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Never end.

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Never end


「カミーユ!!」
アウドムラのブリッジで、ハヤトと今後の進路について話し合っていたアムロが、突然窓の外に向かって叫んだ。
「どうした!?アムロ」
ハヤトの問い掛けに答えることなく、アムロはブリッジの窓に駆け寄り、宇宙に向かって手を伸ばす。
「ダメだ!シロッコ!カミーユを連れて行くな!」
何かを掴もうと、必死に手を伸ばすアムロを、ハヤトを始め、ブリッジのクルー達が驚いた表情を浮かべて見つめる。
そして、しばらくすると、アムロがズルズルと床に座り込んで頭抱える。
「アムロ!大丈夫か?」
心配気に顔を覗き込むハヤトを、アムロが辛そうな瞳で見上げる。
「…ハヤト…カミーユが…カミーユが…」
縋るようにハヤトの袖を掴み、アムロが震える声で呟く。

遠い宇宙の向こうから、カミーユの慟哭が聞こえた。
そして、息絶える直前に呪いの言葉を吐く、シロッコの瞳が見えた。
『カミーユ・ビダン!貴様も連れて行く!』
強烈なシロッコの思念が、カミーユの心を身体から引き剥がした。
それを必死に繋ぎとめようと、アムロは思念体となってカミーユ心を掴んだ。
しかし、シロッコの強烈な思念と、その強い力に一瞬怯んだ隙に、カミーユの心を殆ど連れていかれてしまった。
僅かに手のひらに残った心を、アムロはどうにかカミーユの身体に戻す。
そして、殆ど抜け殻となってしまったカミーユの身体を抱きしめた。
「カミーユ…」

意識を自身の身体に戻したアムロは、唇を噛み締めながら、ハヤトに告げる。
「ハヤト…。カミーユが…カミーユの心が…シロッコに…連れていかれた…。俺…守れなかった…」
シロッコの強烈な思念に、圧倒された。
自分の弱さが、カミーユを救えなかったのだ。
そして思う。
あの時、シャアに一緒に宇宙へ上がれと言われた時、自分はシャアの手をとって宇宙に上るべきだったのだ。
何故ならあの時、予感があった。
このままでは、シャアもカミーユも宇宙の悪意に飲み込まれてしまうと…。
それなのに弱い自分は、あの手を取れなかった。
宇宙に漂うララァの魂や、自分が殺した人々の魂に向き合う勇気が無かったのだ。


「大丈夫か?アムロ」
床に座り込むアムロに、ハヤトが呼び掛ける。
何が起こったのかは分からないが、ハヤトは、アムロが何かを感じ、透視(み)たのだということは、過去の経験から理解できた。
“ニュータイプ”という、未知の能力を持った友人。
昔は自分が想いを寄せるフラウが、アムロに世話を焼くのが嫌だった。
勝手にライバル視して、嫉妬心から、随分冷たい態度を取ってしまった。
あの時、アムロがどれだけのものを、この肩に背負い、戦っていたのかも分かろうとせずに…。
本当に子供だったのだ。
大人になり、ようやく周りが見えるようになって初めて、アムロの苦悩や辛さを理解できた。
それは、当時の自分たちと同じ年頃のニュータイプの少年、カミーユ・ビダンと出会った事も大きかっただろう。
彼もまた、多くの苦悩を抱えていたから…。

「カミーユがシロッコに連れて行かれたって…。どういう事だ?」
アムロに尋ねると、辛い表情を浮かべながらも答えてくれる。
「カミーユが…シロッコを倒した…。でも、奴の思念がカミーユの心を道連れにして…」
アムロは一旦言葉を止め、唇を噛みしめる。
「…俺は…守りきれなかった…俺の弱い心がシロッコに負けたんだ…」
絞り出すように話すアムロに、カミーユがシロッコを倒した事であろう事は理解出来た。
そして、カミーユがなんらかのダメージを受けた事も。
ハヤトは、こんなに離れた場所から、そんな事を感じ取るアムロに驚きながらも、それを素直に受け入れる。
昔の自分では到底受け入れられなかったが、今は素直に受け止められた。
「分かった、アーガマと連絡が取れるか試してみよう」
アムロの髪をクシャリと撫ぜて立ち上がる。
「ああ、頼む…」


◇◇◇


結局、アーガマと連絡が取れたのは、数週間経ってからだった。
そして、アーガマが地球に降下してくるという情報を得て、アウドムラはアーガマと合流すべく、進路を北に向けた。

アーガマと合流したハヤトとアムロは、ブライトに会うべく、アーガマの艦橋に上がった。
そこには、ブライトと、見知らぬ少年達の姿があった。
しかし、本来そこにいるべきクワトロ大尉、アポリー中尉、リカルド中尉、エマ中尉…そしてカツ、多くの仲間が姿を消していた。
その事実に、あの戦闘がどれだけ熾烈を極めたかを思い知る。
あれだけの腕を持つ者達が命を失う程の激戦だったのだ…。
「久しぶりだな、ハヤト、アムロ」
嬉しそうに握手を求めるブライトは、少しやつれたように見える。
「ああ、ブライト」
ハヤトがブライトと握手を交わす。
そして、ブライトが次にアムロへと手を差し出すがアムロの反応が無い。
アムロを見ると、その視線は少年達に、その中でもジュドーへと向けられていた。
「アムロ?」
ブライトの声に反応して、アムロは差し出された手を取る。
「ブライト…」
続けて何かを言おうとするが、少し思案して、結局アムロの口からは、それ以上の言葉は紡がれなかった。
そんなアムロの心情を察して、ブライトがそっと肩を叩く。
「後でゆっくり話そう…」
「…ああ…すまない…」

ビーチャやモンド達は、元ホワイトベースクルーのハヤトと、一年戦争の英雄、アムロ・レイに興味津々といった様子で二人を見つめていた。
「あれがアムロ・レイ?なんかイメージと違うな」
「どんなイメージだよ」
「えー、なんていうか、もっと自信満々で、強そうなオーラを放ってるイメージ?」
「ははは、確かにそんなイメージは無いな!」
「それに思ったよりも小柄な人だな。本当にあの人が連邦の白い悪魔なのか?」
「なんかの間違いだろ」
口々に勝手な事を言い合う。
しかし、ジュドーだけはその会話に入らず、じっとアムロを見つめる。
そして、それに応えるようにアムロもジュドーに視線を向けた。
『なんだ?なんかゾワゾワする。自分の内側をなぞられる様な…見透かされている様な…』
ジュドーはアムロを見てそんな事を思う。
そして、それはアムロも同じだった。
『俺の中に触れてくる?カミーユとはまた違う…真っ直ぐな感覚…』
二人は互いに何かを感じながら、視線だけを合わせる。
『『ああ…繋がる…』』
そう直感した瞬間、艦橋に子供の声が響き渡り、その感覚が途切れた。
「嫌ったら嫌!」
「プル!」
「嫌!検査なんか受けない!!」
「プル!待ちなさい!」
叫びながら駆け込んできたのは、ネオ・ジオンの強化人間、エルピー・プルだった。
後ろから追いかけて来る、看護師のハンナから逃げる様に前も見ずに駆け込んで来た。
そして、ドンっと何かにぶつかる。
「きゃっ!」
勢いで転びそうになったプルの身体を、大人の大きな手が支える。それはアムロだった。
「…大丈夫かい?」
アムロはプルを優しく受け止めて、その顔を覗き込む。
プルも自分を抱きとめてくれたアムロを見上げ、目を見開いて叫ぶ。
「あ!」
そんなプルにアムロも小さく声を上げる。
「あ…君…」
しかし、プルはアムロのその言葉を遮るようにして突然アムロに抱きつく。
作品名:Never end. 作家名:koyuho