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ディアブロスプリキュア!

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同時刻―――
黒薔薇町 スーパーくろばら

 夕暮れ時のスーパーは、子どもを連れた母親、仕事終わりのサラリーマン――様々な買い物客であふれていた。買い物かごを腕に下げ、品物を手に取るリリスもまたその一人だ。
「さてと……今日の献立どうしようかしら?」
「あらリリスちゃん」
 数ある品物の中から今日の献立を頭の中で考えていた折、後ろから声をかけられた。
 振り返ると、温和な雰囲気を醸し出す中年女性が自分と同じく買い物かごを引っ提げていた。リリスの名を知る女性は隣近所に住む佐藤婦人だった。
「佐藤さん。こんにちは」
顔見知りで普段から何かと世話を焼いてくれる彼女はリリスにとって人間界で数少ない信頼できる人間だ。ペコリと律儀にお辞儀をするリリスを見て、佐藤は破顔一笑し「こんにちは」と返事をする。
「リリスちゃんもお夕飯の買い出しかい?」
「佐藤さんもこれからなんですか?」
「ちょうどパート帰りなものでね。食べ盛りな子どもと亭主のためにもなんだかんだあたしが作ってやらないとならないから」
リリスは頭の中で子どもと旦那さんの顔はどんなものだったかと思い出しながら、「大変ですね」と相づちを打つ。
「あたしなんか大したことないさ。むしろ、リリスちゃんの方が大変よ。ほら……いつもいる男の人……レイさん? こういっちゃなんだけど、あの人……ちょーっとイッちゃってるわよね?」
 バツの悪そうにリリスの耳元でレイについて率直な心象を口にする佐藤。これにはリリスも苦笑いを浮かべる。
「ねぇリリスちゃん、あたしは今でも不思議なんだけどさ。どうしてあんな人と一緒に住んでるの? あんたがこの黒薔薇町へ越してきたときからずっと気になってたんだよ」
「えーっと……話をすればいろいろ長くなるんですけど、家の事情でレイとはずっと一緒なんです。佐藤さんの仰ってるようにちょっとボケてますけど、根は悪い人じゃないんです」
「そう? まぁリリスちゃんが言うんだったら心配いらないと思うけどさ。なにかあった時はいつでもあたしに相談しなさいよ。年頃の娘と男の二人暮らしだ。もしもの時はあたしがきっちり成敗してあげるよ!」
「大丈夫ですよ佐藤さん。そんなことは天地が裂けてもありませんから」
フランクに話をしている割にはずいぶんと生々しい会話だと当人同士はあまり気づいていない。故に周りから向けられる変な視線にも一切動じていなかった。
 佐藤との立ち話もそこそこに買い物を続けるリリス。陳列棚を見ながら商品を吟味しつつ、使い魔レイの事を考える。
「……ああは言ったけれど、レイが私のためにがんばってくれているのは事実だからね。一仕事終えたご褒美くらいは用意してあげようかしら」
 レイの好きな食べ物は何だったかしら、と頭に浮かべながら食品売り場を回る。
 レシピと冷蔵庫の残り物を思い出しながら、あれこれと買い物かごに放り込む最中、リリスの目に一組の母子が留まった。
「ねえ、ママ、きょうはわたしもおりょうり、てつだうね!」
「あらあら、お利口さんね。それじゃあいろいろ頼んじゃおうかしら」
 買い物かごを乗せた台車を押す母親と、その横で楽しそうに会話を重ねる小さな女の子――年の頃は四、五歳くらいだろうか――を見て、かつての思い出がリリスの胸をよぎった。


『お母さま、お父さまのお誕生日用のケーキ、フルーツの盛り付けはわたしがやります!』
『ありがとうリリス。じゃあ、ここに切り分けてあるフルーツをキレイに盛り付けてくれるかしら?』
『もちろんです! 大船に乗ったつもりでリリスにお任せください!』
『うふふふ、頼もしいわね』


(――私もよくお母様のお手伝いをしてたわね)
 いつも優しかった母のことは今でも鮮明に覚えている。うっかり皿を落として割ってしまったときだって、母は怒らずにケガがないかを心配してくれた。
 キッチンにいけば料理の仕方を教えてくれたし、部屋をきれいに掃除したら優しく頭をなでて褒めてくれたのだ。
「――セール開催中! タイムセール開催中です! 早い者勝ちですよ!」
 リリスがかつての記憶に思いを巡らせていると、スーパー中にタイムセールのアナウンスが鳴り響いた。
「……と、いけないいけない」
 リリスは目の奥に少し熱いものを感じたが、上を向いてごまかした。
 どれくらい立ち止まっていたのだろうか。母子の姿はすでに遠くなっていた。
 リリスは遠くからでもわかるくらい仲睦まじい彼女たちをうらやましそうに見つめていたが、やがてそっと視線を外した。

 それから買い物の続きを終えたリリスはレジでの精算を終えて、買い物袋をぶら下げてスーパーをあとにした。
 帰り道はいつも人気の少ない道を選ぶ。単純に、人通りの多い表道を人と肩がぶつかりそうになりながら歩きたくないという思いもあるが、今日の理由はそれだけではなかった。
「……どうしてなのよ」
 一人つぶやいたリリスの頭には、さっきスーパーで見かけた仲の良い母子の姿が思い起こされていた。
「……どうして私からお父様も、お母様も奪っていってしまったの……私の大切な、大切な家族を。ねえ、どうしてよ!?」
 言葉が、想いが口の端からこぼれ出す。まわりに人はいなかった。別に誰かに聞いてもらい、同情してほしかったわけではない。それでも悔しさがあふれ出た。
 普段は毅然とした振る舞いをしているが、リリスは幼いときに家族を亡くしている。ましてや、まだ中学二年生だ。どれだけ大人びた性格でも社会から見れば子どもとして扱われる年齢だ。
 世間では様々な家族の形態があるが、家族を亡くした子どもはどれだけいようか。
 リリスはまごうことなく悪魔だ。だが、同時に一人の少女でもあった。家族と当たり前のように生活をしたかったし、成長していく自分自身の姿を見せたかった。
 こういう孤独感に苛まれることは、リリスにとって初めてではなかった。それでも徐々に機会は減っていった。孤独で胸がいっぱいになるとき、ふと思い出す笑顔があったのだ。
 ――はるかだ。
 リリスは思い浮かべていた。家族がいないが、今はかけがえのない親友がいる。そして、少しドジでおっちょこちょいな使い魔も。
「……うん。帰ってご飯、作らないと。レイの奴、はりきって出て行ったから、お腹を空かせてすぐに帰ってくるかもしれないわ」
 はりきって出て行かざるを得なかったのは他ならぬリリスのせいだとも思われるが、はるかとレイのことを考えながら、再び足を動かし始めた、そのとき――

「見つけたぞ。魔王の忘れ形見……」

 唐突に正面から声をかけられた。
 人気のない道でうら若き女子中学生が男に声をかけられたとあれば、通常であれば事案ともいうべき状況であり、普通の少女であれば急いでその場から離れたであろう。
しかし、普通の人間たちが知らないはずの自分の素性を知っていることに、一つの確信を抱きながらリリスがゆっくりと前を見ると、洗礼教会の司祭であるエレミアが不敵な笑みを浮かべ立ち塞がっていた。
「私の正体を知ってるってことは、あんた洗礼教会の手先ね……」