ディアブロスプリキュア!
「フフフフフフ。お初にお目にかかる、魔王ヴァンデイン・ベリアルの御令嬢。わが名はエレミア。貴様に個人的な恨みはない。が、この世界の平和のために悪魔はこの場で消えてもらう」
そう言うと、エレミアは首にぶら下げていた十字架を手に取った。そして近くに駐車してあった放置車両に目をつけ、十字架に力を込める。
「平和の騎士よ、生まれよ!! ピースフル!!」
十字架から放たれた神々しい光が放置車両に向けられる。十字架の光を帯びた瞬間、車は著しく形を変え、騎士を思わせる姿へと変貌して、まるで産声とも呼べる雄叫びをあげた。
『ピースフル!!』
洗礼教会に仕える幹部 は、十字架の光を周囲の無機物に放射させることで、物質を洗礼教会に尽くす平和の騎士【ピースフル】へと変える。エレミアも例外ではなく、その力を行使した。今回彼が生み出したのは、車の姿を模った騎士《くるまピースフル》だ。
「フフフフ。さぁ、大人しく降伏しろ。悪魔など所詮人間を堕落させる害悪でしかない。貴様らが存在し得る限り、この世界に真の平和は訪れぬ。この世界から災いが無くならない元凶は、その影で人間を食い物にしようとする悪魔がいるため。ならば、主に代わり私が正義の鉄槌を下し悪魔を排除するまで!!」
エレミアにとって悪魔を駆逐する正当な理由は、悪魔こそが人間を堕落させる根源であり、それによって災いが起こるからだ。したがって、彼はここでリリスを倒すことに何の躊躇も抱いていない。
そんな彼の話を聞いたリリスはと言うと……
「ずいぶんな物言いをつけられたものだわ。何をもって自分たちが正しく、優れているとでも思っているのかしらね」
「なんだと?」
エレミアは思わず聞き返した。リリスはこの状況に臆するどころか、口角を上げて笑っている。それも勝てる見込みがあるような不敵な笑みを抱いて。
「待っていたのよ。この十年間……ずっとずっとこの機会を待っていたわ。私から大事なものを根こそぎ奪っていったあんたたちを八つ裂きにするこのときを」
「リリス様ぁ!!」
そこへ、チラシ配りをしていたレイが駆けつけてきた。レイは人間の姿から一変、本来の使い魔としての姿――リリスの肩に乗るくらいの小竜へと変身した。
「遅いわよ、レイ」
「申し訳ありません。……むむっ、こやつは先ほどの。やはり洗礼教会の手の者だったのか!!」
「千載一遇のときよ。レイ、今こそ十年分のわだかまりを晴らしてやりましょう」
そう言った直後、リリスは悪魔の翼を模した手のひらサイズの指輪を右手中指へと装着した。
これを合図にレイが高らかに声をあげる。
「刮目せよ!! この歴史的瞬間を!!」
「な……なにをするつもりなのだ!?」
エレミアとピースフルが目を見張る中、リリスは全身の魔力を指輪に注ぎ込み、力を発動させる。
「ダークネスパワー!! プリキュア、ブラッドチャージ!!」
刹那、指輪に紅色の光が灯った。そして彼女の全身を同じ色のオーラが包み込む。
「こ、これは……!?」
エレミアがその光景に目を疑う中、光の中ではリリスに著しい変化が起こり始めていた。
黒かったミディアムヘアはするすると輝かしい紅色の長髪へと伸び、根元で一つ縛りにしたポニーテールへと様変わる。加えて、左側には悪魔の翼を模した髪飾りをつけて、黒とマゼンタを基調としたバトルコスチュームを身に纏う。そして、すらりと伸びた足には深い黒色をした長いソックスとショートブーツを履き、胸に黒のコウモリリボンを添えて、肩を覆うほどのマントを掛けていた。
仕上げに、薄い紅色をしたコウモリ形のイヤリングを身につけると――背中から自らの誇りとその象徴でもある悪魔の翼を生やし、空中で一回転を決めてから、翼で柔らかに体を包み込む。
「独善滅ぼす暗黒の力! キュアベリアル!」
変身後の決め台詞もばっちり決まった。
そんな麗しい少女の変身を目の当たりにしたエレミアは、変身したリリスの姿に心底目を疑った。
「貴様……その姿は!?」
「あら? 何か変かしら?」
変身から口上までばっちり決めたキュアベリアルは、どこかに不備があったのかと、腕を組み、頬に指を当てて考える振りをする。
だが、エレミアはありえないものを目にした事実を受け入れられないように叫んだ。
「伝説の戦士……プリキュア!! その力をなぜ貴様如き悪魔が使えるのだ!? 悪魔風情がどうして!!」
「御託はいいわ。さっさと始めましょう……今宵の祝賀祭(サトゥルナリア)を」
作品名:ディアブロスプリキュア! 作家名:重要大事