああ・・」

納得した。実際はその気になっていただけに過ぎないが。
彼の求めていることが。

「じゃあお前を使用人階級にしてやるよ。賃金もやるし、買い物とかも自由だぜ」

この国は確固とした階級制度が存在するわけじゃなく、なんとなく決まっているに過ぎない。奴隷が普通の階級になれるかどうかは一重に主人による。
きっと彼も喜ぶと、そう思った。

「結構でございます」

すっぱりと、ひんやりした顔で彼は切り捨てた。
きっと国中の奴隷が必死で求めているものを一言、なんの迷いもない眼で切り捨てた。

「え・・?」
「私が貴方にいただいた賃金で何を買おうと、それを含めて貴方のものでございましょう」
「そんな大げさなことじゃ・・・」
「ご主人様はそれなりのお金を払って私を時間ごと買い取ったのだということをお忘れいただいては困ります」

ソーサーに乗せたカップを素っ気無く、音もなく机において、くるりと踵を返し、扉の前で一礼して部屋を出る。
主人である俺の部屋を掃除しているときにベルで呼びつけたんだから当然だ。

しばらく頭がぼーっとしてモノを考えることができなかった。
どうして。どうして。どうして。
ただ喜んで欲しかった。なのにどうして。

どうして・・・自分は彼を喜ばせたいのだろう。