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ディアブロスプリキュア!

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黒薔薇町 悪原家

「リリスちゃん! 駅前のケーキ屋さんでおいしいケーキ買ってきました! 一緒に食べましょう」
「ありがとう、はるか。遠慮なくいただくわ」
学校を終え、はるかはリリスの自宅で午後のひと時をくつろいでいた。リリスは幼い頃に両親と死別している。親戚は居るらしいが長いこと行方がわかっていない。そのため、彼女は幼少の頃からほとんど一人暮らしに近い生活をしていた。はるかは天涯孤独で一人ぼっちだった彼女が初めて心を許した女子だった。
 紅茶を飲んで他愛ないことを話しながら、リリスはコースターにカップを置き、おもむろに口を開く。
「それにしても、はるかも物好きよね……風紀委員なんかに立候補するなんて」
「ですがカッコよくありませんか! 校内で起こっているトラブルを解決する正義のヒーローみたいですし……私、将来は警察官になろうと思っているんです!!」
 今日のホームルームのことだった。クラスの中から風紀委員を決める話が持ち上がった際、はるかは真っ先に手を上げ、自ら風紀委員に立候補した。リリスは幼少期から変わらない彼女の正義感の強いところに驚きと呆れを抱くも、いかにも彼女らしいと内心思った。
「そう。ならがんばりなさい」
「はい、がんばりますよ!! リリスちゃんが応援してくれれば百人力ですね!!」
「応援? あら、私は何もしないからね、言っとくけど」
 聞いた瞬間、はるかは口に含んだばかりの紅茶を盛大に噴き出し驚愕する。
「えええぇぇ――!? リリスちゃん、応援してくれないんですか!?」
「甘いこと言わないでちょうだい。自分の道は自分で切り開くものよ。他人の力をアテにするものじゃないわ」
「あ、アテになんてしているつもりなんてありません! 私はただ一人の親友としてリリスちゃんに背中を押してもらえたことが嬉しかったんですよ……なのにそんな冷たい態度を取るなんて、本当にリリスちゃんはひどいです。悪魔ですよ!」
 それを聞いた瞬間、リリスはおもむろに立ち上がり、そして――
バサッ……と、背中からコウモリに似た黒い翼を生やした。
はるかがあちゃー、口が滑ったと苦い顔を浮かべる中、薄ら笑みを浮かべながらリリスは言う。
「私、悪魔ですけど……それがどうかしたの?」
 誇らしげに口にするリリス。コースターに空っぽになったカップを置くと、はるかは深く溜息を吐いた。
「……そうでしたね。リリスちゃんはまごうことなき悪魔でしたね……うっかり忘れていたはるかがバカでした」
「わかればよろしい」
 背中に生やしていた悪魔の翼を体内へと戻し、リリスは着席する。
 何を隠そう、リリスは人間の姿をした悪魔である。彼女の本名は【ディアブロス・ブラッドリリス・オブ・ザ・ベリアル(Diablos Blood Lilith of the Belial)】。悪魔界では五指を連ねる名門「ベリアル家」の御令嬢だ。
しかし十年前のある出来事をきっかけに、彼女は住み慣れた悪魔界を逃れ、ここ人間界へと移住したのだった。

――バタンッ!!

「ただいま戻りましたぁ――!!」
 次の瞬間、勢いよく玄関の扉が開かれたと思えば、黒いスーツ姿の男が家の中へと入ろうとした。が、次の瞬間、
 ゴギッ……
「ああああぁぁ!!」
 運悪く蹴躓いてしまった。前のめりに体勢を崩した男は持っていた書類の束を床にまき散らして、顔面から派手に転倒した。
「は、はひ!? 今の声は……!」
「あのバカ。何やってるのよ」
玄関から聞こえてきた声に反応し、はるかが目を見開く中、リリスは呆れた様子で言葉を発してから、腰を上げ玄関へと向かう。
二人が玄関へたどり着くと、男は未だ腰が上がらないのか、床の上で這いつくばったままだった。
「お帰りなさい、レイ」
「お邪魔してま――す、じゃなくて!! だ、大丈夫ですかレイさん!?」
「いててて……リリス様……どうにか新規の契約を獲って参りました……」
 真っ赤に腫れ上がった顔をあげ、正面の主たるリリスを見ながら、レイと呼ばれる男は散らかした書類を拾い上げ、束を彼女へ手渡した。
「ご苦労様。じゃあこれ……はい、次の契約もお願いね」
 表情一つ変えずにそう言うと、リリスは段ボール箱の中から魔法陣が印刷されたチラシのような束を大量に持ってきて、レイの下へと置いた。この瞬間、レイは自らの目を疑い、思わず声をあげた。
「リ、リリス様……あなたは使い魔使いが荒すぎます!! わたくし、あなた様のために身を粉にして町中を走り回って来たのですぞ! そして、目標契約数一〇〇件のノルマを終え、はるばる帰還した次第……しかし!! 帰ってきて労いの言葉もほとんどなく何食わぬ顔で私の手の中にポンと。これはいくら何でも理不尽過ぎますぞ!!」
「あら、使い魔が主人の命令に刃向うって言うの? 嫌ならいいのよ、別に。代わりの使い魔なんかいくらでも作れるんだから。ここで消し炭にされたところであんたに文句は言えないのよ」
 レイは取り立てて邪悪なものをリリスの瞳から感じ取った。日頃から自分に厳しい主人に睨みを利かされ、途端に萎縮した。全身から冷や汗が流れ出る中、彼女に逆らったときにどのような恐ろしい結果を招くかを想像し身震いする。
「も、ももも、申し訳ございませんでした!! 分際を弁えぬ発言、どうかお許しください!!」
 そして、すぐに生意気な口を叩いたことを謝罪した。
「わかったならさっさと行きなさい。いいこと……もっともっと契約を獲ってもらわないと、困るのはあなただけじゃないの。他ならぬ、この私なんだからね」
「承知しております!! では、リリス様の為にこのレイ、命を懸けて行って参ります!!」
 レイは主人から渡された段ボール箱を手に取り、機敏な動きで玄関から再び外へと向かって走り出した。
 二人のやりとりを横で眺めていたはるかは、静けさを取り戻した玄関を後にして 部屋に戻ったのち、リリスに向き直ってつぶやいた。
「あのー、リリスちゃん。レイさんに少し厳しすぎませんか?」
「あれくらいでいいのよ。第一、群れから外れて瀕死寸前だったところを私に助けられた恩があいつにはあるのよ。もっと主のために献身的になってもらわないと」
 リリスは澄ました顔でカップを手に取り、優雅に紅茶を啜る。
「正しく悪魔ですねリリスちゃん……」
「だから悪魔だって言ってるじゃない」
 自らが悪魔である以上、リリスはそのことを誇りに思っていた。ふと壁に掛けられた時計を見れば、時刻は夕方の五時を過ぎていた。
「あら、もうこんな時間。お夕飯の買い物に行かなくちゃ」
「では、はるかはこれでお暇させていただきます」
 帰りの頃合いを見計らい、はるかはハンドバッグを手に取り立ち上がった。
「気をつけなさいよ。私みたいな悪魔が他にもいるかもしれないから」
「リリスちゃんみたいな悪魔はそうそういませんよ!」
 悪魔の友人が目の前にいるとはいえ、彼女と同様の存在が他にも自分たちの住む町にいると、あまり考えたくもないはるかだった。

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