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【弱ペダ】Soak Romp Soap Pomp

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「おはよ、靖友」
 校門を自転車で通り抜け、自転車競技部の部室前に止める。そこへ一足先に部室に着いていたらしい新開が声をかけてきた。
「おー」
 荒北は捲り上げたズボンの裾を下ろしながら応えた。ギアやチェーン、ペダルに制服のズボンを引っ掛けてしまわないようにしていたのだ。自転車を始めた当初は、そんなことも知らなくて裾を引っ掛け、破って二本ダメにした。三本目のズボンを買うために親に無心したところ、流石に「いい加減にしろ」と怒られたのと、見かねた東堂や新開からズボンを捲くり上げればいいと教えてもらい、卒業までにズボンを破き続ける事態は避けられた。
「今日もいい天気だな」
「おー。練習日和じゃなァい」
 荒北も空を見上げる。真っ青に澄み切った空に、所々雲が浮いている。箱根の山の向こうに見える雲は、もくもくと盛り上がって早くも夏のそれだ。山の上で多少他より涼しいとは言え、夏は夏だ。熱中症にかからないように注意して練習に臨まなければならない。だが、それすらも勝負の醍醐味だ。練習だろうが、常に勝負だと思って挑む、それが荒北だ。
 今日も面白くなりそーじゃなァい。
 勉強もほぼそっちのけ、と言わんばかりに部活に夢中だ。寮に帰ればくたくたで、夕飯も風呂も全部後回しにして寝てしまいたい誘惑に毎日駆られている。けれど、野球が出来なくなって荒れていた日々とは充実感が全く違う。また全力で打ち込めるものが見つかって、自分は幸せなのだと思う。
 あの時福富に会わなければ。自転車に会わなければ。途中入部でひねくれた自分を認め、受け入れた仲間が居なければ……。そして……。
「靖友?」
 新開に間近から覗き込まれて、荒北は思わず、うわっ! と叫んでしまった。
「っン、だよ! 脅かすんじゃねー!」
「だって、オメさんボーっとしてるからさ」
 朝練、と新開が笑ってポン、と背中を叩いた。たったそれだけなのに、動悸が止まらない。間近から優しく見つめる目、自分に笑いかける顔。自分に触れる手。それだけで自分をおかしくしてしまう存在。
 って、なァに言っちゃってンのォ、俺! 少女マンガか!
 荒北は自分の思考が良く判らなくなって、心の中で叫ぶ。
「あ、今日大丈夫だよな?」
 新開が笑って尋ねる。
「きょ……、お、おー。荷物持って来たしィ」
 荒北は背中に背負った少し大きめのバッグを視線で示す。
「良かった」
 そう嬉しそうに笑う新開に、不埒な気持ちがムクムクと湧き上がってくるのを、荒北は必死に払う。オイ、ヤメろ!
 明日の休日は、練習も休みだ。インターハイを目の前にして部活が休みになるのは、なんとも焦燥感が募る。部室の設備の使用は許されていないが、自主練の禁止までは言及されていない。その明言されていない部分を都合よく解釈して、遠くまで走りに行く者、市の体育館で無料で解放されているトレーニングマシンを使いに行く者、身体のメンテナンスと言うことで休む者と、人それぞれに過ごすことになる。
 そんな中、休日の使い方を悩んでいた荒北は、新開にシンプルに誘われた。
「ウチ、来ないか?」
「おー」
 荒北の方も返答も至ってシンプルである。
 互いに提出をせっつかれているレポートと宿題があった。先日平日のレースに出場して授業を休んだ分だ。そろそろ教師の催促も躱しにくい圧を感じる。まずはそれを済ませたいところだ。
 後は、どう休日を過ごすのが良いか。新開の家からならちょっとした買い物に便利な店があるし、なんなら沼津まで出てしまっても良い。折角なら軽く走り行くついでに自転車で行けばいい。荒北はそう言えば欲しかった新刊が出てたな、と思い出したのもある。
 新開も似たような希望を上げたから、じゃぁ、そんなスケジュールで行こう、と休日をいかに過ごすか、と言う協議はあっという間に合意に達した。
 同級生で、チームメイトで。加えて付き合ってそれなりに進展した仲とは言え、互いに気を使わないで良い、良い距離感に居る関係だと思っていた。
 それで軽く返事をしたのだが、今になって変に意識し始めてしまう。
「楽しみだな」
「そォかァ? レポートやんなきゃだろ」
 新開が微笑む顔に荒北はワザと憎まれ口を利いた。自転車を漕いだからか、新開の何気ない行動で、ありもしない不埒な意味を探す自分に焦ったせいか、汗がじわりと浮いてつうと流れた。
 せめて練習の間は忘れてくんなァい。荒北は何者かへ祈るように、自分の邪な想いに散れ散れ、と念じた。

 流石にインターハイに向けての練習は厳しさを増す。そのおかげで少なくとも練習の間は余計なことを考えずに済んだ。
 放課後の練習は箱根山の周回コースだった。荒北は一緒に走る部員たちをレースに見立てて、福富と一緒に走る練習を重ねる。去年の秋ごろからエースである福富をゴールへ送り込むアシストの役割を担っているからだ。福富を引きながらも状況を冷静に判断し、刻一刻と変わるレース展開を読み、エースを優勝させるために、それと判らせずに駆け引きを展開し、何処で他の選手を躱し、何処でスピードを上げ、何処でエースを送り出すのかを考え続けなければならない。身体も疲れるが頭もひどく疲れる練習だ。
 ごちゃごちゃ考えるのは性に合わない、と最初は思っていたが、やってみると意外と面白いと思うようになっていた。本能が反応している部分がまだ大きいが、単純なスピード勝負だけではなく、陽動や駆け引きで他の選手と競る展開には興奮する。
 ぽつりと頬に何かが当たった。そう思った時にはぱち、ぱち、とヘルメットで水滴が跳ねる音がして、ざあ、と雨が降り出した。
 マジか。
 これで晴れの時よりも更に路面の状況に気を使わなくてはならない。かなり疲労困憊の状態でこの展開は、精神的にも肉体的にも格段に厳しくなった。
「おーい、ジャケット着ろ!」
 誰が言い出したか、部員たちが次々と路肩に止まってレインジャケットを羽織り始める。風を切って走るのと雨で気温が下がって行くため、濡れたままでいると体温を奪われて行く。
「荒北、ジャケットを着ろ」
 福富が路肩に寄せて止めた自転車に跨ったまま、俯いて動こうとしない荒北に声を掛ける。
「ったく、カンベンしろってんだよォ」
 ぼそりと呟く。聞き取れなかった福富が、目だけで聞き返してくる。無愛想で無口な部長のこんな仕草だけで、意図が読めるようになったのか、としみじみ思う。
「ジョーダンじゃねーってンだヨ! 雨降っても走るとか、頭おかしいンじゃねーのォ?!」
 がぁ! と怒鳴った。笑いながら。びく、と他の部員たちが荒北を恐々と見やる。そして、荒北の笑い顔を見て、怯えるか怪訝な顔をする。
 だが、そんなことは微塵も気にならない。野球だって多少の雨なら試合続行だ。それに汗でとうに全身ずぶ濡れだ。福富もその荒北の顔を見て、ニヤリと笑う。ヘルメットを抜けてくる雨が、汗と混じって顔を伝う。
「上等じゃなァい」
 荒北はグローブで汗だか雨だか判らない水滴を払いながら、興奮を隠せずに笑った。
「ふむ」
 そう返す福富もギアが一段上がったようだ。
 相変わらずの鉄仮面だけどォ!
「面白そうな展開になりそうだな」