二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

rebirth

INDEX|1ページ/2ページ|

次のページ
 
先程から玄関のインターホンがしつこいほど鳴らされている。
私は昼近くになってやっと起床して、まだベットの中にいた。居留守でやり過ごそうと思ったのに、音は一向に止む気配がない。
ため息を一つつき、あきらめてベットを出ると、まだ引きずる足で玄関に向かった。
悪戯だろうか。家に訪ねてくる知り合いなど思い浮かばない。仕事の関係なら電話で済ませるはずだ。
そんな事を考えながら扉を開けた。

「お、やっぱり居たな」
予想もしていなかった顔に、目を丸くした。
「…ホリス!」
顔を合わせるのは事件の決着がついたあの夜以来だった。
彼とはこのアパートで女性が殺された夜に初めて出会い、共にグリフィンを追った。何かとFBIを煙たがる傾向がある市警察の刑事の中で、立場の違いなど気にせず、事件解決に真摯に取り組む彼を、私は好ましく思っていたのだが、その彼が何故今ここにいるのだろうか。

「それで今日は?事件の事で何かあったのか?」
どうにか来客用に使えそうなカップを探し出し、水っぽいコーヒーを差し出しながらたずねる。
「いや、退院したって聞いてたんでな。たまたま近くを通ったから」
「あ、ああ。そう…か」
仕事のことでないと知って、途端にぎこちなくなってしまう返答に、私は心の中で自嘲した。
リサを失ってから、ずっと他人との接触を避けて来た。
リサを助けるよりもあの男を追いかけること優先し、結果的に彼女を殺した自分が、普通の生活を享受することに耐えられなかった。だから己と世界とを切り離していったのだ。
知人が見舞いに訪ねてきた、こんな出来事にすら戸惑いを感じてしまうほどに。

ホリスはコーヒーを啜りながら、壁に立てかけられている松葉杖に目をやった。
「大変だな。一人で大丈夫なのか?」
「何、怪我自体はもういいんだ。今はリハビリ中だよ」
「もう冷蔵庫の前で倒れてるなんてことはなしにしとけよ」
「さてね。まともになれたかどうかはまだあやしいな。相変らす睡眠薬の世話になってる」
私も向かいに腰をおろした。ホリスの近況を聞き、最近起こった事件の話や、リハビリの経過について話をした。カウンセリングでも、仕事のやり取りでもなく、誰かとの何げない会話も久しぶりだった。
自分で思ったよりも自然にやり取り出来ているのは、買い物も満足に出来なかった時期と比べれば、回復している証拠だろうか?

「まあ顔色は前よりはいい。事件の最中はひどかった。あの男のことでは、お前さん名前が出るだけで目付きが変わって、憑かれたみたいだったからな」
確かに申し開きなど全く出来ないほどひどかっただろう。振り返っても、私の精神状態は普通ではなかった。
デイヴィット・アレン・グリフィン。私の多くを注いで、長年追い続けた男。
奴は私から様々なのものを奪っていった。

全て終わった今でも、奴を夢に見ていた。以前と違い、夢には悪夢と呼ぶほどに激しく感情を揺さぶられるものはなくなっていたが。
同時に見るのもリサを失った夜ではなく、初めて顔を合わせ、二人きりで話したシーンの再生だった。
私は死んだ男とあの日の問答を繰り返している。

「……なあホリス、今になって思うんだ。あいつの言ってた事は正しかったんじゃないかって」
少し迷ってから、私はぽつぽつと口にし出した。
半ばは独白だった。
相手は誰でも良く、ずっと誰にも言えずに来たことを、この時はとにかく吐き出したかったのだと思う。

「あいつが私を見つけたのは私があいつを見ていたからだ。グリフィンは理解されることを望んでいた。狂おしいほどの望みを、私は初めから知っていた。連続殺人犯の捜査は捜査官としての仕事だ。だけどロスで、あそこまで私が捜査にのめり込んでいたのは何故だ?」
あの男は言ったのだ。

『俺達は互いに必要としてる』

きっとリサを失う以前から、私は孤独だった。周囲と馴染めず、何にも満たされず、心の中に空疎なものを抱えていた。ただ一人、この相手だと思う伴侶を得ていた時でも。
あの男と自分は、孤独を分かち合っていたのだ。 

「ああ、奴に言われた通りさ。追いかけるのは満たされていた。結局私も奴を求めていたんじゃないのか。私がどこかで必要としていたから。あいつは…」
「あのなあ、キャンベル」
黙って聞いていたホリスが、突然話をさえぎった。イラついたように、がりがりと頭の後ろをかく。
「暴力亭主の連れ合いみたいなこと言うんじゃない。お前は自分があんな事件を望んでたと思うのか。お前さんみたいなFBIの連中は相手をしたこたあないかも知れんが、こっちは似たような話は年中聞いててうんざりだ。とっとと別れればいいのにぐずぐずと。不愉快でしかないモンを後生大事にいつまでも捨てない気持ちは俺には分らんね」
ホリスはきっぱりと、切って捨てる口調で言った。
「お前と何の関係もないクソみたいな変態野郎が一人死んだだけだ。つまらんことを考えないようにすれば、三日で忘れちまうさ」

まだ友人と呼べる程親しくもない知り合いを、不器用に、だからお前は大丈夫なのだと言い切ってくれる彼の人柄に私は微笑んだ。
「そういうものか」
「そういうもんだ。俺はお前さんより長く生きてる。年長者の意見は聞いておけ」
ホリスはコーヒーを仰いで残りを一気に飲み干した。カップを置いて、私の顔を見る。
「お前はあんな犯罪者のことじゃなくて、目の前の、もっと考えるべきことを考えろ」
「え…?」
「カウンセラーの彼女だよ。随分親しそうに見えたがどうなんだ。あれから会ってるのか」
「いや…まだ会ってはいない…」
いきなりポリーの話が出て、何となく答えづらくて歯切れが悪くなる。
「電話は」
「してない」
「どうしてだ」
何度かしようとしたが、一度目は捕まらず、以降は電話を前にしながら、ダイヤルを回すことすら出来ないでいる。

「彼女にどんな顔をして会えばいいのか、分からないんだ…」
「確かにあんな目にあった後じゃな。しかしキャンベル、俺は彼女と少し話しただけだが、少なくとも事件に巻き込まれたのをお前のせいだと言うような人間には見えなかった」
ホリスが正しい。彼女はきっと私を責めたりしない。
だからこそ気持ちの整理が付かない自分を情けなく思った。
それにもしも、もしも彼女にそのつもりがなかったとしても、その目の中に怯えの色を見てしまったなら。

「言ったろキャンベル、難しいことを考えるな」
ホリスの言葉に私は苦笑した。
「私はそんなに顔に出るか」
「いいや?お前は大体小難しい顔してるから、言えば当たる。もう少し気楽に行けよ」
一瞬きょとんとしてしまい、久々に心から可笑しくなって、声を出して笑った。
作品名:rebirth 作家名:あお