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梅嶺小噺 1の三

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「あwwwwww、痛たた、、、。」
「まだ痛むのか?、小殊??。」
「う〜〜〜、、今日は何だか特に酷いや、、。」
林殊は、靖王に怪我の治療を頼んでいた。
父親の林燮には、猪退治に行って返り討ちにあったなどと、口が裂けても言えなかった。
無様にやられたのだ、格好が悪かった。
そして事実を言って、靖王を危険に晒した事を、どれだけの怒られるか、、、。
靖王の治療は、どこかの町医者に見てもらうよりも、腕は確かなのだ。
それに、その辺の医者に通えば、どこからともなく噂になり、きっと林燮の耳にも届いてしまうだろう。
あの一件から、四日が経った。
林殊の傷は目に見えて回復している。
傷の深い所でも、見た目にはすっかり塞がり、硬い瘡蓋になっていた。浅い所など、瘡蓋が剥がれているのだ。
傷口は腫れも膿も無く、熱も持ってはいなかった。

恐ろしい回復力だ、と靖王はつくづく思う
だが、まだ痛むと言う、、、。あれだけの深い傷だったのだ。
まだ、深部が癒えていないのかも知れないと、靖王は思った。

「あ〜〜、喉が乾いた!。お茶出して。」
「そうか、、待っていろ、、、。
おい、誰か、、、、いないか?。」
シンとして、誰の返事も返ってこない。
無理もない、普段、靖王の書房に従者など置いてはいない。
靖王府へ客人が来れば、炊屋の従者が、用を伺うのだが、あいにく林殊は客とは思われていない。
「、、、あ、、、。そうか、、、。」
ここでようやく、誰もいない事に靖王が気付く。
「仕方ないな、、。用意をさせる、しばらく待っていてくれ。」
靖王は立ち上がり、書房の入口へと向かって行った。
「あっ、、小腹も空いたから、なんか茶菓子も!。」
「分かったー。」
廊下から靖王の声が聞こえた。
猪退治から帰ってからというもの、万事この調子なのだ。
靖王の為に怪我をしたと、それを盾にして、林殊は良いように靖王を使っていた。
『自分でせよ』と断ればいいものを、靖王も、林殊を痛い目に遭わせてしまった負い目もあり、良いように使われていた。
林殊は、『痛い、、』と時折漏らしては、靖王の申し訳ない心を揺さぶるのだ。
「ふんふんふふんふーん♪♪♪♪。」
もう靖王は自在に扱える、、、そう林殊は確信した。



次の日も、ご機嫌な林殊が治療に靖王府を訪れる。

「なぁなぁ、景琰。皇宮に西域の弓と剣が有るって知ってる?。」
治療が終わると、林殊はこんな事を言うのだ。
「あぁ、一度だけ。小さい時に景禹兄上に付いて行って、見た事がある。」
「えっっっっ!!!!、ホントに!!!!。
景琰、見たの!!!。」
━━━しまった!━━━
靖王はそう思った。
靖王の背中に、嫌な悪寒が、じわじわ上がってくるようだった。
「いや、幼い頃に一度だけだし、もう誰かに下賜されているかも知れないし、、、第一、私如きが、簡単に見られる場所には無いのだ。
景禹兄上だとて、そう簡単には入れぬ所だぞ。」
林殊は、恐らく見たいのだろう、、、赤焔軍の義兄からか、、または父親林燮の友人か、、誰かから吹聴されたのだ。
西域の国から、かつて友好の為に送られた、宝物の中の一つだった。
宝石や黄金の中の宝物の中で、一際、異彩を放っていた。
宝石も飾りも無い、極めて実用的な大弓と剣。
大弓は北方の国の大角牛の角を使った、とんでもない強弓だという。
そして剣は、名工が黒鉄を叩き、作ったのだと言う。余りにも硬い鋼で、流石の名工も、普通の剣の倍、叩き込まねば、完成しなかったという名品であった。
贈られた時、梁の帝位に就いたばかりの簫選には、この二つがどれ程価値のある物か、知る由も無かったのだ。
名のある銘品ではあるまいと、実用品のを贈られた位にしか、思わなかったのである。
ところが、この二品を見た武人は皆、度肝を抜かれ、響めき立った。
その様子に、梁帝はこれが、どれだけの品なのかを、知ったのだ。
人が欲しがる程に、簫選は他の者に与えるのが惜しくなり、皇宮の宝物庫の奥へと、この銘品は入れられる事になる。
いつか、大きな手柄を立てた者に、これらは与えられるに違いないと、臣下の武人は口々に噂し合ったが、簫選はすっかり忘れ去り、今は武人だけが覚えている。

林殊はこれを見たいのだろう。
一度興味を持ってしまうと、林殊は決して諦めないのだ。

「林主帥から、陛下に頼んでもらったら、案外すんなり話が進むんじゃないか?。」
「、、、、、いや、、無理だった、、、『くだらない』って、父上から一蹴された、、。」
「、、あ。」
既に林殊は、父親に試みていたのだ。
父林燮の言うことは絶対である。ダメと言われたら、もうそれで終わり、諦めなくてはいけないのだ。
「なら、晋陽伯母上に頼んでみたら、、、、陛下の妹であるし。」
「父より先に頼んださ、、、、。」
「え、、駄目だったのか?。」
「、、、、、、『騒ぎを起こしてくれるな』って、、、、泣かれた、、、。」
「あ───、、、。」
目に浮かぶ様だった。これ迄、幾度となく騒ぎを起こし、林殊の母親、晋陽公主は、その度に色々と大変だったのだろう。
林殊は万策尽きたが、それでも諦めきれず、ついここで漏らしてしまったのだ。
「景琰、剣を持ってみたいと思わないか?、、強弓を引いてみたいと思わないか???。」
「、、、、、そりゃ、、。」
「すっっっっごく重たい剣だって話だ。弓弦が強すぎて、誰も引けなかったって、、。触ってみたくないか??。」
「、、、、、。」
じっと自分の手を見て、自分が剣を握った感触を、想像してしまう靖王。
「、、、な?、景琰、、見たいだろう?。」
「、、、!!。」
そこではっと我に返る。
「駄目だ、見たくない!。」
「ちぇ────っ、話、分かんねえ奴〜〜〜。、、、良いよもう。」
林殊は言うと、ぷいっとそっぽを向いてしまった。
一度臍を曲げると、林殊の機嫌は中々直らない。
━━━無理だ、、、見つかったら、私だけでなく、小殊も罰されてしまう。小殊の事だから、忍び込むとか、そういう事だろう。
皇宮の宝物庫が、どれだけ厳重に守られてるか、小殊だって知らないわけがない。絶対に、今回だけは駄目だ。━━━
「小殊、茶を持ってくる。今朝、母から点心が届いたのだ。一緒に食べよう。」
「つ─────ん。」
林殊は無視するつもりの様だ。
「ほら、小殊が好きな点心だ。餅の中に黒蜜が入ってるやつ。」
林殊の背中がぴくっと反応する。
靖王は『良しっ』と思ったが、林殊はこちらを向こうとはしなかった。『もう一押しだ』靖王はそう思った。
「小殊も来るだろうからって、母は沢山寄越してくれたのだ。他に鴨肉を煮込んだ物も入ってたぞ。」
「えっ!!、鴨肉!!。」
━━━ほーら、こっちを向いた。━━━
靖王は満面の笑みだった。
━━━小殊のそういう所がまだまだ子供だ。━━━



だが翌日、何故か、二人は皇宮の宝物庫前の、庭木の茂みの中に隠れていた。
靖王の作戦は失敗に終わった。まぁ、見え透いていたのだ。
あの後すぐ、林殊ははっと我に返り、『その手には乗らない!』と益々意固地になり、むくれ続け、結局こうなってしまったのだ。
静嬪のお手製の点心でも、釣られなかった。余程あの宝物が見たかったのだ。
作品名:梅嶺小噺 1の三 作家名:古槍ノ標