オクトスクイド(3)
そしてあなたもなかなかの名演技だったわよ。とサキ。今の先輩の真似も似てるでしょう?とミア。
「噂通りの子でしたわね。私も最後らへんは彼女のペースに持っていかれてましたの。」
「ヤナギモ良クヤルワ。コンナ大物ヲ短期間デ育ルノダカラ。」
せっかく育てたであろう子をこんなに簡単に奪ってしまって少し申し訳ないわね。と少し罪悪感にかられたような表情をするサキの隣でミアは頷くように首を縦に振った。
「・・・・あの子、気付いていましたわね。サキ総隊長の事。」
「・・・ミタイネ。ジャナキャアンナ質問出来ナイワ。」
といいサキはもう一口飲んだ。
「・・・マァ、イカガ嫌イナノハ本当ダシ、昔酷イ事ヲサレタノモ本当ダケド。アノ子ニハ何モ関係ナイワ。」
ティーカップを置き、空でも見上げるかのように天井を見つめる。
「ソレト今更、イカヲ憎ンダッテ仕方ナイジャナイ?」
「・・・そうですわね。」
「仮ニ、彼女ガイカノ姿ヲシテイテモ、彼女ガ大切ナ同胞デアルコトニハ変ワリナイワ。イカダロウガ、タコダロウガネ。」
「・・・・・種族は関係ないってことですわね。じゃあサキ総隊長・・・いや、サキ先輩。あいつも・・いえ、“彼”もその同胞にはいるのですか?」
・・・・・ピクッ。
その言葉でサキの動きが一瞬止まった。
「いえ、今のはなかった事にしていただければ嬉しいですわ。わたくしとしたことが、野暮な質問をしてしまいました。」
「・・・・・。」
「ところで、どうしてカンナちゃんを精鋭にいれたんですの?確かに能力は優れていますけど少し早すぎません?」
ミアの質問に対してサキは暫く間を置きこう答えた。
「・・・・彼女ハイカ語モ流暢ダワ。イカノ情報を知ッテルダロウシ・・・。私ナラバ彼女ニ何カアッテモ守ッテアゲラレル。今ノカンナニ必要ナノハ彼女ヲ彼女トシテ受ケ入レテクレル人ガ一人デモ増エル事ダワ。」
と言ってサキは額に手を当てた。
確かにその通りである。サキやミアのような軍のトップが味方に付いていればカンナ自身も気が楽だろう。
しかし、ミアはその動作を見てサキが嘘をついていることが分かった。サキは嘘をつくとき額に手を置く癖があるのだ。
「・・・・嘘ですわ。サキ先輩、嘘をついてますわ。大体、イカ語なら先輩もわたくしも話せます。わたくしにはわかりますのよ。一体何年お仕えしてると思ってますの。そんなに良心が痛んだようなお顔で嘘なんてつかれないで。理由はそれだけではないでしょう?」
・・・・・サキは黙り込み、もう一口飲んだ。
「・・・モシ、ミアガ考エテイル別ノ理由ダッタラ、アナタハキット私ヲ嫌イニナルデショウネ。」
サキが現に・・。と言おうとすると、ミアがその言葉をかき消す。
「ええ。嫌いになりますわ。心から。でも、サキ先輩。あなたじゃなくて先輩をそうさせてしまったあいつらを。」
ミアは悔しそうに拳を握る。
「でも、わたくしは一生先輩についていこうと決めたのです。この考えは曲げるつもりはありませんわ。」
たとえそれがイバラの道でも、地獄でも。
「ミア・・。アリガトウ。」
「当り前ですわ。私はサキ先輩を・・サキ総隊長をサポートする副隊長ですから。」
ミアにつらい思いをさせてしまっているのは私だ。でもここは謝るより、感謝の気持ちを言うべきだと感じた。
「チョット喉ガ乾チャッタ。申シ訳ナイノダケド、モウ一杯淹レテモラッテイイカシラ?」
「はい。ちょっとお待ちくださいね。」
そういってミアが席を立った。
サキはミアが席を離れているとき、ずっと考えていた。
カンナ。私は2年間、あなたをずっと探し求めていた。
あなたなら二つをつなぐ架け橋になれるかもしれない。
きっと・・・。
「サキ先輩?入れましたわよ?」
「・・!!・・・アリガトウ。」
「・・・今思い出したんですけど、先輩、カンナちゃんに伝えなきゃいけない任務の事、さっきカンナちゃんに言いました?」
「アッ・・・・・。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・彼女ナラドウニカナルト思ッテ言ワナカッタノ・・・。」
「そうなんですの・・・。」
「ウン・・・。」
(先輩、忘れてたんだ…。)
これが終わったらあとで伝えに行こう。一週間最後の仕事が終わっても、まだまだミアは休息につくことが出来なかった。
作品名:オクトスクイド(3) 作家名:Red lily