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MIDNIGHT ――闇黒にもがく1

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 セイバーが凛を促し、衛宮邸を出る。
「セイバー、あの、どういうこと?」
「彼は、聖杯戦争のことは知りません。ですが、我々が勝手に間借りしていたことがバレてしまい、マスターが急場しのぎに口から出まかせを……」
「え? だ、大丈夫だったの?」
「ええ。マスターはあれこれと言葉巧みにシロウを丸め込み、私のことは、彼の養父の古い知り合いの使い魔だという話で納得しています。彼も多くを知るわけではないのですが、養父が魔術師であることは知っていましたので、サーヴァントだと言ってもあまり驚かれませんでした」
「あ、そういうことなの……」
「はい。あそこを拠点にするため、やむを得ず、という感じでした。巻き込むことが本意ではなかったマスターは、彼の守護をするために、私には常に姿を晒しておいた方がいいと言って……。あとは、私がうまく言いくるめておきますので、安心してください」
 嘘も方便だ、と青年に教えられた通り、セイバーは凛に説明する。
「そう……なんだ……」
 凛の表情が曇った。今の彼女には青年の出鱈目な話など耳に入っていないようで、セイバーは少し胸を撫でおろす。
「アーチャーのことは、止められず……、その、申し訳なく思います」
「ううん。あいつには、あいつの事情なりなんなりがあったんでしょ……。仕方がないんじゃないかしら」
 凛は気丈に言い切った。
「ずいぶん割り切るのが早いのですね。もっと私に怒りをぶつけてくるのかと思っていましたが……?」
「だって私、魔術師だもの。感情で動いたりはしないわ……。それに……」
「それに? なんです?」
「あの、未来から来た衛宮くんが言ってたでしょ? アーチャーに“俺を殺しに来たんだろう”って。ずっと引っかかってたの。そんなの口だけで実際できるはずがないって思いたかった。けれど、アーチャーは……、本気だったのね……」
 セイバーは何も言葉が浮かばなかった。アーチャーを説得できなかった自身の不甲斐なさが胸を苛む。
「契約をね、続けたかったの。アーチャーは座に還ると、守護者って運命をやり続けなきゃならないでしょ? だから、私の命がある限りは、アーチャーを繋ぎ止めておきたいなって、思っていたの」
「……すみません、私が、」
「だから、セイバーのせいじゃないってば」
 明るく笑う凛は、ここでいいわ、と交差点で別れを告げた。
 その姿が見えなくなるまで見送り、セイバーは一人、来た道を戻る。
 瓦屋根の塀が見え、顔を上げると、門の側に人影がある。
「ぁ……」
「セイバー、おかえりー」
 手を振る少年に、胸がじんわりと温かくなった。
「シロウ! ただいま戻りました!」
 知らず駆け出して、夜風で冷えてしまった士郎の手を握る。
「ずっと待っていたのですか?」
「え? うん。だって、セイバーは女の子だろ?」
 きょとん、としていたセイバーは、やがて笑いだす。
「セイバー?」
「ふふ……、マスターと、同じことを言うのですね!」
「はは、だって、あいつ、俺だからさ」
「そうでした」
 並んで門をくぐる。
 あと幾日、こうして過ごせるのだろうと、セイバーは少しだけ胸の苦しさとともに思っていた。


MIDNIGHT――闇黒にもがく 1  了(2018/9/17)