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マイ・エンプティネス

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 自分を見下ろす双眸。
 いつもの情愛も尊敬も、困惑すら見つけることはできず、ただひたすら固めた冬の闇のような瞳は揺れもしなかった。軽蔑と侮蔑。腹の底に冷えたものを流し込まれるような感覚。恐怖。
 いつ見ても嫌な夢だ。私は堕ちていく心を止められなかった。
 怯えを振り払うように、私は彼の頬に触れようと手を伸ばす。あろうことかこの自分が媚を売り、寵を得ようとするように。若い彼の肌は白く、皺一つなく、温かく血が通っている。しかし、届かない。ふと目を落とすと、両腿が重い鎖で椅子に縛り付けられている。前と同じだ、と思った。
 伸びる私の腕を見ながら、彼は一言も発することなく、心底嫌そうに少し体を捩った。そうして、再びしばらくじっと私を無表情に見つめると、ぱっと身を翻し、足早に歩き去っていく。小柄な後ろ姿は見る間に小さく霞んでいった。
 待て、待ってくれ。
 追い縋り、叫ぶ自分の声。夢だとすぐわかる。現実の自分だったらこれほど不様なことをするはずがないし、彼もそんな私を許すはずがない。
 叫ぶたびに私の腿の上で鎖が太くなり重くなり、緩慢に揺れる。耳障りだ。
 鎖はどんどん太くなり、はじめ私の腿を縛っていただけだったそれは、あっという間に腹を締め付けるほどになり、それでもその成長をやめることなく、とうとう首まで達した。息ができない、という根源的な恐怖に晒されて、体中が強ばる。
 いつもはここで終わる夢が、なぜか終わらなかった。
 突然、耳元に柔らかい吐息を感じ、鎖がグロテスクな鱗で覆われた蛇に変わった。顔は人間。昔の女だ。
 蛇に変わったタルホは赤く濡れた口内を私の顔に寄せて囁いた。いただくわ。
 またお前か、また。
 叫ぼうとする私を嘲笑うように彼女の体は私の喉を締めた。
 黒い髪が頬に触れる。冷たかった。
 次の瞬間、ふっと体を締め付けていた力が弱まった。黒いと思っていた髪がピンクになり、蛇の体は少女の冷たく白い肌に変わり、無表情なアネモネが私の膝の上で静かに血の涙を流していた。レイプを思わせるような実験で精神のバランスを明らかに崩した女の子。私を責めるのでもなく、怒るのでもなく、冷たく凍った瞳を血で濡らす。ふいに力が抜けた。
「お前も行ってしまうか」
行かせるのは自分だと知っていながら、口にせずにはいられない不安。
 アネモネは答えを避けるように顔を伏せた。そして反転。エウレカが顔を上げた。私は確かにアネモネの瞳に走る血の筋が、エウレカの中で円を描いたのを見た。私の望み。エウレカ…分かった、というその言葉を口にしようとして………目が覚めた。


 モニターが鳴っていた。


「なんだね」
「大佐。緊急の報告があります」
モニターには茶色い髪の少年の顔が映っていた。
「入り給え」
「只今入った報告ですが、空軍イズモ艦ユルゲンス大佐以下89名およびカムイ、クリコマが造反および脱走をはかり、ゲッコーステイトに合流しました。そして当艦に同乗していたドミニク・ソレル大尉もユルゲンス艦長と同じく脱走、ゲッコーステイトと合流した模様です」
怖れていた瞬間がとうとう来てしまった。私は呻きを押さえ込んだ。タルホ。お前は何でも私から奪って行くのだな。
 私は少年が求めるようににやりと笑ってみせた。まるで愚かな息子の反抗期に付き合わされている親のように寛容に、鷹揚に、絶対的な余裕を持って。
「役に立たないだけならまだ可愛げもあるが、造反とはな…。やらせておけばいい。今さらなにができる」
少年はその答えに満足そうに微笑んだ。



 森の王を討つ権利を得るために、逃亡奴隷は金枝を折る。己の魂の宿る場所である金枝を失った王は、今、最期の戦いに出る。二度と帰ることのない、王の最期の戦いに。
作品名:マイ・エンプティネス 作家名:芝田