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【弱ペダ】Soak Romp Soap Pomp

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 どこにいたのか、すでにレインジャケットを着た新開がするすると寄って来る。
「ハッ、やるかァ?」
 荒北は既に臨戦態勢と言っても良い。今すぐにも飛び出して行きたいくらいだ。雨が結構な激しさで降っているが、それすらも荒北の興奮を抑えるどころか、更に煽り立てて行く気がする。
「いいね」
 新開の答えに、福富が頷く。
「なんだ、お前たち、こんなところで何をしている」
「あー、先輩たち、お疲れさまでーす」
 そこへ申し合わせたように走って来た東堂と真波が自転車を止めた。
「これから勝負だと? 俺たちは先に一勝負してきたぞ、山でな!」
 はっはっは、と高らかに笑って東堂がはらりと前髪の房を払う。真波がそれに、まぁ、そうですね、と肯定なのか否定なのか判らないコメントをした。
「っぜ、勝負混じりてーンなら、そー言えヨ」
「バカを言うな、荒北。勝負に混じりたいのではない。勝負には、天が三物を与えた、この俺、東堂尽八が居なくては始まらんだろうが。当り前のことだ」
 苛ついたような荒北の言葉に、東堂がふふん、と笑う。
「心配するな、お前も混ぜてやる」
「ハイハイ、ウルセー、ウルセー」
 と荒北が呆れたように、しっしっ、と手を振る。普段は犬猿の仲と言ってもいいくらいに気が合わない。と言うか、気に食わないところだらけだ。それでも、実力はある。レースや勝負では仲間としては頼りになる選手だ。口を開けば憎まれ口を叩き合う――と言うか、荒北が荒っぽく殴りかかるのを、東堂がいなして更に変則的なボディーブローを返してくるような――間柄に、他の誰とも作れない奇妙な信頼関係があるような気がする。
 あんま認めたくねーけどォ。
 荒北は腹の中で苛立たしく思う。だが、その表現出来ない関係も、長くはないが短くもない期間でやっと出来上がって来たものだ。これまで、憎たらしいのに信頼できる仲間は居たことがない。
「では、行くぞ! 芦ノ湖を回って仙石原に抜けて、学校がゴールだ」
 いつの間にか東堂が先頭にするすると進み出て、雨の中だというのになかなか厳しいコース設定をした。傍にまだ止まっていた他の部員たちが、次のインターハイのレギュラーメンバーが勝負をすると知って、どうなるのかと成り行きを見守っている。福富、新開、真波の顔も早く勝負したい、とまだかまだかとギラついた目で合図を待つ。雨の中だというのに、皆の闘気とも言えそうな圧力が膨れ上がった気がする。荒北も東堂の登場に水を差されたが、それでも萎えなかった昂りが、他のメンバーの雰囲気に煽られて今や身体がはち切れそうだ。
「オメーが仕切ンのかヨ! 上等ォ」
「俺が水も滴るイイ男だからと言って、嫉妬は見苦しいぞ、荒北」
「っせ! いーから早く始めろよ!」
 荒北の憎まれ口に、東堂がふふん、と笑って、スタートの合図をした。



「うあー、濡れた!」
「靖友、このまま風呂行こう」
「おー!」
 新開の家に着いた二人は、身体を拭くのもそこそこに、荷物を放り出して浴室に飛び込む。濡れたついでだとそのまま着て帰ってきたジャージを脱ぐのももどかしく、熱いシャワーを奪い合うように浴びた。
「うあー」
 生き返る。
 思わず至福の声が洩れた。
 練習と言うより、突発的に始まった最後のレースで疲労困憊しているところに散々濡れて、思わぬほどに下がった気温で震え上がるほど寒かったのだ。濡れ鼠のまま練習を終えて、クールダウンもそこそこに濡れたまま再び自転車に乗って新開の家へ来た。制服や鞄は、別に持っていっていた課題やら着替えやらをつめたバッグにぎゅうぎゅうに詰め込んで、大きなビニール袋で包んだので無事だ。
 電子音のメロディの後に、「お風呂が沸きました」と機械の合成音が風呂場に響く。
「お、沸いたな」
 ボディソープを落とすのもそこそこに、風呂のふたを開けると、さらに温かい湯気が浴室に立ち込めた。そこへ新開が入浴剤の塊を湯に落とす。ごとん、と重たげな音を立てて湯船の底に沈んだ青い塊は、しゅわ、と泡を吹いて湯の中をするすると滑り始めた。浴槽の湯がうっすらと青味を帯びてくる。
「うん、はいろーぜ」
 入浴剤が溶けきらないうちに新開がどぼん、と湯に入った。
「オイ……」
「ヘーキヘーキ」
 荒北が湯の中を炭酸水のように泡を吹きながら転がる塊を指差しながら躊躇うのに、新開がイタズラでもしているかのような顔で笑う。
「あっそォ……」
 荒北はイマイチ納得しきれずに湯船に入る。ころん、こつん、と音を立てて転がる入浴剤を避けるように身体を沈めた。流石に人間が二人入ると湯がざざぁ、と流れ出て行く。寮の風呂には入浴剤が入っていないし、実家で入るときにはもう入浴剤は溶けきっているのが常だ。だから、こんなタイミングで入っていいのかと思ってしまう。
 ま、いずれは溶けんだから、いーか。
 泡を出す度にくるくるとひっくり返るのを繰り返して小さくなった入浴剤の塊が、ぷかりと湯面に浮かぶ。
 なんか……。
「子供の頃さ、水に溶かす粉のジュース飲んだ? なんかあれみたい」
 すっかり小さくなって滲むように泡を出す入浴剤を、新開が囲うように下から手を添える。
「そーかァ?」
 新開の言葉に思い出を辿ってみるが、荒北が小さい頃にそれを飲んでいたかどうか判らない。飲んだかもしれないけれど、今すぐには思い出せそうになかった。
 それよりもまだ冷えた身体の芯に湯船の暖かさが気持ち良くて、荒北はずるりと湯の中に顎の下まで浸かる。新開家の浴室は大きい。洗い場も大きいが、それ以上に浴槽が大きい。寮の風呂は大人数が一度に入るので大きくて当たり前と言う感覚がある。ので必然と自分の家の風呂場を思い出して比較することになり、実家の風呂だってそんなに狭いワケではないはずなのに、ここと比べてしまうと明るさや設備、面積などからやたらと広くて豪華に思える。
 一番それを実感するのは、浴槽だ。高校生の男子が浴槽の長辺に並ぶように二人で入っても余裕があるし、幅も膝を軽く曲げた程度で入れてしまう。
 身体の力が抜けて、曲げていた膝がこつんと新開の膝に当たった。
「っと」
「ああ、悪い」
 同じように湯に浸かった新開が、隣に並ぶ荒北の方を見て、ふっと優しく笑う。
 自分の方が謝らねばならない、と口を開いたまま新開を見た途端に、荒北は今がどういう状況なのかを思い出した。
「……つに……」
 いきなり心臓が跳ねて、思わぬ憎まれ口が出た。付き合っているなんて関係を除いても、部活や合宿で裸なんて何度も見ている。今更意識するなんておかしな話だ。そう思うのは、ここが普段とは違う場所だからだろうか? そう思い至ると、余計に意識してしまって恥ずかしくなる。
 ナニしてんのォ、俺。
 荒北は落ち着かせようと心の中で自分にツッコミを入れる。
 銭湯とか、合宿所の大浴場とか、並んで入ったことなんて山のよーにあるじゃなァい。脱衣所とか、ロッカーとかで着替える時だってほぼ裸みてーなもんだろ! 大体やることヤッてんだろってンだよ、今更なんだよ!
 互いが裸である状況が特別ではないと言い聞かせれば言い聞かせるほど、なんだか新開の身体を意識してしまう。
「靖友?」
「……ナニィ?」