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永遠に貴方のもの。<前編>

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一体何を考えているのかさっぱりわからない。何がしたいんだ。
怒られるのは自分なのだ。仕事が終わらなくて。そんなこと間違っても零さないけれど。
ちりんちりん。
ああほらまた。
急いで行かないとこっちはこっちで怒られる。

扉の前に立ち、こんこんとノックをする。
入れ、となんだか機嫌の良さそうな声。
きぃ、音を立てる扉、蝶番に後で油を差さないと。
中に入って主人の目を見る。紅い赤い、少しだけ紫の眼はこうすると用件を述べてくれる。

「今度は、セイロンがいいな。勿論」

お前も好きなの淹れろよ。

にんまりと笑った顔でまた意地の悪いことを言われる。
机の上は片付いている。先ほどまで書類が散乱していたのはきっともう彼に裁かれてしまったのだろう。
つまりこれは執務の合間に喉を潤す為、茶を飲むというものではなく、バルコニーにでも出て本格的に茶会をする気なのだ。
少し前までこんなことをする人ではなかったのだが・・・。
あの日、私が初めて声を出しだあの日以来だと思う。
茶会をするのも、・・・・・・それにやたら自分が誘われるのも。
決して嫌だというわけではない。この人は頭が良いから話が面白い。
最初から私に返事を求めていないのもきっとこの人の気遣いだ。
でも時折、なんとか声を出させようとすることもある。

声を出さないのは、ただの主人と奴隷の関係上、主人に対して情を持つのはよくないと思うから。
ならばまず会話から切ってしまうと楽だと思う。
でもこの人はそれに構わず、私に構った。使用人階級に上げるとも言った。
それがとても嫌だったのだろう、どうしてか。つい、声を出して反論をしてしまった。
嫌・・・、そう、丁度顔見知り程度の使用人が辞職をしたところだったから。
使用人すなわち、いつか出て行く人間だと思ったときにぴり、と電気が走るように即座に嫌だと思った。

セイロンの葉が入った缶を持ち、2人分、ティーポットに入れる。
特に何かを教わったわけではないのに、彼は自分の淹れた茶をしきりに美味いと言う。
厨房の料理人がティータイムにどうぞ、と妙にいい笑顔でくれたクッキーを皿に乗せて、それらをまた銀のプレートに乗せる。

執務室から出れる小さいバルコニーにはこれまた小さな白いテーブルと椅子が2脚置いてある。
その白い椅子のひとつに座って、機嫌よさそうにこちらを見ている主。
今日は灰色のシャツに紺色のベスト。舞踏会など行けばご婦人方にもてはやされる容姿、・・・ただしこれは自称。
テーブルの上にできるだけ水面を揺らさないようにソーサーごと紅茶を置く。取っ手が彼から見て左側になるように。
クッキーも置いて、自分のも置き、プレートを戻しに行こうとするといいから座れよ、と言われる。

「お、これあの料理人が作ってくれたヤツか?」

こくり、と頷く。あまり行儀はよくないけれどこの人がそれでもいいと言ったのだ。
あまり使用人の悪口を言わないこの主はアイツは料理から菓子までなんでも美味いよなー、と嬉しそうにクッキーを齧った。
その顔をぼう、と見ていたらお前も食えよ、と一枚寄越される。
手ずから与えられる餌を拒むのは反抗にしかならないから、己の手を持ち上げてそれを受け取る。
かり、と噛んだ洋菓子はバニラのあまいあまい香りがした。




そんな少し不毛な茶会が続いてしばらくした頃。

その日も主人の部屋の掃除をして、終わった頃にふと庭に綺麗に花が咲いていたのを思い出す。
匂いがきつくないのを選んで、花瓶に生けて置いておこうと思いついた。
部屋を出て、階段を降り、庭に出る。主人の部屋や執務室から見えるようにと設えてある花壇までもうすぐというとき。
聞きなれた声がした。

「おーい、ニホン!何してんだー?」

声に釣られて、振り向いたそこで自分は固まった。
何してんだっていうのはこちらのセリフですと大きな声でツッコむのは全力で踏ん張った。
なんだってあの人は屋根に登って、暢気に座っているんだろう。
件のバルコニーの手すりを脚にして登ったのだろうと推察できるがそこは問題じゃない。
危ないから降りてくださいと言おうとした矢先にあの人は、後ろに手を付いて、よっと声を出して、立ち上がる。
情けないことにあわあわとして声が出ない。喉に詰め物をされているみたいに。

「そんな心配そうな顔すんなって!よくやってることだ、し・・ッ!!?」

そして彼はバランスを崩し、足を滑らせた。

花を入れるために持っていたバケツを放り出してこの屋敷に来て初めて走った。
体力に自信があるほうじゃないから間に合うかわからないけど。
・・・絶対に間に合わないといけない。

彼が落ちる。
手を伸ばして、こんな腕で無傷で済ませて差し上げられるかわからないけど。
生まれて初めてのスライディング。
がさッという音と、少し何かが腕にチクチク刺さる感覚。

「ってぇ・・・! わ、悪い!!大丈夫かニホン!!?」
「・・・・はー・・・」

思わず息を吐き出した。
一応彼を受け止めた自分の腕はそのまま彼ごと下の植え込みに落ちた。
その植え込みが殆どの衝撃を吸収してくれたようだった。
自分の腕も少しは役に立てたらしく、少しジンジンと痺れている。
わたわたと茂みから出てきて、私の、奴隷の心配をする彼を見て頭が冷えていく。
痺れる手を引っ込めて、立ち上がり、パンパンと埃を大雑把に払う。
話さないようにしているとかそんなものは吹っ飛んだ。

「貴方は・・一体何を考えていらっしゃるのですか」
「・・へ・・?」
「ご自分の身を、・・一体なんだと思ってるのですか!」
「ニホン・・・?」

ひくりと少し怯えた目。
ここまで声を荒げるなんて今まででもきっとない。

「少しはご自分の負っているものをお考えになったら如何です!貴方を友だと、快いと思ってくださる方々、即物的なことを言えば跡継ぎのいない貴方の商社の社員まで!!貴方1人の身ではないのですよ!?」
「ご、ごめ・・・」
「・・・・・言葉が過ぎました。後で打ち首にでもしてください。・・・・・ご無事でなによりでした。念のため、医者には行ったほうがよろしいかと思います」

くるりと踵を返して放り出したバケツを拾う。
花壇のほうに行こうとしたら腕を掴まれた。彼に。

「あの、・・ごめん、・・なさい、心配掛けて・・・」
「・・・何を奴隷に謝ることがございましょう」
「それと!打ち首とか、そんなこと言うなよ・・!!お前こそ、自分1人だと思うな・・!」
「私の命を、大切と思う方がいると、そう仰るのですか」
「当たり前だろ!俺はお前の・・・・」

そこで彼は言葉を止めて、口をぱくぱく開いたり閉じたりした。なんなんだ。
見る見る内に顔が真っ赤になる彼は、なかったことのように手を離して、ズリズリ後ずさりをしてじきに屋敷に走り去っていった。
全くもって訳がわからない。・・・・・・でも、不快ではなかった。
それにしてもさっきのはなんだろう。
いつもの自分らしくないと、思う。端的に考えるなら、あの人が死ねば自分は自由の身だ。
助けたまではいいとしよう。その後に怒鳴りつけるなんて今までなかった。
奴隷になる前、木から落ちた妹に精々、苦笑いして大丈夫ですかと言ったくらいだ。