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MIDNIGHT ――闇黒にもがく2

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「実は楽しみにしてるくせにぃ?」
 ムッとするダ・ヴィンチに、立香はニヤニヤと人の悪い笑みを浮かべる。
「それは、そうだねぇ。というか、私は中身よりも、これの来歴が知りたいね」
 機械的な球体を、コンコン、とノックし、天才は興味津々の様子だ。
「何かはわからないけど、……つまるところ、エイリアンじゃあないのかー」
 残念だなぁ、と立香がこぼす。
「まあまあ、そう言いなさんなって。もしかすると、掘り出し物かもしれないじゃないか」
 そう言って天才は立香を宥めた。

「稼働に十分な電力が溜まったようです。動きそうですよ」
 スタッフが報告すれば、ダ・ヴィンチは緑に点灯した五センチほどの四角いパネルに指先を近づける。
「よし、行くよー。では、オープン、ザ、」
 ぴたり、とダ・ヴィンチが動きを止めた。
「どしたの、ダ・ヴィンチちゃん?」
「ん? んー…………なんだろう? セサミ、かな? ゴマ、かなぁ?」
「え……」
 その場にいた一同、目を据わらせる。
「いいから、ダ・ヴィンチちゃん、早く! 開けようよ!」
 焦れた立香が急かすが、
「いやいや、立香くん、これは重要なことだよ、」
 ダ・ヴィンチは引き下がらない。
「もう開けちゃうからね!」
「あ、ちょっと、立香くん!」
 ダ・ヴィンチの説明を聞かず、その制止も聞かず、立香がパネルに触れると、床にスレスレの部分が、ギギギ、と隙間を開け、ブシュ、と空気が吸い込まれ、静かに吐き出される。
 ギ、ギ、ギ、と軋みながら揺れて、立香たちが少し下がったと同時、ばくん、と蓋が開き、天井に、ゴッ、と当たった。
「あ……」
「え……?」
「おやおや……」
 あちこちから戸惑いの声が上がる。
 一様にみなの頭に浮かんだのは、誰? という疑問だ。
 球体の中にいるのは、エイリアンでもなく、スペシャルな英霊でもなく、未知との遭遇でもなく……、人間。
 ただ、その姿はあまりにも異様であることは間違いない。
 誰もが息苦しさに固唾を飲み、静寂に包まれる中、
「衛宮……士郎……」
 呟く声は、取り巻く人だかりの後方から。
「え? エミヤの知ってる人?」
 その声に、立香が振り返って訊いたが、エミヤは呆然としていて返答しない。
 しようがないね、とダ・ヴィンチが一歩前へ進み出る。
「とにもかくにも、ようこそ、カルデアへ」
 ダ・ヴィンチの声に対する反応は、皆無だった。



□■□Interlude COLDCAGE・・闇黒□■□

 瞼を上げようとしたが、叶わなかった。
 何も見えないはずだというのに、薄っすらと人の動きがわかる。
 まるで、薄目を開けているような感じだ。
 視覚だけではない、耳も聞こえる、温度も感じることができる。
 “いったい、どういう……”
 呟こうとしたが、声にはならなかった。
 口が動いていないからだ。
 口どころか、目も、手も、足も、身体が全く動かない。
 だというのに感覚がある。
 “どうしてだろう……?”
 自身がどういう状況にいるのかが全く把握できない。
 封印とは、こういうものなのか、と考える。
 死ではなく、拘束ではなく、たった一人、感覚だけを与えられて、すべてから隔絶される。
 “こんなのは……………………気が……狂う……”
 ぼんやりと思う。
 思考する力が薄れているのか、それとも、意識が落ちかけているのか、それ以上、何も考えられなくなった。
 ただ、
 “寒い……”
 与えられるだけの感覚は、とても寒かった。


MIDNIGHT――闇黒にもがく 2  了(2018/9/22)