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第2章・2話『敵、因縁と』

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東方星写怪異録 第2章・2話

―篝宮市―庁区―稲井組警ら事務所―
澪薗に事務所まで案内され、奥の一室へ通されたしとねと玲は既に居た2人を見て。
しとね「やっぱり、呼ばれないわけは無いですよね」
玲「まあ遵は分かるのだけど……雪はどうして、と言いたいわ」
玲の言葉に雪と呼ばれた少女は頬を膨らませながら。
雪「失礼しちゃうなーこれでも悠遠の書無くても多少は戦えるんだよ?……まあ、集団は厳しいけどね」
そう言いながら、月詠雪は魔導書を喚び出し玲へ簡単な魔法を披露する。
遵「ともかく、しとねは依頼帰りに……か?」
わざとらしく咳き込み、少年の岡田遵はしとねへ問い掛ける。
しとね「うん、本島まで少しね」
雪「しとね、お帰りー」
しとね「ただいま、雪」
ガバッとしとねの胸に飛び込んだ雪をしとねはポンポンとその頭を軽く叩く。
玲「……本島の方まで依頼があるの?」
しとね「まあ、近場だったら私が……内容によっては守央が行くんですけどね」
遵「でも守央さん、片腕……」
しとね「まあ、本島にも協力者居るし守央だけでって事は無いと思う」
澪薗「前は私が手伝いでおったからな今では義手を付けておろう?」
澪薗の声にしとね達が振り返ると、白衣を着た男性と一緒に部屋へ入ってくる所だった。
その男性はおずおずと口を開き。
研究員「よ、宜しければ椅子がありますし……立っておられるのも何ですしお座り下さい」
そう言われ、しとね達は顔を見合わせ近くの椅子に座る。
澪薗は入口近くの壁に背を預け腕を組む。
研究員は部屋を薄暗くするとパソコンを操作し、部屋のモニターに画像を映し出しながら。
研究員「そ、それではですね、布目さんから聞かれたと思いますが今回お呼びしたのは────」
雪「はーい、黒い泥の事ですよね?」
雪が研究員の言葉に手を挙げながら答える。
遵と玲はため息をつき、しとねは苦笑いしながら研究員に。
しとね「続けて下さって構いませんよ」
研究員「は、はいそうです泥のようで泥ではない何か……本島ではこれを『虚喰』(うつろぐい)と呼んでいるそうです」
虚喰……一見黒い泥だらけな人形のように見えるが、ダイラタント流体と同じ性質を持ち、ある一定までの衝撃なら吸収するという事。
また、視認されるとゆっくり近付き、泥を対象に纏わりつかせ捕食するようで篝宮島及び本島でも現在何十人も行方不明となっている事。
対抗する為の手段として、約8割の損壊率を与えれるモノ、専用の撃退装置・虚喰の細胞を組み込んだ専門武具・重度の汚染反応兵器が最も有効として挙げられる事。
何より、発生に至った原因がこの8年間全くと言っていい程解明されていない事。
研究員「────と言うのが今までで、虚喰について解析されている事です……えっと、何か有りますか?」
玲「……守央が持たせたコレは?」
そう言いながら玲は腕輪を研究員に見せる。
研究員「いわゆる魔除けの類い……ですねこの島に住む人達は基本的に皆さん付けていますし」
雪「家の壁とかにも色んな形で置かれてるんだよー」
遵「それでも大型には効き目が薄いから、本当に個人用だけど」
研究員の言葉に雪と遵が続けて話す。
玲「私達が虚喰を倒せるのは?」
しとね「その腕輪を持っていたからですね、奴らには自己再生の阻害になるみたいで……まあ、そんなのをものともしない人も居ますが」
澪薗「……聞こえておるぞ」
玲「確かに……魔除け要らずな人ね」
澪薗「話しはまだ終わっては居らんぞ」
4人「?」
澪薗に促され、研究員が手元のパソコンを操作し新しい画像をモニターに映し出す。
研究員「これが数週間前に確認された虚喰の画像です……望遠カメラの物なので画像が荒いですが」
その画像に写っていたのは────人そのものとも思える両腕両脚がある虚喰の姿だった。
研究員「これまでの個体の中にも腕や脚がある虚喰や異常発達したモノもいました……それらは総じて変異種と定められていたのですが」
遵「確かに片腕がある虚喰と遭遇する事も最近は多かったですが……両手両足は流石に」
遵の言葉に研究員は頷きながら。
研究員「これが空に浮かぶ星の影響によるものでは無いかと思われます」
玲「つまりは今後遭遇する事が増えるのね?」
研究員「間違いないかと」
雪「手足があるだけで何か変わるものなの?」
研究員「……遭遇情報が無く、今までの虚喰と同一視して良いのかが不明瞭な状態です」
しとね「今までのより凶暴性があると考えるのが、今の所最善策なのかも知れませんね」
研究員「一応……これらは特異性個体と名付けられ、今現在研究・調査の為に捕獲作戦が行われているのですが────」
研究員の言葉を遮るかのように、部屋にあった電話が鳴る。
それを澪薗が取り、2言3言返事をし受話器を戻す。
しとね「要請、ですか」
澪薗「ああ、掃除してくる……来るか?」
そう聞かれたしとね達は顔を見合わせて頷き、澪薗を見ると。
しとね「行きますよ、当然」
遵「まあ、待ってても仕方ないですから」
雪「行かない理由もないもんね」
玲「人数が多いぶん負担は軽くなるでしょ?」
それぞれの言葉を聞いた澪薗は微笑しながら踵を返して部屋を出ていく。
4人はその後ろについて部屋を出ていく。

―篝宮市―工業区―
工業区の一角に位置する工場の入口に車を停め、澪薗達は車から降りる。
澪薗「さてお前達、此処からは徒歩だ何処から奴が来るか分からんからな見つけ次第葬れ……避難勧告は出ているし上空の偵察機にも人影は無いそうだ」
雪「ここまで静まり返った工場ってのも、幻想的だーこのまま簡単に討伐出来るとなお良し!なんだけどねー」
遵「……不気味な事この上ない」
玲「口は災いの元よ、2人共」
しとね「────」
雪・遵・玲の3人が話す中、しとねだけが虚ろに工場を見上げたまま一言も話さなかった。
澪薗「……?おい、しと────」
ね、と澪薗が声を掛ける途中しとねの口が声を出さず動く。
────会いに来る、と
その瞬間、ゴボボボボッという音と共に配管の繋ぎ目から虚喰が這いずり出てくる。
雪「うっわぁー」
玲「何でもアリって感じね」
遵「て、呑気にしてる場合じゃ無いだろ!」
澪薗「おい、しとね……ちっ、アイツ何して!?」
視線の先に居たしとねは目の前に沸いた虚喰が大きく口を開いて迫るのをただ呆然と見ていた。
澪薗は少しだけ前に屈むと、たったの1歩で虚喰に迫り握り締めた拳を振り抜く。
ボッと音がし、虚喰に大穴が空くとそのまま空気に溶けて消える。
澪薗「しとね!」
しとね「え……がっ、ゴホッゴホッ」
振り向いた澪薗は勢いのまましとねの鳩尾に拳を叩き込む、その衝撃にしとねは耐え切れず膝を着き身体をくの字にして咳き込む。
雪「あ、あわわ」
玲「確かにあれで人と呼ぶには躊躇するわね」
遵「……ノーコメントで」
澪薗は静かにしとねに近づこうと踏み出そうとした────が。
ボゴォッとしとねの真後ろの地面が爆ぜ、虚喰が姿を現す。
澪薗「ちっ!」
しとね「しまっ────」
しとねは咄嗟に銃を向けて撃つが弾は虚喰に穴を開けるどころかそのまま取り込まれていく。
虚喰はその巨体をしとねに向かって倒れ込む。
しとね「くっ」
バチャッと虚喰の身体が地面にぶつかる音。